第5話 サイレント、荷物持ちをする。
前回のあらすじ
サイレント、ピンチに陥るが、パーティーの勇者と魔法使いに助けられる。
だがしかし、一難去って、また一難。
もうダメだ……と思ったその時である。
「ホ、ホ、ホーリィ」
どもった声とともに、魔法の光の槍が、ファイヤー・ウルフの脳天を貫きピクリとも動かなくなった。
死ぬかと思った。
「ブリジット、ありがとう!!」
ボクは涙を流しながら振り返る。
「た、た、助けが遅れてすみませんでした」
「そんなことないよ、ブリジット」
ラカンとアイズに比べると、ブリジット、足が遅いもんな。
体力もないし、仕方ない。
「あ、あ、あの、サイレントさん、怪我はないですか? 怪我があれば治しますが……」
「怪我はないから大丈夫だよ」
ヒーラーでありながら、セイント系の攻撃魔法も使えるブリジットがボクを心配して声をかけてくれた。
「……ったく、ブリジットにまで迷惑かけやがって。魔物は首を斬り落としても油断するなって言ってるだろ!!」
「ごめん」
「……ったく、もし、お前が死んじまっていたら、ギルドに面倒くさい報告書を大量に出さなければいけなかったじゃないか!!」
あ、気にするところはボクの無事じゃなくて、そこなんだ。
「気を付けるよ」
「本当に気をつけなさい、サイレント。ブリジットはわたくし専用のヒーラーなんだから。攻撃魔法なんか使わせたらすぐに魔力が尽きちゃうじゃない」
ブリジットに抱き着きながら、強い口調で非難してくるアイズ。
「ごめん」
「お前専用のヒーラーじゃないだろ、アイズ」
ラカンはアイズにチョップをした。
「ブリジット、ラカンがチョップしたところヒリヒリする。回復魔法で治して」
「その程度のケガ、魔力を使うのなんかもったいない。唾つけて治せ」
「もうっ、孤児院の頃から、わたくしの扱いが酷いわよね、ラカン。リーダーなんだから、もっと平等に接してよ」
「一番疲弊しているのはヒーラーなのに、攻撃魔法を使ったブリジットだろ?」
「それはそうだけど」
「魔力を無駄にしないためにも、ヒールは無しということで」
「あ、あ、あの、ラカンさんはそう言っていますが、大した怪我じゃなくても、気軽に言ってくださいね。治して差し上げますから」
ラカンに聞こえないように小声で話かけてくるブリジット。
まじ、天使。
喋り出すとき、ちょっとだけ、どもってしまうところも、愛らしい。
「怪我はないから、大丈夫だよ」
ボクはサムズアップした。
「何コソコソ話してるんだ、サイレント。お前は、ぱっぱとファイヤー・ウルフの解体をしろよ」
「ごめん、すぐにするよ」
まったく、人使いが荒いんだからラカンは。
ボクはすぐさま、ファイヤー・ウルフに駆け寄る。
「おい、そのファイヤー・ウルフの体も襲ってくるかもしれないから、用心しながら解体しろよ。次は誰も助けないぞ」
「分かったよ」
ファイヤー・ウルフは頭だけでも動いていた。
もしかしたら、体だけでも動くかもしれない。
その可能性は考えていなかった。
ラカンに指摘されて、今度はダガーを片手に取って警戒しながら解体へと向かう。
「ほんとに救いがたいバカね。ファイヤー・ウルフは頭部さえ潰せば動かなくなるモンスター。今、ブリジットが完全に頭を潰したんだから、体だけで動くはずがないじゃない」
アイズがため息混じりの言葉は聞かなかったことにして、解体にとりかかろう。
…………
……
「終わったよ」
「結構時間がかかったな」
「ごめん」
みんなが側にいると緊張しちゃって……と言いたかったが、言い訳すんなとどやされそうなので、謝るだけにしておく。
ボクはファイヤー・ウルフの解体を済ませたリュックの中の素材をラカンに見せる。
「ファイヤー・ウルフ1体だけなのに、もうサイレントのリュックはパンパンか」
「大きかったからね、あのファイヤー・ウルフは」
パンパンなリュックを担ぎながらボクは話す。
「今日のところはもう戻るか」
言いながら、ラカンはため息をついた。
「いいの? 予定としては、もう1体倒したいって言っていたじゃない」
確か、2体は倒しておきたいって言っていたよね?
「予定としてはな。だが、今日の目的は修行じゃない。パーティーの運営費を稼ぐためのモンスター狩りだ。サイレントのリュックがパンパンになって、これ以上素材を持って帰れないのなら、もう狩りは必要ないだろ」
「あ、あの、それなら、私のリュックに入れればいいのではないでしょうか?」
ブリジットがおずおずと提案してきた。
「おいおい、ブリジットやアイズに獣臭の強い荷物を持たせるなんて、俺様にはできないぜ」
さすが、勇者ラカン、優しいな。
そうだよね、この臭さは耐えられないよね。
「ところで、ラカン。ラカンのバックは空だよね?」
「当たり前だろ」
「それなら、ラカンのバッグに入れればいいんじゃない?」
「本当にお前はバカだな。俺様のバッグに毛皮を入れられるわけないだろ」
「いやいや、入れられるでしょ。ラカンのバッグは余裕があるんだから」
確か、ラカンのバッグは空っぽのはずだ。
「いいか、サイレント、このバッグは、偶発的に宝を手に入れた時のものだろ?」
「うん、そうだったね。でも、お宝はなかったんだから、もう1体ファイヤー・ウルフを狩って、ラカンのリュックに入れればいいじゃない?」
「いれねーよ、ファイヤー・ウルフの毛皮なんてさ」
「どうしてさ?」
「そんなもん、持ってるだけで、体中が獣臭くなるじゃないか。勇者パーティーの勇者である俺様が獣臭くあってはいけないんだよ」
そっか、ラカンは勇者パーティーだもんね。
ん?
勇者パーティー?
「ええっ! それじゃあ、ボクは? ボクも勇者のパーティーの一員のはずだよね? ボクのリュックも獣臭くあっちゃいけないんじゃない?」
「お前は職業が勇者じゃないだろ!」
「あ、そっか」
「本当にお前はバカだな。お前は獣臭い素材を持ちながら、俺たちの太鼓持ちをしていればいいんだよ!!」
「ファイヤー・ウルフの素材は持ってるけど、太鼓なんて持ってないよ?」
「おいおい、本気で言っているのか? それとも、それも太鼓持ちの一つか?」
あれ? もしかして、バカが露呈した?
「もちろん、太鼓持ちの一つに決まっているじゃないか」
意味分からないけど。
「そうだよな、いくらバカでも太鼓持ちの意味くらい分かるよな?」
「あはは」
適当に笑ってごまかしておこう。
忙しい人のまとめ話
サイレント、ピンチに陥るが、パーティーのヒーラーにまでも助けられる。
その後、魔物の素材を回収。