第41話 サイレント、司祭様を倒さんとす
前回のあらすじ
司祭様、ムゴイ制裁の回避の方法を教えると言うが、サイレントを捕まえるための罠だった。
『サイレント追い祭り』を『ケンカ祭り』になってしまう……アリアのせいで。
「サイレントめ、俺たちに見せつけるように、美少女と悠長に仲良くしゃべっているぞ」「まじで許せん」「捕まえろ」
ボクへのヘイトが溜まりまくる町の人たち。
とばっちりもいいところだ。
「「「いくぞ、うぉー!!」」」
そこにいた全員がボクに襲い掛かってくる。
「ごめんね」
ボクは全員に謝ってから一人ずつ峰打ちをした。
「ぐはっ!」「うっ!」「ぎゃっ!」
一人、また一人と倒れていく町人。
もちろん、手加減をしているから、死人がでることもないだろう……
多分。
うう、こんなことしたくないのに。
でも、みんなが攻めてくるのだから仕方がない。
うめき声がなくなるまで無我夢中で倒していくと、倒れた人でできた絨毯の上に立っていた。
「はぁはぁ、大方、片付いたみたいデスね」
肩で息をしながら、アリアが背後から話しかけてくる。
「そうみたいだね」
良かった、強い人が混じってなくて。
強い冒険者が混じっていたら、Fランク冒険者のボクなんか、一発アウトだっただろうし。
「アリアは151人倒しました。師匠は何人倒しましたか?」
人数を数えながら倒していたの?
さすが、アリア。
ボクは倒した人数なんか数えてないよ。
なぜなら、ボクの知っている数字は1だけだから。
でも、正直に言ったらバカだと思われそうだし……
「えっと、そうそう。ボクも151人だよ」
ボクは平然と嘘をついた。
「……ということは、あの司祭様を倒した方が勝ちですね」
ん? それって、どちらが多く倒せるか競っていたってこと?
いやいや、そんなことしなくていいんだよ。
「違うよ、アリア。残りは司祭様だけだから、ボクかアリアのどちらかが倒せば、ボク達の勝ちなんだよ」
「さすが師匠、倒した人数にはこだわらないのデスね」
「そうだよ。大切なのは、ボク達がこのピンチから切り抜けることなんだから、何人倒したかなんてどうでもいことなんだよ」
「分かったデス」
「……ということで、司祭様、そろそろ終わりにしましょう」
あとは、司祭様が『参りました』と白旗をあげてくれれば、ボク達の完全勝利だ。
「おやおや、まだ私が残っているのに、勝利宣言をするとは、嘆かわしいのじゃ」
声の方を見ると、司祭様が人間絨毯の真ん中で仁王立ちしながら、あきれ顔をしていた。
「強がりはやめるデス。一人じゃ何もできないデス」
「一人じゃ何もできない……そうじゃの。一人じゃ何もできないの」
「それなら諦めてよ」
「諦めるわけないじゃろ。さあ、皆の者、立ち上がって、巨悪の根源であるサイレントを倒すのじゃ!」
「皆の者? もうろくして目が悪くなったのか、司祭様。声をかけた皆さんは全員倒れているんですけど」
司祭様はボクの声など無視して、本を両手で天高く掲げ、何か独り言をぶつぶつ言いはじめた。
「ぶつくさ独り言を言ったって、状況は変わらないよ、司祭様!」
「師匠、はやく司祭様を止めるデス」
「え? 何で?」
「司祭がぶつくさ言っているのは、全体回復魔法デス。状況が一変しますよ。師匠!」
「何だって!?」
全体回復魔法なんてかけたら、ここにる全員が立ち上がってまた襲ってくるじゃないか!!
「瞬動」
ボクは瞬動で司祭様に近づこうとするが、倒れている人達が邪魔でなかなか司祭にたどり着けない。
「はははは、さすがのサイレント達でも、この足場ではうまく動けず、ここまで来ることはできないじゃろ」
「みんな邪魔!! どいて!! そいつを止められない!!」
ボクは気絶している人たちに話しかける。
「私があなたとしゃべっている時点で、もう回復魔法を唱え終わっていると気づかないのですか、サイレント。ああ、嘆かわしい!!」
しまった……と思った瞬間である。
「やってくれたな、サイレント!!」「この程度で俺たちが諦めるとでも思ったか? サイレント!!」「司祭様がいる限り、俺たちは不死身だ。さあ、続きを始めようか、サイレント!!」
倒れていた人々が続々と立ち上がり、次々とボク目掛けて襲い掛かってくる。
「うわぁーーーーー」
ボクは叫びながら、がむしゃらにダガーを振り回す。
「うごっ」「ぐはっ」
先ほどと同様に、うめき声とともに倒れていく町人。
少々ダガーを持つ手に力が入ってしまったがきっと大丈夫だろう。
それよりも気になるのは……
「アリア、大丈夫?」
「こちらは……大丈夫……デス、はぁ、はぁ」
耳を澄ますと、アリアのほうからもうめき声が聞こえた。
きっと、アリアも似たような状況だろう。
「アリア、ありがとう」
「いえ……でも、そろそろ……アリアも体力の限界が……近いデス」
そうだよね……
こちらは聖魔法が使えないから、回復ができないもんね。
「大丈夫、後はボクに任せて!!」
ボクは全力で襲い掛かってくる人々を峰うちで気絶させる。
「ふはははは、無駄だということが分かりませんか、サイレント。ああ、嘆かわしい」
「司祭様」
ボクが大半を気絶させたところで、またもや司祭様が現れた。
くっ、また全体回復魔法を発動させる気だ。
魔法が発動する前に倒さないと、ここにいる全員とまた戦わないといけなくなるぞ!
「瞬動!!」
ボクは疲れた脚に鞭うって、司祭様に近づこうとした。
しかし、先ほど同様、倒れている人々の絨毯のせいで足場が悪く、うまく移動ができない。
まずい。
もう一度、この人数と戦う体力は残っていないぞ。
おとなしく制裁を受け入れるしかないのか……そう思った瞬間である。
「……ぐはっ」
司祭は嗚咽と共に突然その場に倒れこんだ。
司祭様の頭には、一輪の大きな鎌が咲いている。
「師匠は瞬動に頼り過ぎデス。足場が悪いなら、武器を投げればいいんデスよ」
「これ、死んでないよね?」
「もちろん、峰うちデス」
「これが峰打ち……?」
脳天に大鎌の柄が食い込んでいるけど……
「勿論デス」
「そうだよね、峰打ちだよね」
アリアが峰打ちだというのだから、峰うちなのだろう。
司祭様の頭から流れている血は、きっと誰かの返り血のはずだ。
うん、そうに違いない。
「これで、一段落デスね」
アリアは言いながら、司祭様の頭部に刺さっている大鎌を拾う。
「そうだね」
アリアの大鎌から流れ出ている血を見なかったことにして、ボクは大きくうなずいた。
忙しい人のまとめ話
サイレントとアリア、ほとんどの人を倒したと思ったら、司祭様がまさかの回復魔法。
回復した町人たちをもう一度倒し、最後に、アリアが大鎌で司祭様を止める。