第31話 サイレント、アリアの大鎌を持とうとする
前回のあらすじ
サイレント、朝食を食べる。
アリア、朝食を食べている時も油断していない。
「あ、すみません。ちょっとだけがっかりしちゃって、鎌を落としてしまったデス」
「あのさ、その鎌って、だいぶ重いの?」
「えっと、100キログラムくらいはあるデスかね……」
「そっか、100キログラム……って、どれくらい?」
全然ピンとこない。
「少なくとも師匠よりは重いと思うデス」
「いやいやそんなにあるわけないでしょ」
ボクより重い大鎌を、アリアの華奢な腕で持てるわけがない。
「いえ、それくらいあるデス」
まっすぐな眼でボクに言うアリア。
アリアめ、大鎌が重いと言って、ボクのことを騙そうとしているな。
そうは問屋が卸さないよ。
「ちょっと、ボクが持ってみてもいいかな?」
「いいデスよ」
ボクはひょいと持ち上げて、『軽いじゃないか。まったくウソは良くないぞ。アリア』と優しく注意するつもりだった……
つもりだったのだが……
重くて、持てない。
全力で持ち上げようとしているのにも関わらず、うんともすんとも言わずに鎌は横たわったままだ。
昨日は無我夢中で気づかなかったけど、よくこんな重い大鎌を蹴り飛ばせたな、ボク。
「師匠、どうしたんデスか? 鎌をずっと触って」
そうだよね。
ボクは必死に持ち上げようとしているけど、傍から見たら、ただ触っているだけに見えるよね。
ここで、『持ち上げられません』……なんて言ったら、ボクに筋力がないことがばれてしまうから、正直には言えないな。
「あ、これは……そう、鎌がひんやりして、気持ちいいなと思ってね」
「ああ、分かります。アリアの鎌は特殊な金属でできているので、いつでもひんやりしているんデスよ。外は今日も暑いから、つい触ってしまいたくなりますよね」
そう言いながら、床に横たわる鎌をひょいと片手で持ち上げ、愛おしそうに大鎌を抱きしめるアリア。
「そうだよね、あはは……」
ボクは全然持ち上げられなかったのに……
いや、そもそもボクの職業は暗殺者。
アリアの適性職業がアサシンじゃないなら、ボクより筋力があっても不思議じゃない。
「ちなみに、師匠はどれくらいの腕力の数値なんデスか?」
キラキラとした目をしながら訊いてくるアリア。
「えーっと……どれくらいだったかな?」
冒険者になってから、自分の腕力の数値なんて確認したことなんてないぞ。
ここはとぼける一択だ。
「それならチェックしましょう」
「チェックって、何を?」
「師匠のステータスですよ」
「それは無理」
「何でデスか?」
「何でって訊かれても、無理なものは無理なの」
「もしかして、師匠のステータスはトップ・シークレットデスか?」
「そうそう、ボクのステータスは、王様以外には決して明かすことのできないトップ・シークレットなんだ……って、そんなわけあるか!!」
思わずノリツッコミを入れてしまった。
「それなら見せて欲しいデス」
「見せたくても見せられないんだよ」
「見せられない? どうしてデスか?」
「スクロールがないからだよ」
「え? 12歳になったら国から一巻きだけ貰えるはずですよね? どこにやったんですか?」
「それは……」
言えない。
適正職業を読み上げられた時に、『アサシン……もとい、バカシン(笑)』……って、当時の司祭様に読み上げられた挙句、その場に居た全員にバカにされたから、捨ててしまった……なんてことは、絶対に言えない。
「それは?」
「スクロールのステータスの値なんてあくまで目安だから、実践じゃ役に立たないからね」
ボクは勇者ラカンの言葉を引用して伝える。
「なるほど、スクロールの値に一喜一憂するようじゃ、まだひよっこ冒険者ということデスね」
目を輝かせ、真っ直ぐな瞳で見てくるアリア。
実はウソですとは絶対に言いだせない。
「まあ、そんなところかな」
「なるほど。それでスクロールの意味はないからチェックしないんですね」
「うん、そう。あまりにも意味がないから、捨ててやったのさ」
「おー、さすが師匠デス。売れば金貨10枚分くらいの価値があるスクロールを捨ててやったんデスね?」
え?
金貨……10枚分だって!!
10って数字はどのくらいかわからないけど、少なくとも1よりは大きいはずだ。
そもそも、金貨1枚あれば色々なものが買えるからな。
「あの巻物って、そんなに価値があるの?」
「あるデスよ」
こくりと肯くアリア。
大切にしろとは言われていたけど、まさかそんなに価値があるなんて知らなかった。
「……って、師匠、急に立ち上がって、どこに行こうとしてるんデスか?」
「ちょっとゴミ置き場へ」
「師匠、もしかして、今から拾いに行くつもりデスか?」
「もちろん」
多分、教会の裏のゴミ捨て場に捨てたはずだ。
「師匠、スクロールはいつ捨てたんデスか?」
「つい最近だよ」
「最近? 具体的には?」
「8年くらい前」
確か、院長先生が昨日8年前って言っていたはずだ。
「見つかるわけないデス!! 8年も前に捨てたものデスよ!!」
「いや、もしかしたらということがあるでしょ?」
「よしんば、スクロールが見つかったとしても、雨風にさらされていてボロボロのはずデス、銅貨1枚の価値もないデスよ」
それもそうか。
ボクはその場に座りなおすとアリアの顔が目に入った。
その表情は、まるで不審者を見るような疑いの表情だった。
忙しい人のまとめ話
サイレント、アリアの大鎌を持とうとするが、持てない。
サイレント、スクロールを拾いに行く。