第51話 サイレント、誘導される
これまでのあらすじ
アリア、フラットさんと戦って撃たれる。
サイレント、フラットさんの1万発の弾丸に追われたので逃げる。
落ち着け。
弾丸はボクを最短ルートで狙ってきているはずだ。
それならば、お城の外に行けば、逃げ切れる!!
余裕じゃないか!!
開いていた窓から外に出た瞬間、銃弾が外からボクのこめかみめがけて飛んできた。
反射的に顔をそらし、ギリギリで弾をかわす。
最短距離でボクを追ってきていない弾もあるなんて聞いてないんだけど!!
おそらく、万弾銃の何発かは、ボクを最短距離では追わずに、最初から窓から逃げることを見越して、外に出ていたのだ。
お城の外に逃げれば余裕と思っていたのに、これじゃあ、お城の外に出るのは難しい。
全方向から向かってくる銃弾、どこに逃げればいいんだろう??
…………あれ??
どうやら、一方向からは弾がとんできていないみたいだ。
ラッキー。
ボクは弾のない道を走る。
たどり着いた先はお城の中庭だ。
あれ??
中庭に何かあるぞ。
あれは……階段付きの処刑台だ。
誰かを見せしめで死刑にでもするのだろうか??
この前来た時にはこんなものなかったのに……
……なんて周りを気にしている場合じゃない。
はやく逃げないと。
中庭にたどり着いた瞬間、弾が追いかけなくなってきた。
どうやら、3分経ったみたいだ。
今のうちにどうするか考えないと……
ボクが考えていると、パチパチパチと拍手が聞こえた。
音の先を見ると、フラットさん。
「さすがですー、これだけの速さで走ってー、まさかー、息一つ上がっていないとはー」
「どうして、フラットさんがいるんですか??」
「簡単ですー。サイレントさんがー、ここに来るようにー、最初から誘導していたんですからー」
ああ、なるほど。
最初から、追う弾を調整して、ボクがここに来るように仕向けていたわけだ。
道理で、弾の速度が遅いわけだ。
「ボクを誘導したら、フラットさんは勝てると思っているんですか??」
「そうですねー。答えはこれですー」
そう言いながら、フラットさんは散弾銃を今度は空に向かってパンと銃を撃った。
「空に向かって弾を撃つのが答えって、どういうことですか??」
「祝砲ですよー。お祝いするときにガンマンは空に向かって銃を撃つんですー」
「勝ってもいないのに、勝利宣言ですか??」
「この量と速さの弾なら避けきれませんからー!!」
そう言いながらフラットさんは、ボクめがけてパンと銃を撃った。
「ボクはもはや光よりも速く動けるんです。フラットさんの弾丸も当たりません。ですので、諦めてください、フラットさん」
「当たらないようにしていたのは私ですよー、なめないでほしいですー」
「もうその攻撃は見ているんですよ!!」
1回目はビビッて逃げたけど、今度は対処の仕方を考えたもんね。
万弾はたくさん飛んでくるけれど、起点はフラットさんからで、ボクの背後には飛びようがない。
つまりは、前だけに意識を集中すればいいんだ……って、後ろから、無数の弾が……
どうして??
3分経ったと思っていたけど、まだ3分経っていなかったのか??
いや、今はどうして後ろから弾が飛んできているかを考えている暇はない。
後ろには逃げられないということだけは確かなのだから。
それなら、右前に避けるか……いや、右には弾丸が飛びすぎている。
ここは左へ行って、処刑台のある階段を上るしかない。
「やはりー、処刑台に逃げましたねー」
フラットさんが言うと、パンという破裂音。
心臓に向かって飛んでくる弾をボクはギリギリで避けた。
間違いない。
フラットさんは、ボクが逃げる先を誘導している!!
「どんなに速く動けてもー、私の前では無力ですー。弾丸でサイレントさんの逃げ道を誘導さえすればいいんですからー」
それなら、もっと上へ……
ボクが空動を使おうとすると、上空から多くの銃弾が降り注ぐ。
「まさか、祝砲で上空に撃った弾は、こうなることを見越して撃っていたんですか??」
「その通りですー」
まずい、上も右も左も逃げるところがない。
こうなったら、処刑台ごと壊して、下に逃げるしかない。
以前、ダガーを地面に投げて、穴を作り、そこから逃げるしか……
「また、処刑台を壊して、穴を作るんですかー?? 火ネズミと戦った時もー、スタンディング・ウッドと戦かった時もー、サイレントさんは地面に攻撃して地形を変えていましたからねー」
フラットさんは左手を後ろに隠し、ボクを右手の拳銃で狙いながら尋ねて来た。
そっか、ボクの戦いを見ていたから、予測がつくのか……
これは非常にまずいぞ!!
フラットさんの言う通り、地形を変えても、フラットさんはボクの行動を予測して、攻撃をしかけてくるだろう。
だからといって、このまま何もしなければ、最初に撃ったフラットさんの弾丸の餌食だ。
何か、策はないのか??
……そうだ、マジック・バックだ。
弾丸は生き物じゃない。
生き物じゃないなら、マジック・バックですべての弾丸を収納してしまえばいいんだ!!
ボクはすぐさまマジック・バックを取り出した。
ボクが弾をマジック・バックに入れようとしたその時である。
「弾が止まった??」
そう、すべての弾が空中に張り付けられたかのように止まったのだ。
なんで??
ボクが疑問に思っていると、フラットさんは左手に持っていた銃で、パンと一発撃ってきた。
「弾が止まっているのはー、私の意志ですねー」
「よし、それなら、この隙にマジック・バックで……」
ボクは止まっている弾よ、入れと念じる。
よし、止まっている弾を1発、マジック・バックに回収できたぞ!!
これなら、全部の弾も回収可能だ!!
ふふふ、ボクの勝ちだよ、フラットさん。
「無駄ですよー、サイレントさんー」
「無駄?? 何を言っているんですか?? 回収できますよ」
「いいえー、回収はできなくなりますー」
「どういうことですか??」
ボクが訊いた瞬間、マジック・バックに穴が開いた。
「魔法吸収弾ですー」
「しまった!!」
「サイレントさんがマジック・バックを出し続けている限り、魔力は私に奪われ続けますー」
「それなら、すぐにマジック・バックを片付けて……と」
ボクはすぐさまマジック・バックを片付けた。
「マジック・バックを片付けたらー、私の弾からどうやって逃げるんですかー??」
「あ」
まずい、まずい、まずい。
マジック・バックが使えないなら、回避するしかないじゃないか。
でも、どこに??
「そうだ、また過去に戻れば……」
「何を言っているんですかー、フラットさんー。マジック・バックが使えないならー、過去にも戻れないじゃないですかー」
あ、そっか。
本当にどうしよう……
「えっとー、考えているところ申し訳ないのですがー、弾を動かしますねー!!」
フラットさんの言葉とともに、弾が動き出した。
忙しい人のためのまとめ話
サイレント、フラットさんに逃げ道を誘導されて中庭にたどり着く。
サイレント、マジック・バックで弾を全て回収しようとするが、フラットさんに阻まれる。