表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

54/372

第2話 サイレント、狼を見る

前回のあらすじ

道に迷ったので、サイレントは今後について相談する。

地図もないので、狼煙で助けを呼ぼうとするが、アリアに止められる。


 


「……師匠、狼煙に火がついているデス!!」

「え? そりゃあ、アリアから狼煙をもらったんだから火くらいつけるよ」


 ダンジョンに宝箱があったらとりあえず開けるし、モンスターを狩ったらとりあえず素材を拾うのと同じように、迷子になって狼煙があったらとりあえず火をつけるでしょ、普通。

 何を言ってるんだ、アリアは。


「そんなことしたら、アリア達の場所が分かっちゃうんデスよ?」

「そりゃあ、これだけ月明かりが明るければ、煙に気づいた誰かが、すぐにでも来てくれるだろうね」

 月の光に照らされる、一筋の煙。

 この煙が、迷子で困っているボク達の一筋の光になればいいな……


「はやく火を消すデス!!」

「何で? 火を消したら、誰も来ないじゃないか」


「来たら困るんデス」

「来たら困る? 言っている意味が分からないんだけど……」


 ん? 遠くに人の気配。

 ボクは耳をそばだてる。


 足音からして、重装備をした大人だ。

 これなら、すぐにでも助けてもらえそうだぞ。


「おい、狼煙の方向にサイレントがいるんじゃないか?」

「ははは、さすがにバカのサイレントでも、指名手配されているのに、まさか狼煙で自分の位置を教えるはずがあるまい。捕まれば死刑なんだぞ」

「うん、さすがに、そんなことはしないだろう。死刑で指名手配されれば、山の全域にわたって囚人者狩りをすることくらい知っているだろうしな」


 そうだよ、ボク、指名手配されていたんだよ。

 カバッカ町の人に見つかったらアウトだったんだよ。


 狼煙が迷子で困っているボク達の一筋の光になれるわけないんだよ。

 むしろ、奈落の底へと誘う毒ガスだよ。


 ボクは無言で狼煙を右手で握りつぶして、火を消した。


「……いいかい、アリア。ボクはあえて狼煙をあげたんだ」

「そうだったんデスね。でも、なんのためにデスか?」


 え?

 何のため?


 まずい、ここで正直に、指名手配されているのを忘れていたからね……なんて言ったら、バカだと思われてしまうぞ。


「アリア、囚人者狩りを知っているかい?」

「囚人者狩りって、町の警備兵が凶悪犯を追い詰めるために、近くの山や森ををしらみつぶしに探すことデスよね?」


「そう。カバッカの町では死刑囚の指名手配犯が出ると、すぐに囚人者狩りを始めるんだ」

「そうだったのデスね」


「ボクはそれを逆手にとったんだ。ボクを探している足音がする方と反対の方向に行けば、逃げきれる確率があがるからね」


 ボクは知っている難しい単語を並べて早口でまくしたてる。


「なるほど、そういうことだったんデスね」


 納得してくれるアリア。

 良かった。

 バカと思われなくて。


「とりあえず、こっちのほうから足音がしたから、反対の方向に行こう。念のために気配を消して、できるだけ音をたてないようにしながらね」

「分かったデス」

 ボク達は歩き始めると、すぐに崖にいきついた。



「行き止まりか……さて、右に行って急斜面を登るか、はたまた、左へ行って斜面を下るか、あるいは、ここから真っ逆さまに落ちるか……うーん、悩むなー」

「師匠、また、アリアを試しているんデスか?」


「え? あ、うん」

 もしかして、この悩みにも模範解答があるの?


「当然、登る道に決まっているデス」

「どうしてさ?」


「山で道に迷った時には、見晴らしの良いところまで登って、地形を把握してから目的地を決めるのが鉄則だからデス」

 そうだったのか……

 さすがはアリアだ。


 ……と感心していると、背筋がぞくっとした。

 何かがこっちに来る。


「アリア、草木の茂みに隠れるんだ」

「カバッカ町の人達デスか?」


「説明している暇はない。いいからはやく」

 ボクはアリアの手を強引に引っ張って茂みへと隠れる。


「きゃっ」

「しっ、静かに!」

 ボクは驚いて声を出すアリアの目と鼻と口を両手でふさぐ。


 びゅん。


 獣がとてつもない速さで風を切りながら、目の前を横切った。


 大きな体躯に、三角形の耳。

 ふさふさの白い毛が月明かりに照らされ銀色に輝いている。


 これは、狼だ。


 狼はボク達に気づくことなく、目にもとまらぬ速さでそのまま山を下り続ける。



「ふぅ、一安心だ」

 獣がだいぶ離れたみたいなので、ボクはアリアの顔から手を離しながら独り言ちた。


「ぜぇ、はぁ」

「どうしたの、アリア? 呼吸が荒いけど」


「師匠が口と鼻を塞いだせいで息ができなかったんデスよ!」

「ああ、ごめん」


「何があったか、説明して欲しいデス」

「見てなかったの、アリア? 大きな狼がすごい速さで、山の上から下っていったんだよ」


「師匠が口と鼻と一緒に目まで塞ぐから、見えなかったデス」

「あ、ごめん、目まで塞いじゃってたんだね。慌ててたから、つい。本当にごめんね」

 ボクは平謝りをする。


「慌てていたなら仕方ないデス」

 許してくれるアリア。


「それにしても、この山にも出るんデスね、狼」

「普段、この山に狼なんていないはずだよ」


「それなら、魔物のウルフだったんデスかね?」

「この山に、ウルフもいないはずだよ」


「それじゃあ、師匠が見たのはなんだったんデスか?」

「うーん、何だろう? あの大きさの狼なら、獣の狼にせよ、魔物のウルフにせよ、Eランク以上だということは分かるけど、それ以上のことはわからないな……」

「だいぶ大きな狼だったんデスね」


「まさか、ボク達があげた狼煙を見て、どこかの山とかダンジョンとかから、かけつけてきたとか? 狼煙って、狼のフンからできているんでしょ?」

「狼煙をあげたのはついさっきデスよ。その煙に反応して、他の山とかダンジョンから狼が来るなんてあり得ないデス」



「それじゃあ、昔から存在が確認されていないウルフが居たとか? それで、狼煙を見て、慌てて走ってきたんだ」

「この山って、罪人を捕まえるための囚人者狩りをしているんデスよね? そんな山で未確認生物が発見される可能性は低いと思うデス」



「いやいや、カバッカの人たちは適当だから気づけなかったんだよ」

「仮にこの山に狼が住んでいて、狼煙を見てかけつけてきたなら、山を下り続けずに、方向を変えてアリア達がいた方向へ行くんじゃないデスか? 狼は下り続けていたんデスよね?」


「確かにそうだ。それなら、あの狼は一体何だったんだろう?」

「何なんデスかね?」


忙しい人のためのまとめ話

アリアの忠告を無視し狼煙をあげるサイレント、カバッカ町の人に見つかりそうになる。

逃げるサイレント、途中で狼を見る。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ