第38話 サイレント、逃げる
これまでのあらすじ
魔王に認められたこと噂を広めてもらったサイレント、指名手配されなくなる。
サイレント、お城の祝賀会に参加するためにアーノム・ギトーゲに戻る。
「見えてきましたね、アーノム・ギトーゲ」
遠くの方に小さく城壁が見える。
「そうですねー」
近づいていくと、城門の前に人々が集まっていた。
「あ、サイレントだ!!」「サイレントがいるぞ!!」「本当だ!!」
たくさんの人がボクを指さす。
「まずい、逃げないと!!」
みんな追いかけてくるに決まっているんだから。
ボクは走り出そうとする。
「サイレントさんー、逃げずに、人々を見てくださいー」
「え??」
フラットさんに呼び止められ、ボクは振り返る。
「あ、魔王に認められたサイレント様がいらっしゃった!!」「サイレント様のパーティーのアリア様とインフィニティ様とフラット様もいらっしゃるぞ!!」「手を振って!! サイレント様」
老若男女がボクたちにフラワーシャワーをかけながら祝福の声をかけてくれた。
「どうやら、追いかけられる心配はなさそうですね」
「そうですよー、記念凱旋のお披露目会ということで、入国門を貸し切っているんですからー」
わざわざボク達のために。
ちょっと信じがたいんですけど。
「いや、でも、この中にはボクの懸賞金を取り下げたことを知らないで、追いかけてくる人がいるかもしれないですし」
「もしもー、そんな人がいるならー、お城からの招待状を見せればいいんですよー」
「なるほど!」
そっか、お姫様からの招待状があるのだ。
「ご理解いただけたならー、サイレントさんー、堂々と人々に手を振り返してあげてくださいー」
「え? あ、はい」
フラットさんに促され、ボクは手を振ると人々の歓声が上がる。
おお、気持ちいい。
これだよ、これ。
これこそ、勇者様の凱旋だよ。
人に囲まれているのに、逃げなくていいというのは本当に久しぶりな気がする。
「ほらー、サイレントさんだけじゃなくー、アリアさんもー、インフィニティもー」
「分かったデス」「分かったのよ」
院長先生とアリアも手を振り返すと、やはり歓声が上がった。
「いい感じですー。このまま手を振りながら大通りをゆっくり歩いてー、王城の中へ入りますよー」
「分かりました」「分かったのよ」「分かったデス」
ボクたちはうなずくと、手を振り返して、王城へと入った。
「王城へ入りましたが、どうすればいいんですか??」
「私についてきてくださいー」
フラットさんについていくと、謁見室には、たくさんの貴族が立っていて、玉座には王女様が座っていた。
「ルゥ姫様ー、魔王に認められたものを連れてまいりましたー」
「うむっ、ご苦労なのじゃっ!!」
「王様は??」
ボクはフラットさんに尋ねる。
「しー、お静かにー、姫様に聞こえてしまいますー」
「すみません」
苦手なんだよな、このお姫様。
「しっかり聞こえておるのじゃっ!! 王様は今、お忙しいのじゃっ!!」
「忙しい?? そんなはずはないと思うんだけど……」
「何を根拠にいっているのじゃっ!!」
「だって、ほら」
ボクは隠し通路を指さす。
「うう、あげは様、あげは様、この愚民の代表である愚かなワタクシめにご命令を! あげは様!!」
「王様は体調が良くないからっ!! 妾が代わりにお前たちを労ってあげるのっ!! はやく誰か、この王様を連れて行ってっ!!」
まだ、治ってないんだ、王様。
……って、この場に貴族やら来賓がたくさんいるみたいなのに、大丈夫なのか??
ま、いっか。
ボクには関係のないことだ。
「さて、サイレントよ、お主は魔王に認められたそうではないかっ」
「そうですね」
お姫様の言葉にボクはうなずく。
正確には魔王とは知らずにアリアのパパと戦っただけなんだけど、そこは伏せておいた方が良さそうだ。
「さすがは、妾が見込んだ通りじゃっ」
ボクのことを見込んでいただって??
いやいや、ボクのこと見込んでいたなら、デッド・オア・アライブの賞金首なんかにしないでよね。
「ささやかながら、パーティーを開いたので、楽しむと良いのじゃっ!!」
「「「「「サイレント殿!!」」」」
お姫様は挨拶を終えた瞬間、貴族のおじさんたちがボクを取り囲んできた。
「ちょっと待つデス!! 師匠は……うわっ」「アリアちゃん、今、サイレントに近づくのは危険なのよ」「そうですねー」
あまりにも多くの貴族たちが取り囲んでくるので、アリア・院長先生・フラットさんと分断されてしまう。
「ぜひ、うちの娘が結婚したいと言っているのですが、結婚していただけませんか、サイレント様??」「待つのですぞ、私の娘もサイレントさんと結婚したいと言っているんだぞ!!」「抜け駆けはいけませんな。我の娘も結婚したいと申しております」
貴族のおじさんたちが、ボクに話しかけてくる。
モテ期、到来!!
……って、ちょっと待って。
なんで貴族のおじさんしかボクに話かけてこないのさ??
結婚したいと言っている本人が直接、ボクに声をかけてよ!!
まるで、ボクとおじさんが結婚するみたいじゃないか。
「サイレント様、久しぶりっす!!」
女性の声が後ろからした。
久しぶりということは、ボクのことを知っている人だろう。
「お久しぶりだね!!」
ボクは貴族のおっさんたちを無視して、すぐさま振り返った。
そこにいたのは、………天使長カナエル!?
逃げろ、逃げろ、逃げろ!
ボクは反射的にすぐさま脚に力を入れた。
まさか、カナエル、ボクが天界のバリアを壊したから、ボクを捕まえに来たのか??
人間界と天界は協定が結ばれているけれど、ボクの記憶が確かなら、人間界に神候補があらわれれば、協定が破棄されると聞いていたけど、まさかこんなにも早く破棄されるとは思わなかった。
間違いなく、カナエルはボクの命を狙っている!
「「「どうしたのですか、サイレント殿??」」」
逃げたいのだが、事情を何も知らない貴族たちに取り囲まれてしまった。
「ちょっと待つっす!! 話を聞くっす!!」
話を聞いている最中にホーリィをぶっ放されてお陀仏ということもあり得る。
「待てないですし、話も聞きたくないです!! 貴族たち、そこどいて!! ボクが逃げられない!!」
忙しい人のためのまとめ話
サイレント、アーノム・ギトーゲの人々に祝福される。
サイレント、カナエルがいたので逃げようとするが、貴族に取り囲まれて逃げられない。