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第66話 サイレント、おっちゃんに気づかされる

これまでのあらすじ

 サイレント、みんなに話しかけたら、バカシンだと揶揄される。

 サイレント、神様を引退する。

「ちょっといいか、サイレント」

「何、おっちゃん??」


「お前は神になって、自分の理想の世界にしようとか思わなかったのか??」

「思ったよ。『お金のない世界』にするとか」


「なぜ、それをしなかったんだ??」

「だって、お金がなかったら、物々交換のマッチングに困るじゃないか!! 魚とケーキを取り替えたい人とか」


「そうか?? 今みたいに全員で念話を使えば、すぐにマッチングしたいやつは見つかると思うんだがな」

「あ」


 そうだよ、生きとし生けるすべてのものと念話できるなら、マッチングなんか簡単じゃないか。


 ボクは院長先生の顔を見た。


 院長先生は吹けない口笛を吹きつつ、そっぽ向く。


 いや、待てよ。


「マッチングができたとして、マッチングのペアが離れた距離にいるときは、どうやって交換するの?? 距離があれば魚なんか交換できずに腐らせちゃうのよね??」


 ボクは頭の中に浮かんだ疑問を投げかける。


「神様って何でもできるんだろ?? テレポートで物と物を交換できる世界にするとか、どこでも出し入れ可能な全員共通のマジック・バックをつくるとか、氷魔法で鮮度を保たせるとか、いろいろあるじゃないか??」


「あ」


 そうだよ、やりようによっては腐らせない方法なんていっぱいあるじゃないか。


 ボクは院長先生をにらみつけた。


 院長先生はそっぽ向いたまま、吹けない口笛を吹き続ける。


 いや、待て待て。


「でもお金をなくすってことは、今までがんばってお金を貯めた人をないがしろにすることになるよね??」


「それなら、お金をなくす前に、お金をたくさん持っている人に、お金と相応の必要な物と物を換えればよかっただけだよな?? お金を土地とか宝石とかに」


「あ」


 そうだよ、やりようによっちゃ、いくらでもできるんだよ。

 神様なんだから。


「『みんな、ちょっと待ってて、今、確認するから』……院長先生、お金のない世界もできましたよね??」


 ボクは念話を一時中断する断りを入れてから、隣にいた院長先生に話しかけた。


「もちろん、できたのよ!!」


 院長先生も念話を使わずにボクと話す。


「もしかして、差別のない世界っていうのも……」

「もちろんできたのよ」


「それなら、どうして、できないことにしたんですか??」


「別に神様の力なんか使わなくったって、きっと、生きとし生けるものすべての協力があればできるのよ。やる気さえあれば」


「そうだ、そうだよ。理想の世界があるなら、神様の力を使わなくたって、できるんだよ」

 ボクは納得する。


「みんな、お待たせ。えっとね……」


「何も言わなくていいぞ、サイレント」

「さすが、おっちゃん! 言葉は必要ないということだね??」


「そうじゃない、サイレント。お前と院長先生の会話、全部念話で聞こえていたから」

「さいですか」


「それよりもだ、サイレント、神様の力を使わずに世界をかえるなら、時間がかかりすぎるだろ。ずっと自分の主張を言い続けなければいけないし、反対意見の人も出てくるだろうしな。神の力を使えば、一瞬なのに」


 おっちゃんはあきれ口調だ。


「確かに」


 ボクは素直に納得する。


「やっぱりお前はバカシンだよ。差別のない世界って、さっき、城のところで言っていた、『悪い奴を魔王と呼ぶ』ってことだろ?? せっかく全員と念話が繋がっているのに、そのことを一言も言わずに念話を終えるつもりだったのか??」


 あ、そうだった。

 忘れていた。


「みなさん、魔族も天使も人間も差別しないでください!! 魔族の中にはウソをつかずに良いことをする魔族だっているし、天使の中にもウソをついて悪いことをする天使もいます。天使だからとか、魔族だからとか偏見をもって差別するのはやめましょう!!」


「ふざけるな、魔族の長、魔王は悪い奴じゃないのか??」「そうだ、そうだ!!」「魔王は悪いんだ!!」


 人間族から抗議の声がする。

 うん、アーノム・ギトーゲの人々と同じ反応だね。


「ボク、魔族の長、魔王と話しましたが、悪い魔族ではないです。むしろ、魔王ときちんと話もせずに噂だけで悪と決めつけている人々の方が悪いと思います」


「違う、魔王は悪いものなんだ!!」「悪くなくちゃ困る!!」「そうだ、魔王が悪くなければ、人間は一つになれやしないじゃないか!!」


 そっか。

 魔王という悪い敵がいたから、人々は一丸となっていたのか。

 だけど、実際には魔王は悪くないんだから、ウソを流すわけにもいかないよ。


「これからは人間・天使・魔族、一丸となるために、魔王という呼称は、罪を犯した人・天使・魔族に限定してくださいね」


「「「「「「うぉー!! いいぞ、サイレント!! 魔王様は悪ではないからな!!」」」」」

 魔族から声が上がった。

 言語の壁があると思っていたが、どうやら、念話では言語は関係ないらしい。


「どうせ、神様じゃない普通の人間が決めたことで、強制力はないじゃないか」「そうだ、そうだ!!」「強制力はないから、従う必要はない!!」


「こっちだって、神様の力を使っていないから、すぐに受け入れられるとは思っていないさ。時間をかけて少しずつかえるからいいもんね」


「ふざけるな!!」「俺は絶対に認めないぞ!!」「そうだ、そうだ!!」

 みんな、顔が見えないことをいいことに、言い合いだ。


「宴もたけなわだけど、そろそろ会見を終えて、念話を切るのよ。それではみなさん、ごきげんようなのよ」

 院長先生は強制的に念話を中断した。

忙しい人のためのまとめ話

サイレント、神様ならば何でもできたと気づかされる。

サイレント、悪いことをする人間・天使・魔族が魔王だとみんなに伝える。

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