第29話 サイレント、走馬灯をみる
これまでのあらすじ
サイレント、仲間の支援を受けようとするが、アリアパパが阻止する。
サイレント、妖精さんから逃れるために上空へ行くが、妖精さんがついてくる。
こうなったら、アリアパパに攻撃をするか??
……いや、ダメだ。
もしも、ボクが攻撃モーションをとれば、妖精さんは有無を言わさず、ボクにぶつかってくるだろう。
もしも、この空中で妖精さんにぶつかれば、アリアたちも巻き込んでしまうかもしれない。
ここは覚悟を決めて、地面に激突して死のう。
ボクが地面に激突して死ねば、妖精さんも爆発しないだろうから、アリアたちは巻き込まれないはずだ。
ボクは空動を何度も何度も使い、速度を上げて、地面へとダイブする。
あーあ、ボクの人生、地面に激突して死亡か……なんて人生だ!!
考えてみれば、生まれてから良いことなんか全然なかったな……
町のみんなからはバカだバカだとバカにされ、バカだから詐欺師に何回も騙されて、そのたびにお金を何度も失ったな……
こう考えると、後悔ばかりの毎日だった。
特にラカンには取り返しのつかないことをしちゃったな。
あの時のこと、きちんと正直に謝っておけばよかったよ。
まあ、いいや、あの秘密は墓場まで持っていくから、安心してね、ラカン……
……って、あれ??
まだ、地面に激突していない。
もしかして、時間の経過が遅くなっているのか??
きっと、これが死ぬ前に見る走馬灯というやつだ。
走馬灯って、こんなに時間の経過が遅いんだな。
それなら、来世のことを考えてみよう。
来世では、異世界転生して、チートな能力をもらって、平穏に暮らせますように。
ボクが願っていると、ボクをしっかりと見ているアリアの姿が目に入ってくる。
アリアの眼は、間違いなくボクの勝ちを信じて疑わない眼だった。
こんなバカなボクのことをバカにせず、ずっと信じてついてきてくれたアリア。
ボクがここで諦めて、死ぬことを選んだら、アリアを悲しませてしまうだろう。
ボクを信じてくれたアリアを悲しませるなんてことなんて、ボクにはできない!!
地面に激突なんかせずに、生き残って、アリアのパパを倒さないと!!
生き残るためには、とりあえず、マジック・バックの中に入るしかない!!
マジック・バックの中に入ったら最後、出た瞬間に妖精さんにタッチされてジ・エンドだけど、生き残って反撃するためだ、今は仕方がない。
吸い込め!!
ボクはマジック・バックにボクと周囲の空気を吸いこむように念じていた。
念じた瞬間、ボクはマジック・バックの中に吸い込まれていく。
だが、この程度の速度じゃダメだ。
きっと、光の速さの妖精さんに追いつかれてしまうだろう。
ボクは頭から落下しながら瞬間的に空動で空気を何度も蹴り、超速でマジック・バックの中に入った。
その瞬間、視界が黒くなり、ぐにゃぐにゃと歪み始めた。
ダメだ、目を開けていられない。
目をつむった瞬間、意識まで遠のいた。
…………
……
はっ、ここはどこだ……
意識が回復したボクは辺りを見回す。
あたりは暗闇に包まれていた。
もしかして、ここが天国なのか??
いや、違う。
ここは、見覚えがあるぞ。
あ、そうだ、マジック・バックの中だ。
ボクはじっと手をみた。
体が残っているということは、妖精さんにぶつからずにマジック・バックに入れたということだ。
ふう、とりあえず、生き残れた。
良かった、生き残れて。
とりあえず、アリアを悲しませることはないだろう。
さて、これからどうするかを考えないと……
ボクが解決すべき問題はただ一つだ。
どうやって、ここから出るかということのみ。
いや、ここから出るのは簡単なのだ。
以前、マジック・バックの中に入ったときと同様に、光のさすほうへと移動すれば、マジック・バックからでることはできるだろう。
だがしかし、ボクがマジック・バックから出た瞬間に、間違いなく待ち構えている妖精さんに攻撃されてしまう。
どれくらいの時間、マジック・バックの中で気絶していたかは分からないが、妖精さんが帰ったということはないだろうし……
ボクがマジック・バックの中にいる間にアリアか院長先生が魔法で妖精さんを何とかしてくれないかな……
……無理か。
アリアパパのアンチ・マジックだったっけ??
あの能力がある限り、アリアの院長先生の魔法も無力化されてしまう。
……かといって、マジック・バックの中に居続けることもできないし……
この後どうするべきか全然わかんないや。
なんでボクはこんなにもバカなんだ。
後先を考えない男の代名詞になってもおかしくないレベルだ。
いや、もうすでにバカ代表なんだけどさ。
ん?
マジック・バックの中だというのに、近くに人の気配がする……だと……
ボクの記憶が正しければ、マジック・バックの中は誰もいれていないはずだ。
なぜ人の気配がするんだ??
ちょっと待てよ。
気絶していたということは、もちろん、気配察知も使っていなかったということだ。
もしも、妖精さんがボクと一緒にマジック・バックの中に入っていたとしたら、この気配はボクの姿をした妖精さんの気配ということになる。
もしもボクが感じた気配が妖精さんだったなら、ボクが妖精さんに気づいた瞬間に僕に触れるに違いない。
なぜなら、妖精さんはドSだから。
ボクは冷や汗をかきながら、いつでも空動で逃げ出せるように準備してから、気配察知をした。
足元の方にボクと同じ体形の人がいるようだ。
ボクを追いかける際、妖精さんはボクの姿になっていた。
足元にいるのは妖精さんで確定だ。
すぐに逃げないと!!
ボクは妖精さんに気づかれないように、光が差す出口へと全力で空動を使い、マジック・バックから這い出た。
……って、しまった。
もしも、さっきのが妖精さんじゃなければ、ボクはマジック・バックから出た瞬間に妖精さんに触れられて、木端微塵じゃないか。
あわわわ……
どうしよう、考えなしにでてしまった……
ごめん、アリア!!
ボクは心の中で謝罪しながらマジック・バックを抜けると、そこはアーノム・ギトーゲ城だった。
……って、アーノム・ギトーゲ城??
周りを見回すと、そこにアリアパパも妖精さんもおらず、アリアと院長先生とフラットさんだけだった。
何で??
忙しい人のためのまとめ話
サイレント、妖精さんから逃げるためにマジック・バックの中に逃げ込む。
サイレント、マジック・バックから出ると、なぜかアーノム・ギトーゲ城いる。