第17話 フラットさん、元神様をバカにする
これまでのあらすじ
サイレント、勇者ラカンがレベルを秘密にしている理由を知る。
サイレント、『神の爆誕伝説』の全容を知って、土地を返そうと言い出す。
「こんなドロドロな関係になる前に、もっと平和的に解決できなかったんですか?? 神様が死んだら、誰かが神様代行をするとか……そうですよ、代行ですよ、代行!! 神様の弟とか妹とかいなかったんですか??」
「神様に親族はいないのよ。いたと言えば、側近の可愛い天使が一人いただけなのよ」
「その側近の天使が神様代行をするわけにはいかなかったんですか??」
神様の側近ともなれば、神様の考えはすべて熟知しているに違いない。
「良いこと言うのよ、サイレント。確かに、神様の側近の天使が神様の代行をするのが一番だったに違いないのよ」
激しく同意する院長先生。
「それは絶対にやめた方がいいデス」
「どうしてさ、アリア??」
「当時の神様の側近だった天使が目の前にいるからデス」
「え? どこにいるの??」
ボクはきょろきょろとあたりを見回す。
「神様の側近だった可愛い天使なら、ここにいるのよ」
「え? 可愛い天使なんていませんよ」
ボクはきょろきょろとあたりを見回す。
「だから、ここに可愛い元天使がいるじゃないのよ!!」
ボクは院長先生からチョップをくらった。
「目の前にいるって……まさか……」
「そうなのよ、私が前神様の側近の天使長だったのよ」
院長先生は側頭部に裏ピースをする。
「なんだって!?」
驚愕の事実。
今は堕天使の院長先生が前神様側近の天使長!?
「もしも、この堕天使が神様になんかなったら世界はどうなっていたか分からないデス」
「そんなの簡単なのよ。私が神様になった暁には、毎日私に高級料理を毎日お供えさせて、アリアちゃんを含む全女性と結婚して、それから……」
うん、自分の欲望に忠実。
一番神様に向かない性格だね。
まずい、はやく何とかしないと。
「前言撤回です。神様の側近の天使じゃなくて、大天使長に任せればよいのでは??」
「大天使長なんて天使はいないのよ」
「なるほど、いないんですね。いないんだったら仕方ないですね……って、いないってどういうことですか?? 大天使長に認められないと神様にはなれないんですよね??」
「そのままの意味なのよ。天界に大天使長なんて肩書の天使は存在しないのよ」
天界では、天使長のカナエルには会ったけど、大天使長には会っていなかったはずだ。
「どうして存在しないって言い切れるんですか??」
「私が天界にいた時、全天使にスクロールを使って調べたけど、大天使長という肩書の天使はいなかったのよ」
「ああ、適正職業を調べるスクロールですね!!」
「そうなのよ、天使は産まれたらすぐにスクロールを使って適性職業を調べるのよ」
「院長先生が天界を去った後に、新しく生まれたかもしれませんよ。『大天使長』が」
「そもそも、神様が天使を創り出すのよ。神様が殺された時点で、天使は生まれないのよ」
「それなら、ランクアップして肩書きがかわったとか」
「確かに、ランクアップして肩書がかわる可能性もあるのよ。ただ、もしも肩書きが変わったのなら、今頃天界は大騒ぎしているのよ。毎年恒例の運動会なんかしていないで、魔王に認められるために躍起になるはずなのよ」
「あえて、発表せずに隠しているかもしれませんよ。ラカンのレベルを隠しているみたいに」
「バリアが壊される前までは、天使族は天界にいる限り、ほぼ無敵だったのよ。大天使長があらわれたなら、魔王にも人類に認められないといけないのに、隠す道理がないのよ」
「何か理由があって隠している可能背もあります」
「もしも、大天使長がすでに生まれているならば、現天使長のカナエルが『神様の杖』まで使って大天使長になろうとなんかしないのよ」
「確かにそうですね……って、ちょっと待ってください。大天使長がいないなら、たとえ魔族だろうと人間だろうと神候補が出てきても神様になれないじゃないですか」
「すぐにはなれないのよ」
「それじゃあ、神様には誰もなれずに終わりってことですか??」
「そういうことじゃないのよ。神候補があらわれた時に、大天使長が降臨する…………だろうと巷ではささやかれているのよ」
噂かい!!
「神候補があらわれた時に降臨するって、ご都合主義が過ぎませんか?? そもそも『神の爆誕伝説』って、誰が作ったんですか??」
「殺された神様が作ったのよ」
「殺された神様が、その後のことを予言するって、なんか変ですよ。最初から殺されることが分かっていたみたいじゃないですか」
「殺されるのが分かっていて、自ら殺されにいくのが元神様なのよ。本気出せば、物理無効・魔法無効状態にもなれるのに、わざわざ挑んできた人間と同じ能力値になって戦ったのよ」
「へぇ、変わった神様だったんだな」
「変人ならぬ、変神ですねー」
「確かに神様の頭はおかしかったけど、その言い方は酷いのよ」
院長先生はフラットさんをにらみつけた。
相変わらず仲が悪いな、院長先生とフラットさん。
「すみませんでしたー」
すぐさま院長先生に平謝りするフラットさん。
「絶対に許さないのよ」
どうしてそんなにもフラットさんに厳しいの、院長先生。
「まあまあ、院長先生、落ち着いてください。院長先生も神様の頭はおかしいと認めているんですよね??」
「そうなのよ」
「そうなのであれば、許してあげてくださいよ」
懇願するボク。
「誰になんと言われようと、絶対に許さないのよ」
「フラットお姉さまを許して欲しいデス」
「アリアちゃんに頼まれたら断るわけにはいかないのよ。許すのよ」
おい、誰に何と言われようとも許さないんじゃないのかよ!!
まあ、許してくれるならいいけどさ。
ボク達がしゃべりながら、ムービング・ウッドを追っていくと、『ぎゃー』という鳴き声。
鳴き声の方を覗き見ると、きょろきょろと周りを見回す魔物。
どうやら警戒をしているようだ。
「魔物が警戒しています。これ以上は、空から近づくのは難しいそうですね」
ボクは声を小さくして院長先生にお伺いを立てた。
さて、アリアを合法的に抱いている院長先生がなんというか……
駄々をこねなければいいけど……
「それなら、歩いて近づくのよ」
意外。
もっと駄々をこねるかと思っていたのに……
院長先生の顔を覗き込むと、その顔は真剣そのものだった。
それもそうか。
アリアの命がかかっているんだ。
こんな時に駄々をこねる院長先生じゃない。
「どうしたのよ、サイレント?? 私の顔をじっと見て」
「あ、いや、何でもないです。静かにかつ迅速に下におろしましょう」
「分かっているのよ」
ボクはフラットさんを、院長先生はアリアを地上へと降ろした。
忙しい人のためのまとめ話
サイレント、大天使長が存在しないことを知る。
フラットさん、元神様をバカにして院長先生を怒らせるが、アリアがなだめる。