第67話 サイレント、伝説になる!?
これまでのあらすじ
サイレント、神様ならば何でもできたと気づかされる。
サイレント、悪いことをする人間・天使・魔族が魔王だとみんなに伝える。
「あの、師匠、ちょっといいデスか??」
院長先生が念話を中断した後、アリアがボクに話しかけてきた。
「何、アリア??」
「師匠はスローライフすることが夢だったんデスよね??」
「そうだね」
「それも叶えずに引退したんデスか??」
「…………………………あーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!! そうだよ、自分の夢を叶えてから引退すればよかったよ!!」
「さすがー、大物のサイレントさんですー。神様になったのにー、自分の夢さえも叶えないとはー」
小さな拍手をするフラットさん。
「院長先生、またもう一度神様になれませんか??」
「引退した神はもう一度神様になれないのよ」
「なんてこった!! くそっ!!」
ボクはその場でひざまづく。
「まじか、サイレント」「さすが、バカシン」「やべーな、元神様、自分の夢も叶えないとか、まじで伝説じゃないか」
そして、ドン引きする生きとし生ける者たち……
「……って、院長先生、まだ念話を続けていたんですか??」
「念話を切るのを忘れていたのよ。てへぺろ」
「なんてこった。元神様なのに、念話を切り忘れられて、伝説になってしまったじゃないか」
「ごめんなのよ、今度こそ本当に念話をやめるのよ」
そう言って、今度は間違いなく念話を止めた。
「本当に残念だったのよ、サイレント」
棒読みでボクを元気づけてくれる院長先生。
「院長先生、あえてボクの願いを聞きませんでしたね??」
「もちろん……じゃなくて、そんなことないのよ、サイレント。あなたの願いを聞くのをすっかり忘れていたのよ」
「今、もちろんって言ったよね??」
「いいサイレント、願いは自分の力で叶えるものだって、元神様が言っていたのよ」
真剣なまなざしでボクにさとしてくる院長先生。
まさかボクの言葉が自分に戻ってくるとは思わなかったよ。
「確かにそうですけど……自分の力で神様になれたんですから、ボクのささやかな夢くらい叶えてくれても良かったんじゃないかって思うんですよ」
「覆水盆に返らずという言葉があるように、取り返しのつかない失敗のことは考えない方がいいのよ」
ポンと肩をたたいてくる院長先生。
院長先生が訊いてさえくれれば、かなえられたのに……
「そうデス、師匠。もう過ぎてしまったことは振り返らずに、これからのことを話すデス!! 師匠はこの後、何をするデスか??」
「そうだな……ラカンの話だと、カバッカ町の借りていた家はそのまま借り続けていてくれているみたいだから、とりあえず、カバッカ町に帰ろうかな」
「アリアもついていっていいデスか??」
「もちろんだよ」
「それなら、私もついていくのよ。カバッカ町の孤児院がどうなっているか気になるのよ」
「すみませんー、私もご一緒してよろしいでしょうかー?? カバッカ町の冒険者ギルドのお仕事がー、まだ残っているんですよー」
「フラットさんはアーノム・ギトーゲに残らなくてもいいんですか??」
「もちろんですよー。私は姫様からクビになったんですからー」
満面の笑みのフラットさん。
「もしかして、最初からそれが目的だったんですか??」
「ええー、計画通りですねー、ねー、インフィニティー」
満面の笑みを続けるフラットさん。
「まさか、ここまでうまくいくとは思わなかったのよ」
「え? ちょっと待って。アーノム・ギトーゲの計画って、院長先生が計画していたってこと?? どこから、どこまでが計画だったんですか??」
「サイレント、大人の堕天使には誰にも言えない秘密があるのよ」
そう言いながら口元に人差し指を差し出してくる院長先生。
うん、これ以上聞かない方が良さそうだ。
「その仕草もキュートですー」
フラットさんは院長先生に抱き着く。
「ちょっと、フラット、あなたが本気で抱き着いてきたら、骨が折れちゃうのよ。すぐに放すのよ!!」
「そんなに顔を赤くして照れなくてもいいじゃないですかー」
院長先生とフラットさん、すごい仲良しなんだから、もう結婚しちゃえばいいのに。
「照れてないのよ。私はまだ前々神様を殺したこと、許していないのよ!!」
「あの、そろそろ、行きませんか?? はやくカバッカ町に帰らないと日が暮れちゃいますよ」
「そうだぜ、サイレント!! はやく帰らないと日が暮れてしまうぜ!!」
「そうだね、はやく帰らないと……って、おっちゃん??」
「年上の人にはもっと敬意を払いなさい、サイレント」
「司祭様も!! どうしたんですか??」
「どうしたじゃないぜ。お前、カバッカ町に帰るんだろ??」
「そうだけど……」
「俺たちもついて行くぜ!!」
おっちゃんはボクの首根っこを腕に絡ませて、アリア・院長先生・フラットさんに聞こえないように、こそこそ話しかけてくる。
まさかのパーティーメンバー追加希望者。
「いやいや、魔族も魔界に帰ったんだし、危険なのは野生の獣くらいだから、一緒に帰る必要なんてないよね??」
野生の獣なら、気配察知ですぐに危険を察知して回避できる。
危険などどこにもない。
「いいや、サイレント、お前が一番危ないぜ!!」「そうですよ、あなたが一番危ないんです!!」
真面目な口調で言ってくるおっちゃんと司祭様。
「ボクが危ないって、おっちゃんも司祭様も何を言っているの?? 確かに、アリアは元魔王の娘だし、院長先生は元堕天使だし、フラットさんは元神殺しだけど、みんな仲間だよ、危ないわけないじゃないか」
「ああ、そうだな。アリアちゃんも院長先生もフラットさんもお前の仲間だ。お前を襲うはずがないだろうな」
「それなら、安全だよね??」
「おいおい、一番怖いのは人間だぜ」
「どういうこと?? 人間と言えば、ボクのパーティーにはフラットさんしかいないはずだけど」
「あのな、パーティーメンバーの話じゃない。お前らのパーティーを見た冒険者たちの話をしているんだ」
「ボクたちを見た、パーティー冒険者だって??」
「ああ、そうだ、サイレント、お前は神になったんだろう?? 神になったパーティーメンバーがアリアちゃん、フラットさん、院長先生で女性ばかりじゃないか」
「院長先生は男でも女でもないけどね」
「院長先生は一見すると中性的だから、女の子にも見えるだろうが」
「まあ、そうだね」
「元神様になったお前が、女性だらけのハーレムパーティーでカバッカ町に凱旋してみろ!! 男だけのパーティーに妬まれて何をされるか分かったもんじゃないぞ!!」
「確かに」
「つまりだな、俺たち男が一時的にお前のパーティーに入ることで、お前を妬み嫉みから守れるってことだ!!」
「さすが、おっちゃん!! そこまで考えてくれていたなんて、ボク、感動しちゃったよ!!」
神になったあとのアフターケアまで考えてくれるおっちゃんと司祭様。
こんなにも優しいのに、どうして異性と付き合えないんだろう??
「いやいや、どうってことねーよ」
「そうですよ、どうってことはありません。我々がサイレントのパーティーに入れば、サイレントのハーレム状態を阻止しつつ、アリアさん、院長先生、フラットさんとも親しくなれるかもしれませんからな」
「え?? 司祭様、何か言った??」
「いえいえ、何でもありませんよ」「そうだぜ、何でもないぜ」
「ボク、みんなにおっちゃんと司祭様がパーティーに入ること、説明してくるね」
「おう。『お前がハーレムパーティにいて危険だから』……ということは伏せて、帰り道が一緒だからって理由にしろよ」
「分かっているって」
何故か、がしっと固く握手をするおっちゃんと司祭様。
なんで握手しているんだろ??
ま、いっか。
ボクはみんなに説明をしにいった。
忙しい人のためのまとめ話
サイレント、念話を切り忘れた院長先生のせいで伝説を残す。
サイレント、おっちゃんと司祭様の口車に乗り、二人をパーティーメンバーに迎え入れる。