第1話 迷子になったサイレント、アリアに相談する
第1章のあらすじ
勇者パーティーから追放されたFランクの冒険者のアサシン、サイレント。
カバッカ町の人たちからも誤解され、町に戻れなくなり、実質的には町からも追放される。
カバッカ町の近くで、魔王のペットであるSランクのダークドラゴンが町を襲おうとしていたが、サイレントが撃退する。
ドラゴンを撃退したのはいいが、道に迷ってしまった。
ボクはアリアをお姫様抱っこしながら、ホバッカの村に……向かえなかった。
「あのさ、アリア、ここは何処?」
「すみません、アリアには分からないデス」
そうだよね、アリアは初めてカバッカ町から出たんだもんね。
ホバッカ村までの道が分かるはずないよね。
「ああ、どうしよう……」
「もしかして、師匠もここがどこだか分からないデスか?」
「うん、実はそうなんだ」
「……ということは、迷子デスか?」
「迷子で済めばいいけど、下手したら遭難だ」
「遭難ということは、もしかしたら、サバイバル生活をしなければいけなくなるんデスか?」
そうなんだよ、アリア……と言ったら、アリアに不安になるかもしれない。
「いや、そんなことないよ」
「師匠、声が震えている上に裏返っていますが、大丈夫デスか?」
「もちろん」
大丈夫なはずがない。
誰か助けて!!
「いいかい、アリア。こういう時は落ち着くのが一番大切なんだ」
「さすが、師匠!! 遭難しても心は冷静デス」
心の中では大声で『誰か助けて!!』……って叫んでいるなんてこと、アリアには絶対に言えないな。
「さてと、こういう時は、適当に歩いてみるのが一番なんだ。運が良ければ、村に着くかもしれないしね」
アリアに安心してもらうために、根拠のないことを伝える。
「それは違うデス、師匠」
「え?」
「暗闇の中、闇雲に歩くと体力だけが消費されてしまって、危ないデス」
「え、あ、うん。そうだね」
そういえば、以前遭難した時も、ラカンが同じことを言っていたっけ…………
「師匠、もしかしてまたアリアを試しているんデスか?」
「……そう、その通りなんだよ、アリア。ピンチになった時、アリアが落ち着いて対処できるかが知りたくてね」
「そうだったんデスね。師匠が適当に歩くなんて言うから、おかしいと思っていました」
「あはは、その通り、ボクが適当なことを言うわけがないじゃないか……」
「そうデスよね。それで、アリア、合格デスか?」
「合格かどうかは、この後の行動次第かな。さて、アリア、次はどうする?」
「まずは、地図を見るのが定石デス」
「そうだよ、アリア! 地図だよ、地図!! さすが、アリアだ!! さあ、地図を見よう、アリア!!」
「分かったデス」
アリアは自分のポシェットに手を入れる。
「すみません、師匠、アリア、持ってないデス」
「え?」
「ドラゴンと戦っている最中にどこかへなくしてしまったみたいで……」
「なんてこった!」
「師匠は地図を持っているデスか?」
「持ってないよ、もちろん」
即答するボク。
だってボク、地図なんか読めないもの。
読めない地図なんか持っていても、荷物になるだけで、無用の長物だもの。
「落としたのではなくて、持ってないんデスか?」
ボクが即答したことに困惑するアリア。
そっか、ボクが即答したってことは、最初から持っていないのを知っていたってことじゃないか……
しまった、カバンを探ってから答えればよかった。
「あ、いつもは持っているんだけどさ、今日は……そう、急に町から追放されたから、家に置いてきちゃったんだ」
ボクの口から出てきたのは、饒舌なでまかせだった。
「そうデスよね。急に町から追放されたんデスから、仕方ないデス」
「うん。急に町から追放されたんだから、仕方ないよね」
良かった。
町から追い出されていて。
町から追い出されていなかったら、地図がないことを不審がられてた。
「どうしたんデスか? ニコニコして」
「追放、最高だなって思って」
「どうしてデスか? 町から追放されなければ、こんなサバイバルしなくてすんだデスのに」
「そうだよ、その通りだよ、アリア。追放されて喜ぶ人なんかいないよ」
追放されたのに、何で喜んでいるんだよ、ボクのバカ。
「その通りデス。こんなに優秀な冒険者である師匠を追い出すなんて、どうかしているデス」
頬を膨らませて怒るアリア。
いやいや、本当は優秀じゃないんだよ。
優秀ならそもそも、迷子になんかならないしね。
「まあまあ、追い出されてしまったものは仕方ないよ。ところで、地図がないけど、こういう時はどうすればいいでしょうか?」
「うーん、迷子になった時の定石は、狼煙で助けを呼ぶデスけど……」
言いよどむアリア。
そりゃあ、そうだ。
普通は狼煙を常備しているはずがない。
「狼煙なんてさすがに持ってないよ、ボク」
「アリアは持ってるデス」
「おお、さすが、アリア。狼煙を持っているとは。もう、花丸あげちゃう、これで助けを呼ぼう!!」
「ただ、今回の場合、狼煙が最善策とは思えないデス」
「どうしてさ?」
いいじゃないか、狼煙。
ここはどこかは分からないけど、カバッカ町とホバッカ村のどちらかには近いはずだから、きっと誰かが助けに来てくれるよ。
忙しい人のためのまとめ話
道に迷ったので、サイレントは今後について相談する。
地図もないので、狼煙で助けを呼ぼうとするが、アリアに止められる。