第52話 サイレント、すごいことに気づく
これまでのあらすじ
サイレント、弾を避け続け、院長先生に助けを求める。
サイレント、フラットさんに勝利宣言をする。
「なるほどー、インフィニティはー、サイレントさんを攻撃するわけでもー、私を攻撃するわけでもなくー、私が最初に撃った弾の3分が経過する瞬間を教えていたということですかー??」
フラットさんは出血している両腕を見ながら納得する。
「そういうことです!!」
1と0しか分からないボクに、院長先生は、両指を1本ずつ少なくすることで、ボクを追う時間が過ぎることを教えてくれていたのだ。
「時間が経てば、弾はボクのことを追わなくなるんですよね?? ボクを追わなくなった弾をフラットさんに跳弾させて、腕を使えなくすれば、ボクの勝ちってことです」
「私のミスですねー。そもそも、サイレントさんは数が分からないですしー、3分以内に倒せると思い込んでいたのでー、数えてすらいませんでしたからー」
「院長先生のおかげです」
実際、ボクは数えてないしね。
「でもー、わからないことがありますー。最初に撃った弾と後から撃った弾は、すべて同じ色と形のはずですがー、どうやって最初撃った弾を見分けたんですかー??」
「見分けたわけではないんです」
「それならー、最初に撃った弾に何か目印でもつけたんですかー??」
「いえいえ、そんな時間はありませんでしたよ」
「それならー、どうしたんですかー??」
「フラットさんが院長先生に注意が向いた瞬間、ボクに向かってくるすべての弾をできる限りフラットさんの腕に飛ぶように跳弾させたんです!!」
そう、わからなければ、すべての弾をフラットさんに当たるようにすればいいのだ。
その中の何発かはあたるだろう。
「なるほどー、さすがですねー」
「さて、まだ戦いますか??」
「両腕が使えないならー、私の負けですねー」
「降参してくれるなら、いい加減、弾のホーミングを解除してくれませんか??」
「すみませんー。ホーミング解除をしたいのですがー、できないんですー」
「できないって、どういうことですか??」
さっきは弾を止めていたよね??
「その弾はー、私が手をグーにしないとー、ホーミングが解除されないのですがー、残念ながらー、腕に力が入らないのでー、避け続けてくださいー」
「そんなー!!」
…………
……
ぜぇぜぇ、はぁはぁ。
なんとか避けたけど、だいぶ弾をくらってしまった。
全身血だらけで、ボクの体はボロボロだ。
麻痺が治ったら、院長先生かブリジットに治してもらおう。
「さて、フラットさん、約束です。どうしてラカンを脅してまでボクを勇者パーティーから追放したんですか??」
「それはですねー…………」
「おおっ、フラットよっ、倒れてしまうとは情けないのじゃっ!!」
姫様は大きな声で演技をしているかのようにわざとらしく叫ぶと、フラットさんに蹴りをいれて転ばせた後、血だらけの腕を踏みつけた。
「痛いー」
「フラットさんを踏みつけるな!!」
「負けたフラットが悪いのじゃっ!! せっかく妾が神になる手伝いをさせてあげようとしていたのにっ!!」
「すみませんでしたー」
這いつくばりながらも、フラットさんはいつも通りの表情で姫様に謝る。
いや、フラットさん、なんで謝るの??
「人類最強でない騎士団長など、騎士団長ではないのじゃっ! 地位をはく奪の上、契約は破棄するのじゃっ!!」
姫の言葉にフラットさんはニッコリと微笑んだ。
「騎士団長の地位をはく奪だって?? なんてひどいことをするんだ……って、ちょっと待って。フラットさんって、騎士団長なの??」
「ん? 何を言っておるのじゃっ?? フラットはお主に負けるまでは人類最強じゃったっ!! 人類最強は騎士団長に決まっているのじゃっ!! この国の常識じゃっ!!」
姫はフラットさんの背中を踏みつけながら説明する。
フラットさんは今度は悲鳴すらあげなかった。
「フラットさんから降りてくれない?? まだ、フラットさんの口からどうしてラカンを脅してまでボクを勇者パーティーから追放したか聞いてないんだけど」
「もしも、お主が本気で妾をフラットから引き離したいなら、妾と契約して、騎士団長になるのじゃっ!!」
「願いをかなえる代わりに契約して騎士団長になれと??」
「そういうことじゃっ!! 騎士団長になって、妾の命令さえ聞いていれば、『地位』も『名誉』も『福利厚生』もすべてが手に入るのじゃっ!! 良い契約じゃろっ??」
「確かに良さそうな契約だ……って、ちょっと待って。フラットさんは今まで騎士団長だったんだよね?? フラットさんも君の命令に従っていたの??」
「その通りじゃっ」
「それじゃあ、フラットさんがボクを追跡したり、天界で暴れたり、バリアの件で脅したり、ラカン達を人質にしてボクと戦わせたのって……」
「それらはすべて妾が命令したのじゃっ!!」
「なるほど、そういうことだったのか!!」
色々とつながってきたぞ!!
「何を納得しているのじゃっ??」
「すべての元凶はあなただったんですね、姫!!」
「元凶が妾??」
「そうだよ。フラットさんは心優しいんだよ。命令でもされなければ、ボクを追跡し続けたり、天界で暴れたり、脅したり、人質をとってまで戦いを強要するはずがないもん!!」
「いやいや、最初からフラットの性格は極悪で腹黒かもしれないのじゃっ!!」
「それは違うよ!!」
「どうしてそういいきれるのじゃっ??」
「だって、もしも、フラットさんの本性が本当に腹黒なら、ボクとの戦いに手を抜いた上に、油断するはずがないよ!!」
「手を抜いた上に油断しただとっ??」
「そうだよ!! だって、もしもフラットさんが最初からボクを倒したいなら、最初から弾の説明はせずに、弾を撃てば良かったんだ。それなのに、わざわざ説明をしてくれたんだ、フラットさんは」
「確かに、わざわざ説明しなくてもとは思っていたが、なるほど、手を抜いていたのか……どうして手を抜いたのじゃっ??」
フラットさんをにらみつける姫。
「そんなのフラットさんに訊くまでもないよ。答えは簡単。姫を見限ったからだよ!!」
「何?? 妾を見限ったじゃとっ??」
「そうだよ」
「こうなるなら、サイレントと戦って神の権利を奪えではなく、最初からサイレントを殺せと命令していれば良かったのじゃっ!!」
ボクとフラットさん、命の取り合いをさせられるところだったの??
怖いよ、この姫様。
「まあ、過ぎてしまったことはよいのじゃっ!! 過去を振り返らずに、これからのことの話をするのじゃっ!! サイレントよっ、妾と契約して騎士団長になるのじゃっ!!」
フラットさんを足蹴にしながらボクに手をさしだしてくる姫。
「君の命令に従いたくはないから、騎士団長になるのは辞退するよ!!」
「それならば、フラットのように強制的に騎士団長にするしかないのじゃっ!!」
とてつもなくどす黒いオーラを出してくる姫様。
「強制的に?? 今、強制的にって言った??」
「はっはっはっ、冗談じゃっ、冗談っ!! フラットはお主に負けるまでは人類最強だったのじゃっ!! 強制的にフラットに命令なんかできる人間存在するわけがないのじゃっ!!」
確かに、姫の言う通りだ。
今までフラットさんは人類最強だったんだ。
その人類最強のフラットさんを命令できるはずが…………
「あーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」
ボク、すごいことに気づいちゃった。
忙しい人のためのまとめ話
サイレント、冒険者ギルドの受付で、神殺しで、騎士団長のフラットさんを降参させる。
サイレント、フラットさんが姫の命令に従っていたと知る。