第23話 サイレント、アリアパパに呼び止められる
これまでのあらすじ
アリアパパ、サイレントの名前をシショーだと勘違いする。
サイレント、アリアパパが言っている悪い虫『サイレント』が自分だと気づく。
「そうなのでござる! 最悪最低の害虫でござる!!」
「たしかに、そうかもしれませんね」
ボクはアリアパパの眼をみないようにしてこたえる。
「アリアたんには絶対に言えないでござるが、害虫サイレントはアリアたんの水浴びを覗こうとした不届きものでござる」
そういえば、ダークドラゴンの背中から降りた山の中で、そんなこともあったな……って、何で知っているの??
あの時は近くにスケアード・スライムしかいなかったはずなのに。
まさか、あの時、アリアパパもその場にいたのか??
……いや、待て待て、もし、アリアパパがいたとしたなら、ボクの顔くらい分かっているはずだ。
もしもボクの顔を分かっているなら、もうすでにボクはこの世にいないだろう。
つまり、アリアパパはボクのことに気づいていない。
ここは慎重に、刑を軽くすることだけに全力を注ごう。
「覗こうとしただけで、実際に覗いたわけじゃないですよね??」
「アリアたんの水浴び姿を覗こうとしただけで、ギルティでござる!!」
アリアのパパ、目が本気の目だ。
「ギルティって言っても覗きの未遂ですから軽犯罪ですよね??」
「そうでござるな。軽い罪でござる」
ふう、うまく罪を軽くできそうだぞ。
「そうですよね、軽犯罪なら、アリアパパはどのような刑をする予定ですか??」
「火あぶりにしながら死刑でござるな」
え?
火あぶり??
「シショー殿、顔が青いようでござるが、大丈夫ででござるか??」
「いや、火あぶりは重罪なのではないかと思いまして」
「そんなことないでござる。悪い虫はやはり火あぶりにかぎるでござる」
「ははは、そうですよね、そんな悪い虫、火あぶりにしながら死刑ですよね」
まずい、はやくこの場から逃げないと。
ボクは同意しながらも、なんとかその場を離れようと試みる。
「おや、シショー殿、どうやら、大量の汗がでているみたいでござるが、大丈夫でござるか??」
まずい、このままの流れだとボクがサイレントだってばれちゃう。
「ボク、汗っかきなんですよ。ああ、暑い」
「今日は汗をかくほど暑くはないでござる。むしろ霧が出るほど気温は低いでござるが……」
まずい、なんとかごまかさないと。
「ちょっと動いただけでもボクは汗をかく体質なんですよ」
「そうだったでござるか。それは失礼したでござる。拙者、勘違いしていたでござる」
「へえ、勘違い。どんな勘違いをしていたんですか??」
「サイレントという人間の情報を知っているから、それを隠そうとして、汗をかいていると思ったでござる」
「ボクがサイレントという人間を知っている? そんなわけないじゃないですか。ボクはサイレントなんていう名前の人間、知りませんよ」
本人だけど。
絶対に言えない真実がここにある。
「そうでござるか」
「師匠、パパと何を話しているデスか?」
「あ、ごめんね、アリア。今、行くよ」
ナイス、アリア。
君のおかげで話を切り上げられそうだよ。
ボクはそそくさとアリアの方へと向かった。
「時にシショー殿」
背後からアリアパパに呼び止められ、びくっとしながら振り返る。
「なんですか??」
バレたのか?? バレてしまったのか??
「シショー殿、なぜ、アリアたんを呼び捨てにしているでござるか??」
なんだ、バレたわけではなかったのか……
一安心するボク。
「まさかとは思うのでござるが、アリアたんと付き合っているなんてことは……」
またも殺意を向けてくるアリアパパ。
返答を間違えるとボクの命はない。
「付き合ってないです」
「それならなぜ、呼び捨てをしているでござる??」
「えっとですね、それは、そう、ある程度仲良くなるまでは、人間界では呼び捨てにするのが一般的なんですよ」
「そうだったでござるか。拙者はまた、シショー殿とアリアたんが付き合っているから呼び捨てにしているのかと思ったでござる」
「そんなわけないじゃないですか。ただのパーティー仲間ですよ」
正確には冒険者ギルドに申請していないから、本当のパーティーじゃないけど。
「そのパーティーメンバーは、シショー殿とアリアたんのみでござるか??」
殺気立って訊いてくるアリアパパ。
あ、これ、ボクとアリアのパーティーだと言っちゃいけないやつだ。
「ボクのほかにも、院長先生とフラットさんがいますよ」
「本当でござるか?? アリアたん??」
「あの堕天使とフラットお姉さまは正式にパーティーに入っているんデスか??」
アリア、ここは空気読んで、パーティーの仲間ですってこたえようよ。
アリアのパパがとても不機嫌になってきているじゃないか。
「何を言っているの、アリア。院長先生とフラットさんは正式なパーティーに決まっているじゃないか」
「ここにはシショー殿とアリアたんしかいないみたいでござるが」
「今はちょっと別行動をしているんですよ」
ボクはすぐさま気配察知をして、院長先生とフラットさんの気配を探る。
どうやら、こちらに向かってきているようだ。
「本当でござるか??」
「本当ですよ、ほら、あちらから来るのが、ボクたちのパーティー仲間です!!」
ボクが指さす方角に、まさしく院長先生とフラットさんがいた。
「『ボクとアリアのパーティー仲間の院長先生にフラットさん』、用事は済みましたか??」
「もちろんなのよ。樹海を飛び回っていたアーノム・ギトーゲの兵士たちに事情を伝えて、そのまま本国まで戻ってもらったのよ」
「事情を伝えたとはどういうことでござるか??」
「えっと、こっちの話なので、気にしないでください」
さすがに、魔族との全面戦争の話を盗み聞いたので、人類に報告しました……と正直には言えないぞ。
「サイレント、あなた、魔族に捕まっちゃったのよ??」
質問しながら、ボクの返答を待つことなく、早口で呪文を唱えて、光の槍を手にする院長先生。
さすが、院長先生。
すぐさま状況を理解して、ボクを助けようとしてくるなんて……
「アリアちゃん、サイレントは置き去りにして、すぐに逃げるのよ!!」
うぉーい、助けてくれるんじゃないんかい!!
「落ち着いてください、院長先生!! こちら、アリアのパパですから!!」
「あなたがアリアちゃんのお父様なのよ!!」「そうなんですねー」
驚く院長先生と間延びした返事をするフラットさん。
「そうデス!! つまりは危険魔族デス! 堕天使はどんな魔族でも倒すって師匠と約束をしていたデスよね?? すぐにホーリィで倒すデス」
「なんと、アリアたんのパパである拙者を倒そうというのでござるか??」
身構えるアリアパパ。
「私がアリアちゃんのお父様を倒すわけなんてないのよ」
院長先生の手にあった光の槍は、いつの間にか消えてしまっていた。
「さっきと言っていることが違うデス」
「それはそうなのよ。アリアちゃんのパパといざこざになったら、アリアちゃんとの結婚は夢のまた夢になってしまうのよ」
「…………」
院長先生の返答に言葉を詰まらせるアリア。
アリア、諦めな。
院長先生が前言撤回するのは今に始まったことではないんだから。
忙しい人のためのまとめ話
サイレント、アリアパパにどうしてアリアを呼び捨てにしているのか問い詰められる。
サイレント、仲間同士では仲良くなるまで呼び捨てにするとウソをついて、ごまかす。