第69話 サイレント、アリアに尋ねる
これまでのあらすじ
サイレント、カバッカ町にみんなで帰ろうとする。
院長先生の提案で、カバッカ町まで競争することにする。
「到着!!」
ボクが一番乗りだ。
「ずるいですよー、サイレントさんー。カバッカ町の近くまでー、私を先に行かせて、道案内をさせてー、カバッカ町が見えると同時に超加速しましたよねー??」
ボクの次に来たフラットさんが唇を尖らす。
「すみません、アーノム・ギトーゲから、カバッカ町までの道は分からなかったので、途中まで道案内していただきました」
「……ということはサイレントが一位だったのよ??」
「そうです、ボクが一番です」
「さすがは、師匠デス」
「どうしてお前ら、走りだけで馬よりも速いんだよ??」
おっちゃんが白馬に乗りながら疑問をぶつけてきた。
「しかも全員息切れしていないなんて……」
最後に来たのは白馬にまたがった司祭様だ。
「ボクのパーティーメンバーは体力と脚力だけはありますからね」
「くそっ、帰りの道中でアリアちゃんと院長先生とフラットさんと仲良くなる計画がパアだ」
「まったくですな」
「やっぱり、下心があったのよ」
そう問い正しながら、院長先生はホーリィの魔法を唱えていた。
「あ、いや……これは……司祭様が考えたことで……」
「違います、これは、サンザールが考えたことです!!」
お互いがお互いのせいにするなんとも醜い争いがここに勃発した。
「二人とも反省するのよ!!」
叫びながらホーリィをぶっ放す院長先生。
「そうですねー。もっと反省するべきですねー」
フラットさんは散弾銃で追撃を加える。
「「うぎゃー」」
悲鳴と共にボロボロになるおっちゃんと司祭様。
「大丈夫、おっちゃんに司祭様」
ボクは黒焦げになったおっちゃんと司祭様をそこらへんに落ちていた細い木の枝でつつきながら尋ねた。
「ああ、大丈夫だ。司祭様が回復魔法をかけてくれたからな」「こんなことではめげません」
倒れながら答えるおっちゃんと司祭様。
ものすごいタフだな……
尊敬するよ。
「それで、競争に勝った師匠は、何を望むんデスか??」
うーん、何にしようか??
ボクはおっちゃんたちを枝でつつきながら考える。
「アリアちゃんとの婚約破棄なんてどうなのよ?? 婚約破棄さえすれば、私がアリアちゃんとラブラブになれるのよ」
院長先生が寄ってきて、アリアに聞こえないよに小さな声でささやいた。
「え? あ、いや、婚約破棄はちょっと違う気がしますね」
「何が違うのよ?? サイレントは気づかずにアリアちゃんに求婚したのだから、婚約破棄してもいいじゃないのよ」
「いや、それはそうなんですが……」
何だろう??
この心のわだかまりは……
「うまく説明できないんですけど、それでも違うんですよ!!」
「師匠、何が違うデスか??」
アリアが小首をかしげてボクに尋ねてくる。
「えっとね、そう、アリアに正直にこたえてほしいことがあるから、それに願いを使おうかなって……」
「正直に答えてほしい質問ってなんデスか?? 師匠」
「えっとね……」
あ、まずい。
正直に答えてほしい質問なんてまったく用意していなかった。
何か、考えろ、考えるんだ自分。
「もしかして、みんなの前では聞きにくいことデスか??」
「そんなことないよ……えっとね、どうしてアリアはカバッカ町でボクの家に来たの??」
「ちょっと、サイレント、せっかく一位になったのに、そんな質問でいいのよ??」
「そんなこと言っても仕方ないじゃないですか。全然質問が思い浮かばなかったんですから」
「師匠の家に行ったのは、町で一番の人を尋ねたら、師匠の名前が出たからデス」
「町で一番の人だって??」
少なくとも、カバッカ町にはラカンがいたはずだ。
ボクが一番強いなんてことはありえない。
「そうデス。以前話したデスが、魔王……じゃなくて、パパが四天王に勇者抹殺の密命をくだしたので、勇者の命を奪う予定だったんデス」
「そっか、それでボクの家に……って、おかしいでしょ!! 勇者を倒す予定ならラカンの家だよね?? 何でボクの家なのさ??」
ボクはFランク冒険者なんだよ??
「師匠と最初に出会った時に、アリア、本能的に師匠には勝てないと思ったからデス」
「え? ボクとあったのは、夜中にボクの家を訪ねた時じゃないの??」
「違うデス。本当の最初は、酔っ払いから助けてもらった時デス」
ああ、確かニージュ・チョーボーに絡まれている女の子がいたっけ……
「え? あの時助けたのって、アリアだったの??」
全然気が付かなかった。
「そうデス」
こくりとうなずくアリア。
「念のためにアリア、道行く人にアンケートをとったら、この町で一番はサイレントだと教えてもらったデス」
「道行く人に訊いたなら、真っ先にラカンの名前が出てくるはずだよね??」
カバッカ町でアンケートしたなら、Fランクのボクの名前がでるはずがない。
「ちなみに、アリアちゃんは町の人たちになんて訊いたのよ??」
「『サイレントという人は、この町で一番デスか??』……って訊いたデス。そしたら、みんな口をそろえて、『そうだな、一番はサイレントだな、間違いない』……って言っていたデス」
「ああ、なるほどなのよ」「あー、そういうことですかー」「そういうことだな」「そういうことですな」
納得する院長先生、フラットさん、おっちゃん、司祭様。
訊き方がよくないよ、アリア。
それ、一番バカって意味だよ、アリア。
そう訊いたなら、ボクが選ばれるよ。
「納得していただけたデスか??」
「うん、納得した。納得したところで帰りますか、わが故郷へ」
ボクは検問所を通るように促す。
「ああ、行こうぜ、サイレント」
悪い笑顔でボクの提案に乗るおっちゃん。
「何その笑顔?? 何か企んでいるの??」
「いや、別に」
おっちゃんはすぐさま笑顔を消す。
何??
怖いんだけど……
「次の方……サイレントだ、サイレントが帰ってきやがった!! 警備兵を手配しろ!!」
ボクの顔を見るなり、慌てふためく門番。
「警備兵だって?? はやく逃げないと!!」
忙しい人のためのまとめ話
サイレント、一位になって、アリアにどうしてサイレントの家に来たか尋ねる。
サイレント、カバッカ町に入ろうとするが警備兵を呼ばれる。