第42話 サイレント、治安部隊に囲まれる
前回のあらすじ
サイレントとアリア、ほとんどの人を倒したと思ったら、司祭様がまさかの回復魔法。
回復した町人たちをもう一度倒し、最後に、アリアが大鎌で司祭様を止める。
ボクがうなずいたその時である。
「サイレント!」
ボクの名前を呼びながら駆け寄ってくる人影の集団。
「まだ仲間がいたのですか。師匠は少し休んでいてください」
アリアは大鎌を振りかぶり、瞬動を使って声の主のほうへ駆け寄る。
「ダメだ! アリア、その人は街の治安部隊だ」
たとえ峰うちでも、治安部隊に手を出したら、この町では住めなくなってしまう。
カキン。
ボクは瞬動をつかい、アリアと距離を詰めて、大鎌をダガーで受け止める。
くっ、なんて力が強いんだ、アリア。
今のボクの腕力じゃ受け止めきれそうにないな。
このままだと、ボクがアリアの大鎌でやられてしまう。
何とかしないと。
あ、そうだ、力をいなせばいいんだ。
ダガーを握っている拳の力を一瞬だけ抜いてから、もう一度力を入れなおす高等テクニック。
これを駆使して力をいなすしかない。
よし、一瞬だけ拳の力を抜くぞ!
「え?」
力を抜いた瞬間、ボクのダガーに気づいたアリアが、鎌の力の方向を逸らした。
その結果、ダガーが僕の手をすっぽ抜けて、吹っ飛ぶ。
ボクはそのダガーを目で追う。
「ぐはっ」
何ということだ!
ボクのダガーが他の治安部隊の右胸に刺さってしまった。
「ごめんなさい。大丈夫ですか?」
ボクはすぐさま、そのダガーを引き抜く。
「あのバカなサイレントが、女と協力して治安維持隊をダガーで刺したぞ!!」
最初にアリアの鎌で殺されかけた治安部隊の人が叫ぶ。
「あわわわわ……これは意図的じゃなんだよ。そうですよね、刺された人?」
刺された人に目を向けると、白目をむいて気絶していた。
うわー、どうしよう。
これじゃあ、本当にボクが悪いことになっちゃうぞ。
そうだ!
心臓マッサージだ。
確か、気絶した人には心臓を押せば意識が戻って来るとブリジットが言っていた気がする。
頭の悪いボクでも、それくらいは知っているんだから。
ボクは気絶した治安部隊の人に心臓マッサージを試みる。
「サイレント、本当に気が狂ったか? ダガーを引き抜いた後に、とどめの一撃を刺そうとしているぞ」
「とどめの一撃? そんなこと考えてないよ。ボクは心臓マッサージをするために……」
「それなら、サイレント、手にしているダガーはなんなんだ」
ボクは手を見る。
ボクの手の中にはがっしりと掴んだダガーがあった。
何やっているんだ、ボクは。
心臓マッサージなんてことしたことなかったから、そのままダガーを持ったままやっちゃった。
完全に誤解されてしまったじゃないかー。
まずは誤解を解かないといけない。
「いやいや、これは違うんだよ」
冷や汗がダラダラと垂らしながら、ボクは持っていたダガーをしまおうとした瞬間、手がすべってダガーを落としてしまう。
「今、手が滑ったふりして、とどめをさそうとしただろ?」
「違うんです。誤解です!」
「問答無用!」
叫んだあと、必死に警笛を鳴らす治安部隊。
「死刑だ、死刑!」
え?
ボク。死刑?
今のは不可抗力なんじゃないの?
「サイレントと女は死刑だ!」「サイレントと女は死刑だ!」「サイレントと女は死刑だ!」
判決の連呼である。
こうなってしまうと、捕まってしまったら最後、死刑になってしまう。
「この町を出よう」
「いいんですか? あれだけ、この町に平穏にスローライフがしたいと言っていましたよね?」
「いいも何も、この町にいたらムゴイ制裁が待ってるよ」
パーティーどころか、家も追い出されて、町からも追放されるなんて思わなかった。
「一旦家に寄らなくても大丈夫デスか?」
「うん、大丈夫。もともと、ボクの住んでいる家にはベッドと机と椅子くらいしかなかったしね。それにもう、家に寄ろうなんて言っている余裕なんかないよ」
シャワーもついていたけど、あれはもともとあった家の備品だしな。
「そうデスか。師匠が良いなら良いデスが、これからどうするんデスか、師匠?」
「まずは、この町を出るために、城門の検問所へ行こう」
「わざわざ城門から出なくても、壁を登ればいいじゃないデスか?」
「城壁には、そこかしこに警備兵がいるはずだから、そこから出るのは得策じゃないんだ」
「そうなんデスね。でも、もうすでに城門へ師匠の情報が伝わっているのでは?」
「いやいや、そんなすぐには伝わらないよ……多分……おそらく……きっと……いや、伝わっていないと良いな……」
「師匠、遠い目で空をみながら願望を言うのやめてくださいデス!! 急げば間に合うかもしれないってことですよね?」
「そう、そうなんだよ。まずは城門へ急ごう!! もちろん、目立たないように気配を消しながらね」
「分かったデス」
ボク達は城門の検問所へと向かった。
忙しい人のまとめ話
アリア、町の治安部隊もサイレントを捕まえに来たと勘違いし、襲い掛かる。
アリアを止めるサイレント、治安部隊を殺そうとしたと勘違いされ、死刑勧告される。