第51話 サイレントとアリア、ドラゴンの背中から落っこちる
前回のあらすじ
サイレント、ドラゴンのブレスに苦戦する。
アリアが捕まり、逃げようとするダークドラゴンに、サイレントは一撃を入れる
「どうやって、空まで来た、小僧!!」
「それは、ジャンプしてに決まってるじゃない」
「何? ここは、上空千メートルはあるぞ」
「さすが……デス……師匠」
アリアはせつなげに言う。
どうやら、まだ攻撃されているようだ。
「おい、何で、お嫁さんにしようとしている人に手荒な真似をしているんだ、お前」
アリアをエスコートして、町を滅ぼすとか何とか言っていたじゃないか!!
「お嫁さんだと?」
「ああ、そうだよ。ちょっと喋れるモンスターだからって、アリアに……お嫁さんになる人に攻撃魔法をかけるんじゃない!!」
ドラゴンがどんだけ偉いか知らないけれど、お嫁さんにしようとしている相手に対して、暴力するなんて許せない!!
「お嫁さんだなんて、師匠……」
顔を赤らめるアリア。
あれ? 何でアリアは顔を赤らめているんだろう?
ま、いっか。
「ふん、弱い小僧がほざきおる!!」
「ボクは強いよ!!」
「ふん、お前が強いだと?」
「本当デスよ。師匠はアリアより強いデス。アリア、師匠に勝負を挑んで負けているんデスから」
「それは真か?」
「本当デス」
「しかし、吾輩がエスコートを……」
「何が『エスコート』だ!! 攻撃してアリアを縛り付けるようなエスコートするお前なんかより、ボクの方が丁重にエスコートできるわ!!」
「主の方が丁重にエスコートできるだと? 主よ、それは魔王様に誓えるのか?」
「当たり前だろ!! 魔王様どころか、神様にだって誓えるわ!!」
「そうか。吾輩、契約を了承した」
了承した?
何を?
ダークドラゴンが言った瞬間、ボクの手首に黒い入れ墨のようなものが浮かび上がる。
「え? 何これ?」
ボクは全神経をとぎすまし、自分の体に何か異変がないかを確認する。
痛くも痒くもない。
とりあえず、呪いの類ではなさそうだ。
それなら、まずは、アリアを助けないと。
「くらえ!!」
ボクはダークドラゴンの喉元をダガーでかっきる。
「ぐはっ」
よしっ、ドクドクと血が流れ出るダークドラゴン。
これなら、致命傷になるはずだ。
「グラビティ・ブレス」
「だから、その攻撃はボクに当たらない……って、自分に攻撃をかけている!! その技は、補助用じゃなくて、攻撃用だったよね?」
分かったぞ。
喉笛を切られて、冷静な判断ができなくなってしまったんだ。
あわれなトカゲだな。
同情するよ。
「これでいいのだ、人間」
これでいい?
何を言ってるんだ?
ボクは黒い息の方向を見る。
息は、たった今切られた傷に当たっていた。
「えー、血が止まってる!!」
自分の攻撃魔法を応急手当に使ったのか。
くそっ、攻撃魔法を自分の止血に使うとは、恐ろしく機転が利くトカゲめ。
Sランクのくせに、生意気だぞ!!
「師匠、大丈夫デスか?」
アリアは立ち上がって聞いてくる。
アリアの様子から察するに、どうやら見えない攻撃はされていないみたいだ。
「大丈夫!!」
大丈夫と言ってはみたものの、ダークドラゴンをどうするべきか……
もう一度、同じところを狙ってみるか?
「人間よ、まさか吾輩がここまで追いつめられるとは思っていなかったぞ」
「ふはは、おそれいったか、空飛ぶトカゲめ」
「今回は引きあげるが、このことは魔王様に報告しておくからな」
何を言っているんだ、あのトカゲは。
突然変異のトカゲが魔王に会えるわけないだろ!!
「え? ちょっと待って。引き上げるって、どうやって?」
ドラゴンは上空でぐるりと体を一回転させ、そのままどこかへと飛んでいく。
「うわー」
ボクとアリアは頭からスカイダイビングだ。
「アリア、こっちへ」
ボクは空中で平泳ぎをして、アリアの元へ行き、お姫様だっこをする。
「よし、これで大丈夫!!」
「師匠、大丈夫じゃないデス。アリア飛べないから、このまま落ちたら、死んじゃうデス」
アリアは涙を上空へと流している。
へー、空中で涙を流すと下には落ちずに上に行くんだ。
初めて知った……って感慨にふけっている場合じゃないな。
「大丈夫だよ」
ボクはアリアを安心させるためににこっと笑った。
「何が大丈夫なんデスか? まさか、師匠、空を飛ぶスキルがあるんデスか?」
「ないよ」
「ないならどうするデスか?」
「アリアのその大鎌、貸して」
「鎌デスか? 良いデスけど」
「ありがとう」
ボクは大鎌を受け取り、足の下に置いた。
「これで大丈夫!!」
「鎌を足の下に置いて、どうするんデスか?」
「まあ、任せておいて」
「もう地面に激突するデス! ダメです!!」
アリアは思いっきり目を瞑った。
「大丈夫、ボクを信じて!!」
忙しい人のまとめ
サイレント、無自覚にアリアに告白して、ダークドラゴンが契約を了承する。
致命傷を負ったダークドラゴン、サイレントとアリアを背中から落とす。