第4話 サイレント、パーティーの仲間に助けられる
前回までのあらすじ
サイレント、干し肉でファイヤー・ウルフの注意をそらそうとする。
失敗するが、仲間の助けが入る。
「おいおい、サイレント、俺様の手をわずらわせるんじゃねーよ」
「ラカン!! ありがとう!!」
ボクはパーティー仲間、勇者ラカンに泣きながら抱き着く。
「男に抱き着かれても、全然うれしくねーんだよ。……まったく、またヘマしやがって」
ラカンは言いながら、ボクを冷酷に突き放した。
「あうっ」
「うわー、俺様の装備に帰り血がべっとりじゃないか……匂うし、そのままにしておくと錆びちまう……まじで、最悪……」
言いながら、布を取り出し、応急処置的にファイヤー・ウルフの血をぬぐい取るラカン。
「いや、でも、本当にありがとう、ラカン!! 君が居なかったら、ボク、今頃丸焼きだったよ」
「ちょっと、ラカンに感謝する前に、まずはこのわたくし、アイズ様に感謝しなさいよ」
勝気な声が後ろから響く。
「そうだぞ、サイレント!! アイズはわざわざ最大呪文エターナル・フリーズを唱えてくれたんだぞ」
「あれ? エターナル・フリーズって、すごい唱えるのに時間がかかるってぼやいていた魔法だよね?」
「そうよ。20分はかかる呪文よ。感謝しなさい、サイレント」
「へー、ボクが襲われてから20分も唱え続けてくれたんだね」
「本当にバカね、サイレント。貴方がファイヤー・ウルフに襲われてから、20分も経ってないじゃない!!」
「え? 20分も経ってないのにどうやって呪文を発動させたの?」
「ディレイ呪文との複合技にしたのよ」
「ディレイ呪文!?」
「このダンジョンに潜る前に詠唱しておいた魔法をすぐに発動させないで、後から発動させる超高等呪文よ」
「へー、そうなんだ」
「あんたよく分かってないでしょ?」
「うん、全然分かってない」
ボクは正直にこくりと肯いた。
「魔法の魔の字も知らないバカと話をすると本当に疲れるわ」
はぁーと、ため息をつくアイズ。
「失礼だな。『魔』という言葉は知っているよ」
いくらバカでもそれくらいは知っているよ。
「知っているなら、当然文字として書くこともできるわよね?」
「もちろん、書けないよ」
ボクが文字を書くことができると思ったら大間違いなんだからね。
「本当にバカね。貴方って」
「それほどでもないよ」
「褒めてないから」
ダンジョンに響き渡るかのような大きなため息をつくアイズ。
「え、そうなの?」
「それよりも、早くわたくしに感謝しなさいよ」
「そうだった。ありがとう……いや、ここからだと遠すぎるか……」
アイズの近くでお礼を言おうと近寄る。
「ちょっと、近寄らないで。バカがうつる」
両手で腕を組み、ボクから顔を背けるアイズ。
「バカって、近寄るだけでうつっちゃうの? それなら、ここからお礼するね。ありがとう」
ボクは遠くからラカンにしたように、地べたに膝をつきながら、お礼をした。
「本当に惨めね、冒険者としてのプライドの欠片が微塵も感じられない……」
ゴミを見るような眼でボクを見てくるアイズ。
あれ?
もしかして、ボク、嫌われているのかな?
いやいや、そんなことないよね。
同じパーティーの仲間だもん。
ボクがヘマをしちゃったから、少し頭に来ているだけだよね。
「お礼はもういいから、早くファイヤー・ウルフの解体しろよ! お荷物のサイレント」
ボクが地面に這いつくばっていると、ラカンに解体を急かされた。
「うん、分かったよ」
ボク、戦闘じゃ全然役に立たないから、せめて解体することでパーティーに貢献しないといけないぞ。
ボクはファイヤー・ウルフの切断された体へと駆け寄った。
その時である。
「おいバカ、まだ生きてるぞ!!」
ははは、何を言っているんだ、ラカン。
首だけなんだからボクに襲い掛かってくるなんてことあるはずないじゃないか。
「サイレント、後ろ、後ろ」
ははは、アイズも何必死になっちゃって。
ボクを驚かそうったって、そうはいかないんだからね。
ボクが振り返ると、そこにはファイヤー・ウルフの頭が目の前まで襲い掛かってきていた。
えーーー!!
早く、なんとか対処しないと……
ダガーで眉間を刺せば、さすがにおとなしくなるだろう。
大丈夫、一瞬でダガーを引き抜いて、刺せばいいんだ。
ダガーを……
ダガーを……
手が滑って、ダガーが……取れない。
「魔法だ、アイズ!!」
ラカンの怒声。
「ダメ、間に合わない」
このままだと、ボクも目の前のファイヤー・ウルフと同じように首が飛ぶ。
「うわー」
ボクは反射的に、両腕でバッテンを作り、首を守るための防御の型をとった。
ダメだ。
こんな防御じゃボクの腕ごと首をかみちぎられる!!
忙しい人のためのまとめ話
サイレント、ピンチに陥るが、パーティーの勇者と魔法使いに助けられる。
だがしかし、一難去って、また一難。