第26話 サイレント、遊ぶ
これまでのあらすじ
サイレント、アリアパパと戦う。
サイレント、アリアパパの攻撃を避け続ける。
「降参しないだって?? それなら、どうやってボクに攻撃を当てるつもりなの??」
「こうするでござる!! 力を貸してくれないでござるか、妖精さん」
何もないところで誰かに話しかけるアリアパパ。
アリアにはいえないが、やはりアリアパパはやばい魔族なのかもしれない。
「ありがとうでござる」
誰かに話しかけているけれど、やはりそこには誰もいない。
……いや、違う。
目を凝らすと、そこには確かに、何かうっすらと光っていた。
もしかして、あれが妖精さんなのだろうか??
「師匠、逃げるデス! パパが妖精さんの力を借りてしまったデス!! パパは本気デス!!」
「そうみたいだけど、それが何だっていうのさ??」
「今から妖精さんは石の中に入って、師匠を追って飛んでくるデス!! 今すぐに逃げるデス!!」
いくら妖精さんが入っているからとはいえ、石は石だ。
「石なら逃げる必要なんかないよ。迎え撃てばいいんだから」
ボクはダガーを野球のバットを振り回すように構えた。
「それはおすすめしないデス」
「どうしてさ、アリア。飛んでくるのは石なんだよ。ボクのダガーで斬るなり、叩き落とすなりすればいいんだよ!!」
「妖精さんが宿った石は爆弾化するデス」
「爆弾化だって??」
「そうデス。斬ったり叩き落したりした瞬間、爆発して、師匠の体は木端微塵デス」
「斬ったり叩き落したりするのがダメなら、虫取り網で捕まえてやる!!」
「同じデス!! 網にあたったとたんに爆発して。師匠の体は木端微塵デス」
なんてこった。
「それなら妖精さんをマジック・バックの中に入れればいいんだ!!」
ボクはマジック・バックを持って構える。
「妖精さんは生き物デスから、許可なしにマジック・バックの中に入れることはできないデス」
「それならどうすればいいのさ??」
「逃げながら対策を考えるしかないデス」
「分かったよ」
ボクは脚に力を入れた。
「妖精さんの準備は整っているでござる!! 逃げる時間など与えないでござる!!」
ほのかな淡い光を放ちながら、ふわふわと浮かぶ石。
「そのようですね……」
「さあ、妖精さん、サイレントの体を粉々にするのでござる!!」
「やめて、来ないで!!」
ボクは叫んでしまっていた。
「懇願したところで、妖精さんがお前の言うことを聞くわけがないでござる!!」
「そうですよね……って、本当に追いかけてこない!!」
アリアパパが命令したにも関わらず、妖精さんはアリアパパの周りを行ったり来たりしている。
「どうしたでござるか、妖精さん?? はやくサイレントを追いかけるでござる!!」
アリアパパはお願いするが、一向に妖精さんはボクのほうにこない。
「もしかして、妖精さん、反抗期なんじゃないの??」
「妖精さんに反抗期はないでござる!!」
「傍若無人な主人の命令に嫌気がさしたとか??」
「妖精さんと拙者は一心同体。嫌気がさすなんてことはないでござる」
「それならどうして追ってこないのさ??」
「何か迷いがあるのでござる」
「迷いって何?? アリアパパの命令を聞くかどうかってこと??」
「拙者の命令は絶対でござる!! 妖精さん、目の前のサイレントを追いかけるでござる」
ボクのことをぴしっと指さしてくるアリアのパパ。
「だから、妖精さんは反抗期で追ってはこないんだってば……って、追ってきてる!!」
アリアのパパの指を見た妖精さんはボクめがけて飛んできた。
「そうだ、いいぞ、妖精さん!!」
興奮して妖精さんを応援するアリアパパ。
「何で妖精さんは急にボクを追う気になったの??」
「師匠、疑問に思うより、速く逃げるデス。逃げている間に、反撃する方法を考えるデス」
「そうだね」
アリアに促され、ボクは全力で逃げ出した。
妖精さんに触れてしまえば、ボクの体は木端微塵だ。
……って、あれ?
妖精さんの速さが遅い??
ボクの気配察知がうまく機能していないのか??
ボクはちらりと後ろを振り返る。
そこにはふわふわと宙に浮く石がボクの後をついてきていた。
なーんだ、この程度の速さなら余裕で逃げ切れるぞ。
それなら、ちょっと遊んであげよう。
「これくらいの速さなら追いつかれることもないよ! なんなら、あの山のふもとまで競争でもしちゃう??」
ボクは目の前にあった山を指さす。
指さすと同時に、どかーんという音がしたかと思ったら、山にトンネルができていた。
「あれって、もしかして……」
ほほに冷や汗を感じながらアリアに尋ねた。
「妖精さんの仕業デスね」
「さっきまであんなに遅かったのに、どうしてあんなに速く動いたの??」
「妖精さんは『遊ばれたから本気出す』性格なのでござるよ」
できれば『明日から本気出す』性格であってほしかった。
なんでボク、妖精さんと遊ぼうと思っていたんだろう。
さきほどの自分を殴りたい。
「さすが、師匠、勝つ方法を考えついたから、あえて、妖精さんを挑発したんデスね」
うん、違うよ、アリア。
ボクがただ、妖精さんをなめていただけだよ。
「あはは」
アリアの言葉にボクは笑ってごまかした。
「さすが師匠デス!!」
どうして、前向きにボクのことを信じられるのかな、アリアは。
「舐められているでござる!! 妖精さん、憎きサイレントを倒すでござる!!」
指示を出すが、妖精さんはボクを襲ってこない。
「あれ? 妖精さんは山に穴を開けた後、戻ってきていないけど、もしかして、1度爆発したから、もう追ってこられないんじゃないの??」
「それはないでござる。妖精さんはタフでござるからな。おそらく、なめられたことに腹を立てて、どのような無残な決着をつけるかを考えているでござるよ。前にもあったことでござる」
最悪だ。
忙しい人のためのまとめ話
サイレント、妖精さんをなめて、遊んでしまう。
サイレント、妖精さんを舐めたことを後悔する。