第20話 サイレント、雑なアドバイスをもらう
これまでのあらすじ
魔族はアリアを捕虜にしたあげく、懸賞金をかけて魔王の命を奪いに来たと勘違いする。
魔族と全面戦争になることを聞いたサイレント、アーノム・ギトーゲに報告しようとする。
「ダメってどういうことですか??」
「サイレント、あなたはアーノム・ギトーゲの兵士たちに追われている身だということを自覚しているのよ?? もしもあなたがアーノム・ギトーゲの兵士たちに報告しに行ったら、捕まるのがオチなのよ」
「あ、そうだった」
ボク、デッド・オア・アライブの賞金首だった。
「話がややこしくならないように、アーノム・ギトーゲへの報告は私とフラットで行くのよ」
「院長先生、アリアとじゃなくて、フラットさんと報告に行くんですか??」
院長先生がフラットさんを指名するなんて珍しい。
てっきりアリアと行くと駄々こねると思っていたのに。
「インフィニティー、ついに私のことを好きになってくれたんですねー」
そわそわするフラットさん。
カップル成立だね。
良かったね、フラットさん。
ボクは心からフラットさんと院長先生カップルを応援します。
「私がフラットを好きになるはずがないのよ」
「それならどうして、フラットさんを指名したんですか??」
「消去法なのよ」
「消去法??」
「サイレントには懸賞金がかけられているし、アリアちゃんはもともと魔族なのよ。アーノム・ギトーゲに報告に行ったときに、アリアちゃんが魔族だと気づかれたら、報告が本当かどうか疑われちゃうのよ」
アリアに配慮して、聞こえないように小さな声でささやく院長先生。
「確かにそうですね」
「本当に不本意だけど、空を飛べる私とアーノム・ギトーゲのお姫様に信頼のあるフラットがタッグを組むしかないのよ!!」
「そんなこといってー、本当は私と二人きりになりたいからなんじゃないんですかー」
「ふざけていないで、早く行くのよ。ことは一刻を争うのよ」
「はいー」
フラットさんの手を引く院長先生。
「ちょっと待ってください。ボクとアリアは何をするんですか??」
「サイレントとアリアちゃんはこの敵の本拠地で見つからないように隠れ続けるのよ」
「敵地に残るなんて、超危険任務じゃないですか!!」
「危険な任務かもしれないけど、時間を稼ぐチャンスでもあるのよ」
「時間を稼ぐチャンス?? どういうことですか??」
「魔族はアリアちゃんを助け出してから、人間界を攻める作戦だと言っていたのよ」
「確かにそう言っていました」
「裏を返せば、アリアちゃんが見つかるまでは人間界は攻めることができないのよ」
「あ、そっか」
「まさか、魔族が集まっている中に、アリアちゃんがいるなんて夢にも思っていないはずなのよ。つまり、サイレントとアリアちゃんがここに隠れ続けてくれれば、『アリアちゃんが見つかるまで』は戦争の準備をする時間を引き延ばせるのよ」
「なるほど!! ……って、『アリアちゃんが見つかるまでは』って、見つかることが前提じゃないですか!!」
「おそらく見つかるのよ」
「もしも魔族に見つかったらどうすればいいんですか??」
「アリアちゃんは、もともと魔族で人間の捕虜にされていると思われているんだから、魔物にバレても保護されるだけで全然危険じゃないのよ」
院長先生はサムズアップした。
「あ、確かに。アリアは安全ですよね」
ポンと手を打って納得するボク。
「ちょっと待ってください。人間であるボクはどうなるんですか??」
「生きるのよ、サイレント」
院長先生は、片手でポンとボクの肩を叩いた。
「雑なアドバイス!! 見捨てる気、満々じゃないですか!! 見捨てないでくださいよ!!」
「大丈夫、あなたには魔物から逃げる脚があるのよ、サイレント」
「あ、確かに……って、いやいや、こんなに魔物がうようよいたら、いくらボクでも逃げ切れませんから。ボクも院長先生とフラットさんと一緒に報告をしにいったほうがいいと思うんですよ」
「指名手配されているあなたと一緒に報告するのは絶対に無理なのよ!!」
「そうですよね」
「それなら、最初からアリアちゃんと一緒にいないで、一人で逃げたらどうなのよ??」
「こんなところに一人でいるなんてできませんよ」
「それなら、なおさらアリアちゃんと一緒にいたほうがいいのよ」
「どうしてですか??」
「もしも、魔物に見つかったときに、犬のように四つん這いになりながら、『ボクはアリアちゃんの捕虜です!! どうかお助けください!!』とお願いすれば、魔物もお慈悲をかけてくれるかもしれないのよ」
「確かに!!」
ボクはポンと手をうった。
「師匠はアリアの捕虜なんかじゃないデス!!」
「アリア、ウソも方便という言葉があってね……」
「アリア、ウソは嫌いデス!!」
「そうだよね。ウソは良くないよね」
うん、知っていたよ、アリア。
でも、アリアには悪いけど、もしも魔族に見つかったら、全力でボクは捕虜だと主張しよう。
「話がまとまったところで、それじゃあ、達者になのよ、サイレント!!」
「がんばってくださいねー」
そう言い残すと、院長先生とフラットさんはボクとアリアを置いて、アーノム・ギトーゲへと向かって行った。
がんばれと言われても、ボクはただただ、気配を消し続けるしかないんですけど。
いや、ボクにできることはまだある。
魔物達の作戦を盗み聞くことだ。
院長先生たちとの会話で手いっぱい……いや、耳いっぱいだったけど、会話が終わった今、ボクの耳はあいている。
途中からでも作戦を聞くべきだ。
ボクが聞き耳をたてようとしたときに、『うぉー』という魔物達の歓声。
「すごく魔物達の士気が高まっているみたいデスが、何を言っていたデスか??」
「ごめん、聞いていなかったんだ。今から聞くから、ちょっと待ってて」
小さな音すぎて、ボクにしか作戦は聞こえないんだ。
ここはしっかりと作戦を盗み聞いて、アリアに先輩風をふかせよう。
ボクが聞き耳を立てた瞬間、突風がふいた。
「……話は以上でござる!! 皆の者、よろしくお願いするでござる!!」
突風に乗って、聞き耳をたてる必要もないくらいの大きな声がここまで届いた。
「えっとね、アリア、作戦はね……」
「大丈夫デス、師匠。アリアにも聞こえていたデス」
ですよね。
ボクの先輩風を吹かそうと息巻いていたのに、もろくも、突風によって吹き飛ばされてしまった。
忙しい人のためのまとめ話
院長先生、フラットさんとアーノム・ギトーゲに報告しに行く。
サイレント、魔族の作戦を聞こうとするが、すでに終わっている。