第58話 サイレント、話しかける
これまでのあらすじ
姫様、暴論でサイレントを追い詰める。
サイレントをかばった人たちがやられていくが、おっちゃんと魔王が現れる。
「待つのじゃっ!! 魔王が神になるには人間に認められないといけないのじゃっ!! この祝賀会で魔王が暴れれば、一生人々から認めれないのじゃっ!! つまり、魔王はここでは暴れたりしないのじゃっ!!」
「「「「「確かに」」」」」
いや、『確かに』……じゃないよね??
魔王が神になる気がならなければ、全滅じゃないか。
少し考えれば分かりそうなことなのに……
まだみんな、姫に操られているみたいだ。
「姫の言う通りでござる。拙者、ここでは暴れる予定はないでござる!! サイレント殿の命の危険だと聞いて、助けにきただけでござる」
「ははは、ついにサイレントの化けの皮がはがれたのじゃっ!! 魔王と仲良くするなど、自分は悪人だと言っている証拠なのじゃっ!!」
姫様がボクをびしっと指さしてきた。
「「「「「「そうだ!! 魔物をさしむけて我々を苦しめた魔王と仲良くしているサイレントは、完全アウトだ!!」」」」」」
今の今まで逃げようとした人たちとは思えない貴族たちのセリフ。
「そうなのじゃっ!! 王様はまだ、この魔王の部下、ヴァンパイア・あげはに操られているのじゃっ!!」
「うう、あげは様、あげは様、この愚民の代表である愚かなワタクシめにご命令を! あげは様!!」
いつもと同じ言葉を繰り返す王様。
「拙者の部下が人間界の王様を苦しめたこと、詫びるでござる!! だがしかし、おかしなことがあるでござる。拙者はすでに、全魔族と魔物に、人間界に手を出すなと命令したでござる!! どうしてまだ王様が治っていないのか分からないでござる」
腕を組み、考える魔王様。
「え?? まだ、ヴァンパイア・あげはに操られているみたいだけど……あ、分かった! あげはは天界の牢屋にいるはずだから、情報が伝わっていないんだ!!」
「そうなのでござるか?? カナエル殿??」
「そんなことはないっす!! ヴァンパイア・あげはには伝えてあるっす!!」
「ちょっと待って!! 天界と魔族が仲良くしているって、どういうこと?? 犬猿の仲じゃないの??」
「人間界から脅されたので、使者を送って天界は魔界とも同盟を結んだっす!!」
「さすがはやり手。まさかそんな手を考えるなんて!!」
「天界と魔界が同盟を結んだ方が良いと提案したのは、そこにいる騎士団長さんっす!! あ、今は元騎士団長さんっすかね??」
「フラット、妾を最初から裏切ったのかっ??」
そう言いながら、フラットさんを踏みつける姫。
「あなたの意見には賛同できないのでー、最初から裏切っていましたよー。完全に服従すると言っても、あなたの命令以外は自由に行動できましたのでー」
「まさか、天使と魔族を組ませるとは、思わなかったのじゃっ!!」
「それだけではないですよー」
「なんじゃとっ!?」
「おそらくー、今までのサイレントさんの悪事を尾ひれをつけてばらすと思ったのでー、真実を知るみなさんをこの会場に集めましたしねー」
さすがはフラットさん。
姫の次の行動を読んで、先回りするとは!!
「サイレント殿、話をもとに戻してよろしいでござるか??」
「あ、ごめん、あげはのことだったよね??」
「そうでござる。あげはに伝えてあるなら、人間界の王様は正気になっているはずでござるが……」
「うう、あげは様、あげは様、この愚民の代表である愚かなワタクシめにご命令を! あげは様!!」
「正気になっていないのじゃっ!!」
「『ファイナル・エターナル・カシューナッツ』、王様だけを攻撃するでござる!!」
「「「「「乱心だ!! 魔王が乱心したぞ!!」」」」」
貴族と兵士は慌てふためく。
「命だけはお助けください!! 娘に言われて、操られているフリをしていました」
土下座してくる王様。
ちっ……と舌打ちする姫。
こいつら最初からグルだったのか!!
「そうでござるか。拙者も乱心したフリをしていたので『あいこ』でござるな!! ちなみに、『ファイナル・エターナル・カシューナッツ』は攻撃魔法ではなく、適当に作った造語でござる!!」
うん、魔王様の方が一枚上手だったね。
「何じゃとっ!! 妾達にウソをついていたのかっ!! やはり魔王は悪い奴なのじゃっ!!」
「「「「「そうだ、魔王はやはり悪い奴だ!!」」」」」」
まさかの逆効果!!
「何を言うでござるか!! 先に乱心したフリをしたのは王様の方でござる!!」
「だからって同じことをしていいはずないのじゃっ!!」
姫様は逆ギレをする。
「「「「「「そうだ、そうだ!! 乱心のフリをする魔王は悪だ!! そんな悪に助けられるサイレントも悪だ!! 処刑しろ!! 処刑しろ!!」」」」」
「こうなったら力で制圧するでござる!! 妖精さん!!」
「力で制圧しようとするとは、やはり、魔王は悪なのじゃっ!!」
「「「「「そうだ、そうだ、魔王は悪だ!!」」」」」
「ちょっと、魔王様は何もしないで!!」
「いや、しかし、このままだとサイレント殿の命が危ないでござる!!」
「魔王様が暴れれば暴れるほど、姫のテイムが強固になって、姫が有利になっていくから!!」
「分かったでござる」
しゅんとうなだれる魔王様。
「さあ、魔王は黙らせたっ!! サイレントを殺すのじゃっ!!」
「まずいぞい、このままだと、本当にサイレントが殺されてしまうぞい!!」
体中痛くて何もできないから、こうなったら、できることを全力でするしかない。
今、ボクにできることと言えばマジック・バックだ!!
……って、ダメだ。
マジック・バックを使うとフラットさんに魔力を奪われちゃうんだった……
それなら……
「気配察知!!」
「気でも狂ったのかっ?? 今ここで気配察知なんかして何になるのじゃっ??」
「これはボクの一番の特技だ!! 何事もやってみないとわからないじゃないか!!」
「はっはっはっ、遠方にいる仲間でも呼ぶのかっ??」
「あ、それいいね!!」
「はんっ!! バカだバカだとは思っていたが、まさかここまでとはっ!! まあ、いいのじゃっ!! 気のすむまでやるといいのじゃっ!!」
ボクは気配察知をする。
もっと、もっと、広く!! もっと、もっと、遠く!!
もっと、速く!!
光の速さを超えて、時空を超えろ!!
あれ??
この気配……
「ねえ、もしかして、ボクがカバッカ町にいるときからずーっと感じていた気配って君??」
「ついに気が狂ったのかっ!? お前のことをずっと見ていたのはここに倒れているフラットなのじゃっ!!」
「フラットさんでもなければ、姫様でもないよ。ボクは今、ボクのことをずっと見守ってくれていた人に話しかけているんだから!!」
「何を言っておるのじゃっ??」
「ねえ、もしも、姫よりもボクのほうが正しいと思うなら、君の力をボクに貸してくれない?? 君の力なら、アーノム・ギトーゲの兵士と貴族を正気に戻せるはずだよ!!」
忙しい人のためのまとめ話
魔王、サイレントを助けようとするが失敗する。
サイレント、気配察知をして、この物語を読んでいる読者に気づき、話しかける。