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第3話 サイレント、水源を見つける

前回のあらすじ

アリアの忠告を無視し狼煙をあげるサイレント、カバッカ町の人に見つかりそうになる。

逃げるサイレント、途中で狼を見る。




 

「まあ、分からないことを考えてもしょうがないよ。狼のことはひとまずなかったことにしよう」

「そうデスね。アリアも実際に実物の狼を見ていれば、何か分かったかもしれないデスが、何も見ていないので、なんとも言えないデスね」


 よし、今ここに狼なんかいなかった。

 うん、いなかった。


「えっと、何の話をしていたんだっけ?」

「迷子になったら、山を登るって話デス」


「そうだった。迷子になったら、山に登って地形を把握するんだった」

「師匠、山を登るデス……痛っ」

 アリアが小さな悲鳴をあげた。


「アリア、どうしたの?」

「足をひねったみたいデス」


「大丈夫?」

「こんな怪我、たいしたことないデス」

 ……とは言うものの、明らかにアリアの動きが鈍くなっている。


「ちょっと、見せて」

「あ、師匠、待ってくださいデス」

 ボクは無理矢理アリアのブーツをはぎ取る。

 アリアの脚は真っ赤になってはれていた。


「ごめん、アリア。ボクがさっき力ずくで引き込んだから……」

「大丈夫デス。師匠のせいじゃないデス」


「アリア、その脚じゃ自分で歩くのは無理だ。ボクがアリアを運ぶよ」

 ボクはもう一度アリアをお姫様抱っこしようとする。


 抱っこしようとするのだが、腕がプルプルと震えて、まったく抱っこできそうにない。


 あれ?

 なんでこんなに疲れているんだ?


 Sランクのドラゴンと戦っただけなのに。

 人生、不思議なことがあるものだ。


「師匠、抱っこは大丈夫デス」

「でも、その足じゃ歩けないよ」


「こんな怪我、水で冷やせば、すぐにでも治っちゃうデス」

「水だね、それならリュックの中にあるはずだ」


 ボクはリュックに手をいれる。

 あれ?

 ない。


 水筒はあるけど、中に水が一滴も入っていない。

 いつもなら必ず水は入れて持ち歩くのに。


 どうしてこういう時に限って……あ、そっか。

 カバッカの町を追い出されたから、水を汲む時間なんかなかったんだ。


「アリア、ごめん、今、水がなくて」

「仕方ないデス。何も準備せずに着の身着のまま町から出たんデスから」


「あ、でも、水があればいいんだね?」

「そうデス」

 良いことを思いついたぞ!!


「それならボクに任せて」

 ボクは這いつくばり、地面に耳をつける。


「師匠、いくら水が見つからないからって、土下座しても水は出てこないですよ」

「違うよ、アリア。今、地脈の音を聞いていたんだ」


「地脈デスか?」

「そう。地脈の水の流れる音を聞いて、近くに川がないか確かめているんだ」


 以前、ラカンがしていたことをマネしているだけで、本当は、ボクに地脈の音を聞くことなんかできない。

 アリアを安心させるためのパフォーマンスだ。


「さすが、師匠すごいデス!! アリアにはできないデス」

「これ位できないと冒険者にはなれないからね」


 ふふふ、町を出る前に院長先生に出された、アリアに冒険者を諦めさせるミッション、忘れてないんだからね。

 それにこれで水を探すことができれば、アリアの師匠としての威厳も保てる。


「師匠、その地脈の音を聞く技を教えてくださいデス」


 え?

 教えるって言っても、そんな技ないよ。

 正直に、無理だと伝えたら、師匠の威厳がなくなりそうだし……


「しっ、静かに。今、水の音が聞こえた気がしたんだ」

「ごめんなさいデス」


 ボクは無理矢理話を切り上げて、水脈を探し当てた感を出す。


「あ、この近くに川があるはずだ。ちょっと行って、水を汲んでくる!」

 もちろん、川を見つけたなんてのは嘘だ。


「待ってください、師匠。アリアが行くので、方角だけ教えて欲しいデス」

「え? 方角? どうしたの、アリア」


 方角なんて分からないよ。

 周囲を探索して水源を見つける予定なんだから。


「師匠に水を汲ませるなんてことさせられないデス」

「アリアは脚を怪我しているんだから、ここは師匠に甘えなさい」


「でも、それだと、冒険者なのに、これくらいの怪我で甘えるわけにはいかないデス」

 言いながら、アリアは大鎌を杖代わりにして立ち上がった。

「いいから、アリアは座ってって。アリアに怪我をさせたのはボクなんだから、それくらいさせてよ」


 本当は川なんて見つけてないから、おとなしくそこで座ってて。

 ボクは心の中で土下座をする。


「分かったデス」

 良かった。

 アリアが折れてくれて。


「それじゃあ、すぐに戻るから、隠れているんだよ」

「分かったデス。師匠、気をつけて」


 ボクは全速力でアリアが見えなくなるところまで全力で駆け出すと、大きく上にジャンプをした。

 ボクは山の頂上より高いところまで回転ジャンプして、景色を一望する。

 町か村かは定かではないがいくつかの民家の集落と、一軒家らしきものは見えるのに、肝心の水源がみつからない。


 なんてこった。

 今、ボクに必要なのは、そういう家じゃなくて、アリアの怪我を治すための水なんだよ。

 アリアに水源があるって言った手前、水源を探さないといけないんだから。


 あ、分かったぞ。

 空からだと、木々が邪魔して、川が見えないんだ。


 空からじゃダメだ。

 地道に走り回ろう。


 ボクは着地をすると、縦横無尽に走る。

 探せ、探せ、探せ、探せ。


 水がありそうなところは、どこだ?


 走っていると、目の前にちょろちょろとジョウロ並みの水量を出している湧き水があった。

 良かった。

 水源があった。


 ボクは水筒を取り出すと、そこに水を入れ、アリアのところに戻る。

「アリア、水だよ」

 ボクは水筒を差し出した。


「ありがとうございますデス」

 アリアは水筒を手に取ると、水で患部を冷やし始めた。


「ふう、痛みがひいてきたデス」

「それは良かった」


「師匠、痛みがひいてきたので、アリアを水源に案内行ってくれないデスか?」

「痛みがひいただけで直ったわけでもないでしょ? 水ならボクが汲んでくるよ」


「えっと、そうじゃなくて、水浴びをしたいんデス」

「水浴び? アリア、水浴び好きなの?」


「もちろんデス。清潔に保つのは淑女のたしなみデス。すぐに川に向かうデス」

 アリアは大鎌を持ちながらニコリと笑った。

 先ほどのように大鎌を杖の代わりに使っていないところをみると、どうやら本当に痛みはひいているようだ。


「あ、でも、ボクが見つけた水場は水たまりみたいなところだったから、水浴びには向いていないかも」

「水浴びできなかったとしても、水でひねった足を冷やし続けられるので、水源に行く価値はあるはずデス」


「そこまで言うなら、行ってみよう」

 ボクはコクリと肯くと、川へと向かった。


忙しい人のためのまとめ話

アリア、足をひねる。

サイレント、アリアの脚を冷やすための水源を見つける。





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