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第4話 サイレント、水辺で薪を取り出す

前回のあらすじ

アリア、足をひねる。

サイレント、アリアの脚を冷やすための水源を見つける。

 

「どうかな、アリア?」

「深さは足首がつかる程ですが、綺麗な湧き水が流れていてので、水浴びをするには問題ないはずデス」

 ボクが見つけた水源まで案内すると、アリアは嬉しそうに答えた。


 ボクには、どこからどうみても雨上がりの水たまりにしかみえないんだけど、本当にここで水浴びをする気なのかな?


「そっか。まあ、喜んでもらえたなら何よりだよ」

「これなら、時間をかければ、全身の汗も流せそうデス」


「それは良かった。そういえば、喉が渇いたな」

 ジャンプしたり走ったりしたからな。

 あーあ、水筒の中に水があれば、たくさん飲むのにな……

 水筒はアリアに渡しちゃったし……


 ……って、目の前に水があるじゃないか。

 ボクは湧き水を両手ですくう。

「師匠、待つデス!!」

「どうしたの、アリア?」

 そんなに必死になって。


「その水飲む気デスか?」

「うん、そのつもりだけど」


「ダメデス。山の中の湧き水は生で飲んじゃダメデス。あとでお腹を壊すかもしれないデス!!」


 へー、生の水って、お腹壊すんだ。

 知らなかった。


「そうだよね」

 知らないことがばれたらバカにされるかもしれないから、知ったかぶりをしておこう。


「飲むなら煮沸しないとデス」

「そう、『煮沸』しないといけないんだよ」


『煮沸』という言葉自体を知らなかったので、オウム返しでうなずく。


「そうデスよね。それなら、すぐに火を起こすデス」

「こんなに暑いのに、火がいるの?」

 水浴びをして全身濡れたとしても、放っておいたら、すぐに乾きそうなくらい暖かいのに……


「火が無いと水は温められないデス。温められないと煮沸もできないデス」

「まあ、そうだよね」

 なるほど、『煮沸』って、水を温めることだったのか!


「それに、水浴びしている間は無防備デス。そんなところに魔物や野生動物が襲ってきたらひとたまりもないデス。そういった事故を防ぐためにも、火は絶対に必要なんデス」

「へー、そうなんだー」


 知らなかった。

 火って、そんなに重要なんだなー。


 だから、いつもラカンはアイズに頼んで、魔法で火をおこしてもらっていたのか……


「師匠、知らなかったんデスか?」

「うん、知らなかったよ」

 まずい、いつもの調子で肯いちゃった。


「でも火を起こすのは冒険者の基礎デスよね?」

「えっとね、知らなかったっていうのは、アリアが火についての知識があることを知らなかったって意味だよ」

 うん、テンパり過ぎだね、自分。

 我ながら意味不明じゃないか。



「えっと、つまり、どういうことデスか?」

 言っている自分が分からないんだから、分かるはずないでしょ。


「つまりは、アリアが冒険者合格ってこと」

 ボクは無理矢理に話を切り上げようとする。


「良かったデス、アリア、師匠から冒険者認定されたデス。今日から冒険者を名乗るデス」

「あ、それは冒険者試験をきちんと合格してから名乗ってね」


 院長先生にアリアに冒険者を諦めさせて欲しいと頼まれている手前、そう簡単には名乗らせないよ。


「うー、残念デス」

 あからさまに落ち込むアリア。


「アリア、落ち込んでいる時間なんかないよ。火をつける準備が必要なんだから」

「そうだったデス。まずは、薪を集めるデス」


「その必要はないよ、アリア。薪ならあると思うから」

「師匠、何言ってるデスか? 今ここに薪になりそうな木々はあるデスが、今すぐ薪になりそうな乾いた木はないデスよ?」


「それがね、あるんだよ、薪。マジック・バック!!」

 ボクは何もない空から薪を取り出す。


「えーっ!? 師匠、マジック・バック使えるんデスか?」

 滅茶苦茶驚くアリア。


「うん」

 ボクはこくりと肯いた。



「ポーターの適性がない冒険者はマジック・バックの魔法を使えないんじゃないんデスか?」


 あ、しまった、秘密だったのに、アリアの前で使っちゃった。

 ここはなんとか誤魔化してマジック・バックを使えないフリしないといけないぞ。


「何を言ってるんだ、アリア。ボクがマジック・バックを使えるわけないじゃないか」

「そうデスよね。師匠はアサシンなのにマジック・バックが使えるわけないデスよね」

「その通りだよ、アリア。あはは」

 良かった。

 薪はそこら中に落ちているのに、アリアが信じてくれて。


「ところで、師匠、薪があり過ぎて困ってるので、しまってもらってもいいデスか?」

「うん、いいよ。マジック・バック」

 ボクは渡された薪をマジック・バックにしまう。


「やっぱり、師匠、マジック・バック使えるんデスね。どうして、アリアに嘘をついたんデスか? アリアは悲しいデス」

 ボクは大地に両手両膝をついた。

 何をやってるんだ、ボクは。

 アリアの巧妙な罠に引っかかってしまうなんて……


「アリア、これには、理由があるんだ」

「どういう理由デスか?」


「マジック・バックの魔法は、ポーターの女の子に昔教えてもらったんだけど、絶対に他の冒険者には他言無用にしてと言われていたんだ。だから、このことは誰にも秘密だよ」

 ラカン達がいないからって、うっかりしてマジック・バックの魔法を使ってしまった。


「分かったデス。絶対に言わないデス……これは、いわゆる秘密の共有というやつデスね」

 アリアは嬉しそうに顔をほころばせる。

 ボク、アリアを喜ばせるようなこと言ったかな?

 怒ってないなら、ま、いっか。


「よろしくね、アリア」

「でも、どうして秘密なんデスかね?」


「ボクにこのマジック・バックを教えてくれたポーターの子が言うには、アサシンがポーターもできたら商売あがったりになっちゃうから……らしいんだけど」


 ちょっと意味が分からない理由だったんだよな。

 詳しく聞いたらバカにされると思って、当時は『そうだよね』……って言って話を流しちゃったし。


「ああ、なるほどデス」

 うなずくアリア。


「何が、なるほどなの?」

「ポーターの適性がない冒険者はマジック・バックの魔法を使えないと言われているんデスよ」


「え? 冒険者はマジック・バックの魔法ってつかえないの?」

「そうデス。ポーターの適性がある人に伝えられる秘伝魔法だったはずデス」


 ボクにでも使えるのだから、みんな使えると思いこんでいたよ。


 そういえば、勇者のラカンも魔法使いのアイズもヒーラーのブリジットもマジック・バックは使っていなかった。


 魔力消費を抑えるためにあえてリュックを使っているんだ……と思っていたけど、そもそも、マジック・バックを使えなかったってことか。


「あれ? でも、何で、ボクはマジック・バックの魔法を使えるんだろう?」

「師匠は、とてもすごいんデス」

 そっか、ボクって、すごいんだ!!


忙しい人のためのまとめ話

サイレント、アリアを水源に連れて行く。

サイレント、マジック・バックが使えることがアリアにばれてしまう。


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