表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

31/372

第31話 サイレント、アリアの大鎌を持とうとする

前回のあらすじ

サイレント、朝食を食べる。

アリア、朝食を食べている時も油断していない。




 

「あ、すみません。ちょっとだけがっかりしちゃって、鎌を落としてしまったデス」

「あのさ、その鎌って、だいぶ重いの?」


「えっと、100キログラムくらいはあるデスかね……」

「そっか、100キログラム……って、どれくらい?」

 全然ピンとこない。


「少なくとも師匠よりは重いと思うデス」

「いやいやそんなにあるわけないでしょ」

 ボクより重い大鎌を、アリアの華奢な腕で持てるわけがない。


「いえ、それくらいあるデス」

 まっすぐな眼でボクに言うアリア。

 アリアめ、大鎌が重いと言って、ボクのことを騙そうとしているな。

 そうは問屋が卸さないよ。


「ちょっと、ボクが持ってみてもいいかな?」

「いいデスよ」


 ボクはひょいと持ち上げて、『軽いじゃないか。まったくウソは良くないぞ。アリア』と優しく注意するつもりだった……

 つもりだったのだが……


 重くて、持てない。


 全力で持ち上げようとしているのにも関わらず、うんともすんとも言わずに鎌は横たわったままだ。

 昨日は無我夢中で気づかなかったけど、よくこんな重い大鎌を蹴り飛ばせたな、ボク。


「師匠、どうしたんデスか? 鎌をずっと触って」

 そうだよね。

 ボクは必死に持ち上げようとしているけど、傍から見たら、ただ触っているだけに見えるよね。


 ここで、『持ち上げられません』……なんて言ったら、ボクに筋力がないことがばれてしまうから、正直には言えないな。


「あ、これは……そう、鎌がひんやりして、気持ちいいなと思ってね」

「ああ、分かります。アリアの鎌は特殊な金属でできているので、いつでもひんやりしているんデスよ。外は今日も暑いから、つい触ってしまいたくなりますよね」


 そう言いながら、床に横たわる鎌をひょいと片手で持ち上げ、愛おしそうに大鎌を抱きしめるアリア。

「そうだよね、あはは……」

 ボクは全然持ち上げられなかったのに……


 いや、そもそもボクの職業は暗殺者。

 アリアの適性職業がアサシンじゃないなら、ボクより筋力があっても不思議じゃない。


「ちなみに、師匠はどれくらいの腕力の数値なんデスか?」

 キラキラとした目をしながら訊いてくるアリア。


「えーっと……どれくらいだったかな?」

 冒険者になってから、自分の腕力の数値なんて確認したことなんてないぞ。

 ここはとぼける一択だ。


「それならチェックしましょう」

「チェックって、何を?」


「師匠のステータスですよ」

「それは無理」


「何でデスか?」

「何でって訊かれても、無理なものは無理なの」


「もしかして、師匠のステータスはトップ・シークレットデスか?」

「そうそう、ボクのステータスは、王様以外には決して明かすことのできないトップ・シークレットなんだ……って、そんなわけあるか!!」

 思わずノリツッコミを入れてしまった。


「それなら見せて欲しいデス」

「見せたくても見せられないんだよ」


「見せられない? どうしてデスか?」

「スクロールがないからだよ」


「え? 12歳になったら国から一巻きだけ貰えるはずですよね? どこにやったんですか?」

「それは……」

 言えない。


 適正職業を読み上げられた時に、『アサシン……もとい、バカシン(笑)』……って、当時の司祭様に読み上げられた挙句、その場に居た全員にバカにされたから、捨ててしまった……なんてことは、絶対に言えない。


「それは?」

「スクロールのステータスの値なんてあくまで目安だから、実践じゃ役に立たないからね」

 ボクは勇者ラカンの言葉を引用して伝える。


「なるほど、スクロールの値に一喜一憂するようじゃ、まだひよっこ冒険者ということデスね」

 目を輝かせ、真っ直ぐな瞳で見てくるアリア。

 実はウソですとは絶対に言いだせない。


「まあ、そんなところかな」

「なるほど。それでスクロールの意味はないからチェックしないんですね」


「うん、そう。あまりにも意味がないから、捨ててやったのさ」

「おー、さすが師匠デス。売れば金貨10枚分くらいの価値があるスクロールを捨ててやったんデスね?」


 え?

 金貨……10枚分だって!!


 10って数字はどのくらいかわからないけど、少なくとも1よりは大きいはずだ。

 そもそも、金貨1枚あれば色々なものが買えるからな。


「あの巻物って、そんなに価値があるの?」

「あるデスよ」

 こくりと肯くアリア。


 大切にしろとは言われていたけど、まさかそんなに価値があるなんて知らなかった。

「……って、師匠、急に立ち上がって、どこに行こうとしてるんデスか?」

「ちょっとゴミ置き場へ」


「師匠、もしかして、今から拾いに行くつもりデスか?」

「もちろん」

 多分、教会の裏のゴミ捨て場に捨てたはずだ。


「師匠、スクロールはいつ捨てたんデスか?」

「つい最近だよ」


「最近? 具体的には?」

「8年くらい前」

 確か、院長先生が昨日8年前って言っていたはずだ。


「見つかるわけないデス!! 8年も前に捨てたものデスよ!!」

「いや、もしかしたらということがあるでしょ?」


「よしんば、スクロールが見つかったとしても、雨風にさらされていてボロボロのはずデス、銅貨1枚の価値もないデスよ」

 それもそうか。


 ボクはその場に座りなおすとアリアの顔が目に入った。

 その表情は、まるで不審者を見るような疑いの表情だった。


忙しい人のまとめ話

サイレント、アリアの大鎌を持とうとするが、持てない。

サイレント、スクロールを拾いに行く。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ