最終話 実は超強いのに頭とメンタルが弱いせいで実力が出せないFランク冒険者のバカシン……もとい、アサシン。勇者パーティーを追放された(以下略)
2025/3/1にアップロードする予定でしたが、ドジをして、2025/2/28にアップロードしてしまいました。
最終話でアップロードミスしてしまい、本当に申し訳ないです。
これまでのあらすじ
サイレント、司祭様に石像をつくることを許可する。
サイレント、みんなと別れて家へ帰る。
…………
……
「師匠、帰ってきたデスね」
「そうだね、アリア」
ボクはホバッカで借りていた家を見上げる。
こんなに大きくてどっしりと構えていたっけ??
見慣れていた家なのに、なんだか他人の家のようだった。
「師匠、入らないんデスか??」
玄関口で突っ立っていたボクにアリアが問いかけてくる。
「え? あ、入るよ」
ボクは視線を戻しドアノブに手をかける。
長いダンジョン探索と同じくらい家を留守にしていたというだけなのに、なんだか懐かしいな。
ボクがバカシンへとなるストーリーは、アリアがこの家に尋ねて来た時からはじまったのだ。
「ただいま」
ボクは中に誰もいないと知っていながら、いつもしていたように、挨拶をしてしまった。
習慣って怖いな。
この家には何も盗られるようなものは置いてないから、誰もいないはずなのに。
これだと、『ただいま』の言い損だな。
「おかえりなさいデス」
ボクの声に笑顔でこたえてくれるアリア。
全然言い損じゃなかった。
今ではボクの『ただいま』に『おかえりなさい』を言ってくれるパートナーがいるのだ。
「アリア、あのね……」
毎日、『おかえりなさい』って、アリアに言って欲しい……と言いかけてボクは言葉をつぐんだ。
これじゃあ、求婚じゃないか。
「なんデスか、師匠??」
ボクが途中で言葉をつぐんだので、心配そうに顔を覗き込んでくるアリア。
「……ふわぁ」
ボクはその場しのぎで欠伸をする。
「師匠、疲れているデスか??」
「うん、なんだかとっても眠いんだ」
これはウソじゃない。
「アリアも眠いデス!!」
「アーノム・ギトーゲからカバッカ町まで走ったもんね。まだ明るいけど、今日はもう寝ようか……って、ベッドがない!!」
ベッドは置きっぱなしになっていたはずだけど、どうやら、ラカンが処分してしまったようだ。
「アリア、ベッドを買いに行ってくるデス!!」
「でも、ベッドは重いんじゃないの??」
「大丈夫デス、マジック・バックにいれてくるデスから」
「いや、でもマジック・バックは魔力を大量に消費するんじゃなかったっけ??」
「それも修行のうちデス。師匠はのんびりしていてくださいデス」
「分かったよ、お言葉に甘えて、ボクはのんびりしているよ。ベッドはよろしくね、アリア。」
「分かったデス、行ってきますデス」
「いってらっしゃい!!」
ボクが玄関を出て、アリアを見送ると入れ替わりにおっちゃんがやってきた。
「よう、サイレント、さっきぶりだな」
「仕事はいいの、おっちゃん?」
「ああ、緊急の案件が出てきて、シフトを変えてもらったんだ」
「そっか、大変だね」
緊急の案件は何かが分からないが、きっととても大切な用事でもできたのだろう。
「そうだ、大変なんだ。だから、正直に言え、サイレント。お前はついさっきまでアリアちゃんと一緒だったのか??」
「そうだよ、ついさっきまでアリアと一緒だったけど……」
それが何だというのだろう。
「ラブラブだったのか?? アリアちゃんと??」
「ボクとアリアがラブラブ?? そんなわけないでしょ?? アリアには今からベッドの用意をしてもらっているだけだよ」
「ふざけるな、ラブラブじゃないか!!」
おっちゃんはボクの胸倉をつかんできた。
アリアにはベッドを買いに行ってもらっているだけなのに、どうしてラブラブということになるんだ??
「何を言っているの、おっちゃん??」
「良いことを教えてやろうと思ったけど、やめた」
おっちゃんは鼻を曲げ、腕組みをしながらそっぽ向く。
「良いことなんか教えてもらわなくていいから、用がないなら帰ってくれる?? ボク、これからどうやって夢のスローライフをするか考えるのに忙しいんだから」
こうなれば意地だ。
教えてもらわなくてもいいもんね。
「ただいまデス」
ボクが扉を閉めようとすると、そこにはアリアがいた。
やけに帰りがはやいな。
もしかして、ベッドが売ってなかったのか??
「おかえり」「おかえり、アリアちゃん」
ボクとおっちゃんでアリアを出迎える。
「師匠、師匠はアリアと別れてから、ずっとここにいたデスか??」
「うん、おっちゃんと話していたけど、それがどうかしたの??」
「それなら良かったデス」
「何が良いのか説明してよ」
「魔王が出たんデス」
「魔王だって? 魔王っていういうのは、悪さをする魔王のことだよね??」
「そうデス」
「そっか、それは治安部隊の人に任せよう。ボクはスローライフをするためにどうすればいいかを考えなければいけなくて、忙しいから」
悪さをする魔王が出たとしても、ボクじゃない誰かが何とかするさ。
「デスが……」
「いいかい、アリアちゃん。サイレントは今、考えるのに夢中でアリアちゃんの話を聞けないくらい忙しいんだ」
「そうだったんデスね」
「そうそう、勇者パーティーを追放されてからというもの、サイレントは考える時間がないと嘆いていたんだ」
大げさに演技して、ウソを吹聴するおっちゃん。
「師匠、アリアがふがいないばかりに、考える時間がなかったんデスね?? アリア、気づかなかったデス。師匠の気持ちも分からないアリアはパーティーメンバー失格デス」
「違うよ、アリアのせいじゃないよ。神様になったときに、時を止めたから、考える時間はいくらでもあったし、勇者パーティーを追放されてから、アリアとパーティーを結成して、日が浅いんだから、意思疎通ができないのはしかたのないことだよ。まだボクとアリアは結婚しているわけでもないしね」
「『まだ』……ってことは、いずれは結婚するつもりなのか?? 元神様のバカシン様」
おっちゃんが口角が上がった口をすぐさま右手で隠しながら訊いてきた。
「それは……その……」
しまった、墓穴を掘ってしまった。
返答に困ったボクは天井の方を見る。
「そういえば、アーノム・ギトーゲからカバッカ町までの競争で一番になったのに、お前はアリアちゃんとの婚約破棄をしなかったのは、アリアちゃんと結婚するためか??」
「それは……その……」
もう頭が真っ白だ。
なんて言い返そうか……
「冗談で俺が『もし、サイレントと結婚したくなくなったら、俺がアリアちゃんと結婚するから、いつでもおっちゃんに言うんだよ!!』って言った時、落ち込んで、アリアちゃんが『断るわけない』って言っていた時、すごく喜んでいたしな」
え?
ボク、落ち込んだあと、喜んでいたの??
自分のことだけど、まったく気づいていなかった。
「あの場にいるアリアちゃん以外の人は、みんな気づいていたと思うぞ」
しかも、ボクのことがバレている。
「サイレント、良いことを教えてやろう。求婚するなら今だぞ」
「いや、なんで、おっちゃんの目の前で告白しなくちゃいけないんだよ?? 指輪もないし」
求婚が今じゃないのはバカなボクでもわかるよ。
「やっぱり、求婚する気満々じゃないか」
そう指摘されて、心臓がバクンバクンと脈打つのが分かった。
何を言っているんだ、ボクは。
「師匠、顔が真っ赤デスが大丈夫デスか??」
「うん、大丈夫。それよりも、さっきアリアが言っていた魔王が気になるな」
ボクは無理矢理話を変える。
「大丈夫さ、サイレント。カバッカ町の治安部隊は優秀だからな!!」
「そうデス、サンザールさんの言う通りデス。『ボクの名前はサイレント、元神様だから、ボクの言う通りにしろ!! 治安部隊や司祭のバカに捕まるわけないだろ!!』って叫びながら食い逃げした、全身タイツ姿の魔王は、カバッカ町の優秀な治安部隊に任せるデス!!」
「食い逃げした挙句、治安部隊と司祭様をバカにしただって!? このカバッカ町でそんなことしたら、全総力を挙げて捜索された挙句、ムゴイ拷問を受けて、死刑になっちゃうよ!!」
「デスから、現在進行形でそうなっているんデス」
「いやいや、そんなことになっていたら、もっと町の中は騒がしいはずで……」
ボクは玄関の外を指さす。
「サイレントを探せ!!」「あの男は速く走れるからって調子乗って食い逃げしたんだ!! まずは人数を集めるんだ!!」「町にいる全員に告ぐ、サイレントという男を捕まえるために協力してほしい! 今は、サイレントの凱旋の祭りの準備なんかしている場合じゃない!! まずはムゴイ罰をサイレントに与えなくては!!」
司祭様も一緒になってボクを探している……だと??
「食い逃げをして、ボクだと詐称した魔王、絶対に許せない!!」
そもそも、全身タイツ姿の怪しい客を客として迎え入れるなよ、店の人。
「ちっ、サイレントが警備兵に捕まるところを見物するのも一興だったんだがな……」
「おっちゃん、さっき言っていた『いいこと』って……」
「ああ、お前が町中で指名手配されているってことだよ」
「先に言ってよね!!」
「いやいや、気づけよ。神様が現れて、すぐさま引退したんだ。偽の神様がじゃんじゃんでてきたり、詐欺の材料にされたりするだろうぜ。寄付金詐欺とかな」
「なんか言った、おっちゃん??」
今、忙しいんだから、もっと大きな声で言ってよね。
「今は祭りで警備が厳重だから、全身タイツ姿の魔王もこの町からは出られないはずだって言ったんだよ!!」
「よーし、そういうことなら、ボクが捕まるより先にボクの偽物を見つけ出して、警備兵にさしだしてやる!!」
「アリアも手伝うデス!!」
「ありがとう!!」
ボクとアリアは魔王を倒すために、ホバッカの町に繰り出した。
実は超強いのに頭とメンタルが弱いせいで実力が出せないFランク冒険者のバカシン……もとい、アサシン。勇者パーティーを追放されたので、スローライフをしようとしたら魔王を倒すハメに……って、何でこうなるの?
完
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!!
以下、サイレントとアリアの茶番劇です。
お時間がありましたら、お付き合いください。
※ネタバレを含みますので、本編を読んでいない方はご注意ください
「改めまして、お話を読んでくださった方、ありがとうございました。サイレントです」
「ありがとうございましたデス。アリアデス」
「最終章が完結したね」
「そうデスね。本当に良かったデス。ただ……」
「ただ、どうしたの?」
「これハッピーエンドデスか?」
「えっと、どうなのかな??」
「ここは作者『いたあめ(しろ)』を呼んで事情聴取デス」
「逃げるんじゃないかな?」
「そんなの関係ないデス。『いたあめ(しろ)』を師匠の体に憑依!!」
(注:作者をサイレントに憑依させる能力は茶番劇のみで使えるアリアの特殊能力です)
「はっ、ここは?」
「ここは、後書きです。読者の皆様に自己紹介をするといいデス」
「はい、どうもー、作者の『いたあめ(しろ)』です。初めましての方も久しぶりの方も、このお話を読んでいただきありがとうございます」
「このお話、ハッピーエンドデスか??」
「そうだと思います。なぜなら、タイトル伏線を回収して、サイレントとアリアちゃんは近い未来結婚するからです!!(小学生の国語の発表風)」
「近い未来って、どれくらいデスか??」
「神様詐欺が起こらなくなったら、きっとサイレントさんが指輪を買って、求婚すると思います(小学生の国語の……以下略)」
「(ぽっ)」
「アリアちゃん、赤くならないでください」
「赤くなんかなっていないデス」
「それは、自分で鏡を見ないとわからないと思います(小学生の……以下略)」
「最後に言いたいことはあるデスか??」
「このお話は完全にアート作品で、自分が楽しむためだけに作った作品です。さくさくっと物語は進まず、題名に『スローライフ』とあるのに、『スローライフ』は出ず、『魔王の定義が途中から代わる』というとてもクセが強い作品なのかな……と私自身は思っています」
「クセの強い作品ですが、少しでも楽しめていただけたなら、幸いです。最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました」