第19話 サイレント、魔族の誤解を解こうとする!?
これまでのあらすじ
サイレント、魔物がたくさん集まっていたのでびっくりする。
サイレント、魔族の言葉が分かるようになったと喜ぶが、アリアに勘違いだと教えられる。
「顔を赤くしていないで、その後、なんて言っているか、きちんと聞いたままを話すのよ」
「分かりました。えっと……『中には知っているものもいるかと思うでござるが、本日、人間の男1人と、女1人、魔族の少女1人と堕天使1人、そして、なぞの飛行機械が10機が密林上空をうろうろしていたでござる』」
あ、これ、多分ボクたちのことだ。
「『おそらく、人間達は魔界に乗り込んで魔王を倒すために、魔族の少女を捕虜にして、魔界への入口を案内させたものの、捕虜の魔族の少女が口を割らずに魔界への入口を教えなかったため、この密林上空をうろうろしていたに違いないでござる』」
演説している魔族の言葉を聞いて、「きーっ」だの「しゃー」だの威嚇音を出す魔物たち。
『魔王を倒そうとするとは何事だ!!』とか、『魔族の少女を捕虜にするとは何事だ!!』とか、怒っているに違いない。
だけどね、真実は全然違うんだよ。
魔界に乗り込んで魔王を倒そうなんて気はないし、アリアを捕虜にしたわけでもないんだよ。
ただただ、アーノム・ギトーゲの兵士から逃げていただけなんだよ。
「『謎の飛行機械からは魔族語でデッド・オア・アライブの懸賞金という言葉を発していたという情報がいろいろな魔物から受けているでござる。人類は魔王に懸賞金をかけたに違いないでござる!!』」
うん、全然違うよ。
懸賞金がかけられているのは、魔王じゃなくて、ボクなんだから。
「『このまま人間どもの好き勝手にさせていいでござるか?? 同志たちよ??』」
さきほどよりも大きな声で「きーっ」だの「しゃー」だの威嚇音を出す魔物たち。
好き勝手させてなるものか……とでも叫んでいるのだろう。
「『まずは、捕虜となっている魔族の救出でござる。その後、人間界と全面戦争でござる!! これから具体的な作戦を……』……って、ええっ!? 全面戦争だって!?」
演説はまだ続いていたが、全面戦争という言葉に驚いたボクは、聞くのを止めてしまった。
「人類と魔族との全面戦争は回避しなければいけないのよ。サイレント、『それは誤解です! アリアちゃんは捕虜じゃないし、懸賞金をかけられたのはボクで魔王じゃないんです!』……って、伝えてくるのよ!!」
「分かりました」
そうだよね、ここは誤解だと説明しないとね。
ボクは脚に力をこめて、走りだした後、すぐさま引き返した。
「……って、何でボクがわざわざ、演説会場の最前線までいかなければならないんですか?? そんなことしたら、すぐに魔物たちに囲まれてフルボッコにされるじゃないですか」
「フルボッコにされる前に、逃げ切ればいいのよ」
「こんなに魔物がいるのに、そんな神業できるわけがないです」
「できるかできないかじゃないの。やるのよ、サイレント!! 人類のために。あなたの俊足があれば可能なのよ……多分」
「多分ってなんですか?? やりませんよ。ボク、魔族語なんてしゃべれませんし」
そう、ボクには言葉の壁があるのだ。
魔族に伝えられるわけがない。
「魔族語ならアリアが教えられるデス」
うん、アリアはちょっと黙っていようか。
「さすが、アリアちゃんなのよ!! さあ、サイレント、魔族語を教えてもらって、すぐに伝えるのよ」
「こんな短期間で、魔族語なんか覚えられませんよ!!」
ボクは筋金入りのバカなんですからね。
丸暗記した魔族語なんて、1歩でも歩いたら忘れちゃうよ。
アリアの前だから言わないけど。
「あのー、魔族語を覚えなくてもー、演説会場の壇上に行って、指揮官の拡声器を奪って、その拡声器で伝えれば、伝わるのではー??」
「確かに……って、演説の壇上の下にでも隠れていない限り、できませんから、そんなこと!!」
フラットさんまで何を言っているんだ。
「演説の壇上の下に隠れていたらできるのよ??」
「まあ、もしも、隠れていたならやってのけてみせますよ!! 今、実際には隠れてなんかいませんけどね」
「よし、今から隠れるのよ、サイレント」
「無茶言わないでくださいよ!!」
「もし仮にー、サイレントさんが拡声器を奪ってー、誤解を訂正する発言をしたとしてもー、人間の言葉を魔族の誰が信じるんですかー??」
「その通りですよ!! フラットさんの言う通りです。魔族の中にも嘘発見調査官がいるんですか??」
「魔族に噓発見調査官はいないデスね」
「噓発見調査官がいないなら、どうやってボクの言葉を魔族に信じてもらえませんね。いや、実に残念だ」
「残念だと言いつつ、とてもうれしそうなのよ、サイレント」
「そりゃあうれしいですよ。もしも噓発見調査官が魔族の中にいたら、ボクはあの魔物だらけの演説会場に行かなければならなかったんですから」
「でも、このままだと、全面戦争は避けられないのよ。何かいい方法はないのよ??」
そんな急に言われてもな……
「アリアが、すべて誤解だと伝えに行くというのはどうデスか??」
確かにアリアなら、魔族だし、魔族語もできるから、申し分ないだろう。
「それはおすすめしないですねー」
「どうしてですか、フラットさん??」
「アリアさんはー、捕虜の疑いがかけられていますー。もしも人類をかばえば、洗脳されていると疑われてしまいますー。そうなってしまったら、誤解が解けないどころか、一生牢屋行きかもしれませんー」
確かに、フラットさんの言う通りだ。
「アリアちゃんでもダメなら、全面戦争は回避できそうにないのよ」
ため息をつく院長先生。
「アリアちゃん、確認なんだけど、ここに集まっている魔物の数は……」
「おそらく、ここに集まっているだけで約1万デス」
「ちょうどー、アーノム・ギトーゲの兵士の倍くらいですねー。全面戦争が始まったら、下手をすればー、人間界が滅びかねないですねー」
「一度アーノム・ギトーゲに戻って、このことを報告しましょう!!」
ボクはすぐさまその場を立ち去ろうとする。
「ダメなのよ、サイレント」
ボクが脚に力を入れると、すぐさま院長先生に止められた。
忙しい人のためのまとめ話
魔族はアリアを捕虜にしたあげく、懸賞金をかけて魔王の命を奪いに来たと勘違いする。
魔族と全面戦争になることを聞いたサイレント、アーノム・ギトーゲに報告しようとする。