第8話 サイレントとアリア、スケアード・スライムから逃げる
前回のあらすじ
サイレント、アリアの水浴びを覗こうとする。
サイレント、スケアード・スライムに襲われる。
「スケアード・スライムは群れで行動するんデス」
「何だって!! どうして群れでなんか行動するんだ。基本、スライムは単体行動じゃないの?」
群れという言葉を聞いて、ボクはすぐさま警戒態勢に入った。
風が吹いているのか、あちこちで木々のざわめきがするものの、魔物の気配は感じられない。
いつもより念入りに気配察知をしているから、魔物の気配がしないなら、先ほどのように不意を突かれることはないだろう……
「1体スケアード・スライムが出てしまうと、その地域に恐怖が伝染してしまい、すべてのスライムがスケアード化して、スケアード・スライムになってしまうんデス」
「へー、1体のスケアード・スライムが出ると、その地域のスライムがすべてスケアード・スライムになるのか」
ボクはアリアの言葉に耳を傾けながらも、暗闇で目を凝らす。
うん、魔物はいなさそうだ。
気配もないしね。
「そうデス。さらに厄介なことに、スケアード・スライムは、気配がないんデス」
「気配がない?」
どういうことだ?
「そうデス。師匠も先ほど、気配が読めなかったデスよね?」
「確かに、気配を読めなかったけど、たまたま、ボクの感知能力にひっかからなかったっていうだけじゃないの?」
いくら、ビビりなボクでも、体調が悪かったり、何かに集中しすぎている時は、感知能力がおろそかになるしね。
……って、アリアの着替えを覗きたかったわけじゃないんだからね。
勘違いしないでよね……って、ボクは誰に言い訳をしているんだろう。
「たまたまじゃないデス。スケアード化した魔物だけは、まったく感知できない特別な魔物なんデス」
「えー、スケアード化した魔物なんて聞いたことないけどな」
冒険者をして長いけど、そんな話聞いたことはない。
「それは、そうデス。魔物のスケアード化なんて滅多にならないんデスから」
「何でならないのさ?」
「冒険者はスケアード化する前に、魔物を倒すか、逃がすかするからデス。でも、倒しもせず、逃がしもせずに、恐怖を与え続けると、まるで死んでいるかのように、魔物の気配も消えるんデス」
「へー、そうなんだ」
そういえば、『魔物にあったら倒すか、逃げるか。絶対にいたぶるな!』……って標語があった気がする。
きっと、スケアード化対策だったんだろうな……
「それにしても、今日は風がないので、蒸し暑いデスね」
「そうだね。風がないもんね」
ん?
風がない?
「……って、ちょっと待って。風もないのに、周りから『がさごそ』と音がしているんだけど、それってもしかして……」
「はい、おそらくデスが、スケアード・スライムに囲まれているデス。スケアード・スライムは音に敏感デスから」
「それを先に言ってよ!!」
こんなところで立ち話している余裕なんかなかったじゃないか!!
「師匠、そんなに大声を出したら、スケアード・スライムが、群れになって襲ってくるデスよ!!」
「……って、言っているアリアも声が大きい!!」
あちこちの茂みでがさがさと音がなり響いたかと思ったら、音が止まった。
「ねえ、アリア、辺りがしんと静まり返ったけど、もしかしてだけど、これって……」
「『嵐の前の静けさ』というやつデスね」
全方向から、がさごそと音がし始めた。
「少なく見積もって、100匹はいるデスね」
そっか、100匹か……
100匹って、どれくらいか分からないけど、とにかく多いってことだよね。
「そんな冷静に分析している場合じゃない。逃げるよ、アリア!!」
「え? でも、強くてもEランクデスよ? この程度の数なら倒したほうがはやいんじゃないデスか?」
言いながら大鎌を構えるアリア。
ちょっと、待ってよ、アリア。
相手はEランクだよ?
Sランクのダークドラゴンにタジタジだったのに、どうしてEランクを倒せると思っているの?
その自信はどこから来るの?
こっちは、Fランク冒険者のボクと新米冒険者のアリア。
向こうは、Eランクの集団。
逃げるという選択肢しかないでしょ。
「逃げたほうがはやいよ」
「そんなことないデス。迎え撃った方がはやいデス」
このままじゃ、意見は平行線だ。
こうなったら……
「アリア、逃げるテストだ」
「逃げるテスト……デスか?」
「そう。魔物100匹以上から逃げる機会なんか、なかなかないよ」
「確かにそうデスね」
「この鬼ごっこに逃げ切ることができれば、きっと、アリアの速さはレベルアップするよ」
「レベルアップ……デスか?」
目を輝かせるアリア。
思った通りだ。
アリアは強くなりたいんだから、レベルアップという言葉に反応した。
「だから、逃げるよ」
「待ってください、師匠!! まだ足が本調子じゃなくて、歩くことはできるデスが、走るのは難しそうデス」
そうだった。
アリア、足を負傷していたんだった!!
「アリア、ボクの手を握って!!」
「分かったデス」
ボクはアリアと手をぎゅっと繋ぐ。
「よし、瞬動連発!!」
瞬動を何回も使って、アリアを浮かしながら移動をする。
「これだけ逃げれば……」
振り返ると、そこにはスケアード・スライムがすぐそばまで来ていた。
なんで全速力で逃げたのに、ついて来ているの……
ボクはあたりを見回す。
すると、どこもかしこも気配がないのにがさがさと動く気配がした。
ついて来ているんじゃない。
そこら中にスケアード・スライムがいるんだ。
「はぁはぁ、どうする……」
瞬動を連発したので、だいぶ息が切れている
もう、何回か瞬動を使えば、体力が切れてしまうだろう。
さて、どうする?
忙しい人のためのまとめ話
サイレントとアリア、スケアード・スライムから逃げる。
サイレントとアリア、スケアード・スライムに包囲されていて逃げられない。