第6話 サイレント、ブリジットに話をスルーされる
前回のあらすじ
サイレント、ピンチに陥るが、パーティーのヒーラーにまでも助けられる。
その後、魔物の素材を回収。
「さて、ひと笑いしたし、帰るぞ!!」
「うん、そうだね。あ、そうだ、ボク、ダンジョンの入り口まで先行しようか?」
こういう時こそ、斥侯であるボクの役目だ。
「ばーか。その必要はねーよ」
ラカンはボクにチョップしてくる。
「何でさ? 入り口までの道中、モンスターに襲われたらどうするのさ」
ボクは口を尖らせた。
「ファイヤー・ウルフはこのダンジョンの中では深層にいる強い魔物だ。そのファイヤー・ウルフの獣臭がしていたら、上層の弱い魔物は近寄って来ねーよ」
「それもそうか」
さすが、ラカンだ。
ダンジョンのことを知り尽くしている。
さすがは頼れるボクらのリーダーだ。
「納得したなら、はやく、行くぞ!」
ボク達はダンジョンの出入り口へと向かった。
…………
……
「ふう、やっと着いたな」
ダンジョンから出たラカンが独り言ちた。
「そうだね。ラカンが言うように、魔物は出なかったけど、深層まで行っていたからね」
前日の夜から探索していたのに、あたりはすでに暮れなずむ時間帯だった。
夜が迫っているのに、まだ蒸し暑く、蝉たちの喧噪も聞こえる。
「体調はどうだ?」
健康チェックを始めるラカン。
健康チェックと言っても、パーティーメンバーに、自分が健康であるかどうかを自己報告させるだけだけれど。
「私は、だいぶ歩いたから、脚が筋肉痛。あ、そうだ、ブリジット、わたくしにヒールを使ってよ」
アイズはブリジットにワガママを言う。
「あ、あの、えっと、その……」
分かりやすいように狼狽えるブリジット。
おそらく、筋肉痛で魔法を使うのには抵抗があるのだろう。
そりゃそうだ。
魔法を使えば使った分だけ精神にくる。
ちょっとした魔法でも、朝からお昼までドミノ倒しを作り続けた時くらいの精神的な疲労があるのだ。
ヒールはそれなりの魔法なので、精神的疲労はかなりあるはずだ。
「その程度の筋肉痛なら、唾でもつけとけ」
「唾万能説を提唱するラカンには言ってませーん。ブリジットにお願いしているの」
「ブリジット、こんなわがまま聞かなくていいからな」
「あ、あの、はい」
ブリジットはこくりと肯く。
「ブリジットのイジワル」
「イジワルとかの話じゃないんだ。ブリジットの顔色を見てみろよ」
「あれ? 青白い。どうしたの? ブリジット?」
「あ、あ、あの、大丈夫です」
うん、分かるよ、ブリジット。
孤児院の頃からリーダーであるラカンと女友達のアイズとで板挟みにされているもんね。
具合が悪くなくても、眉が八の字になって顔は青ざめちゃうよね。
「無理すんなよ」
「ちょっと、ラカン、ブリジットに優しすぎじゃない?」
うん、分かるよ、アイズ。
アイズは孤児院に居たころからラカンのことが昔から好きだもんね。
ラカンがアイズに優しくしていたら、妬いちゃうよね。
「そんなことねーよ!!」
「そうかしら?」
「勇者である俺様は、全員の健康を心配しているだけさ。アイズの健康も確認しただろ?」
「まあ、そうだけどさ」
渋々納得するアイズ。
「そういうことなんだよ。よし、全員健康状態は良好!」
うん、分かるよ、ラカン。
アイズとブリジットが健康状態良好なら、全員大丈夫だね……
……って、え?
「ボクの健康状態は確認しないの?」
もう、ラカンったら、ボクの健康状態を忘れているぞ。
まったく、そそっかしいところがあるんだから。
「お前は確認するまでもない。ファイヤー・ウルフに追い込まれただけで、何もしてないんだからな」
「いやいや、ファイヤー・ウルフに追いかけられたよボク」
「そんなわけないだろ。あいつの最高速度は180キロを超えるんだぜ!? もし、追いかけられでもしたら、お前は背中からガブリと噛みつかれて、既にあの世にいるぜ」
「いや、でも、ボク追いかけられたよ」
「あのな、サイレント、ブリジットに回復して欲しいからってウソはいけないぞ」
「ウソじゃないよ、ブリジット」
ブリジットに誤解されてたくないので、ボクはブリジットに訴える。
「や、や、やりました。レベルが42に上がっています!!」
話を完全にスルーされた。
ブリジット、時々マイペースなところがあるからなー。
いや、まあ、いいんだけどね。
「レベル42? この前までレベル40だったよな? 本当にお前のスクロールか、ブリジット?」
「そ、そ、そうですよ。他の方のと間違えないように名前が書いてありますし」
「本当だ。確かにお前のだ。レベル42なんて、すごいじゃないか、ブリジット!! 人間の最大レベルは50だろ? 聖女と呼ばれる日も近いんじゃないか?」
「ブリジット。レベルアップおめでとう」
話の流れで、ボクも心からブリジットのレベルアップを祝福する。
「お、新しいスキルも覚えているじゃないか……念話でいいのか? 補助魔法は詳しくないけど、何か強そうなスキルだな!!」
「ね、ね、念話はパーティーメンバー内で、心の中の会話を可能にするスキルです」
「なんか面白そうなスキルだな」
「そ、そ、そうですね」
「うう、わたくしは、まだレベルが上がってない……」
ブリジットを褒めちぎるラカンの姿をみて、自分も褒められようと思ったアイズが自分のスクロールを開きながら残念そうにつぶやいた。
「と、と、ところで、サイレントさん、さっき何か言ってましたか?」
「あー、いや、何でもないよ」
「そ、そ、そうでしたか」
忙しい人のまとめ話
勇者パーティー、ダンジョンの入り口まで戻る。
健康チェックとレベルチェックをする