第3話 サイレント、フラットさんにセクハラで訴えられる!?
これまでのあらすじ
兵士たちから逃げるサイレント、アリアにボルケーノを唱えないようにお願いする。
サイレント、院長先生が何かを企んでいることに気づく。
「お礼をなんていいから、はやくこっちにアリアちゃんを渡すのよ!!」
「ちょっと待ってください、院長先生はフラットさんを抱えているじゃないですか!!」
「それがどうしたのよ??」
「それがどうしたじゃないですよ。確か、院長先生が抱きかかえられるのって1人でしたよね?? さすがに、アリアとフラットさんを抱えながら飛んで逃げるのは難しいですよね??」
そう、院長先生の両腕はフラットさんを抱えるので手いっぱいだ。
ここにアリアが加われば、支えきれないだろう。
院長先生は羽を羽ばたかせて飛んでいるから背中に背負うことはできないだろうし。
「簡単なのよ。フラットは今ここで私が手を離して強制的に下に落とせば、両手が空くのよ」
「なるほど、その手がありましたか…………って、フラットさんを落として良いわけないじゃないですか!! 死んじゃいますよ」
「大丈夫、大丈夫、フラットなら、この高さから落ちても死なないのよ」
『この高さから落ちても死なない』って、ここ上空だよ、院長先生。
山よりも高いんだよ。
「ちょっとー、インフィニティー、何を言っているんですかー。こんな高いところから落ちたら右足首を捻挫しちゃいますよー」
ほおを膨らますフラットさん。
「あら、ごめんなさいなのよ。前言撤回なのよ、サイレント。この高さから落としたら、右足首捻挫なのよ。だから落として大丈夫なのよ!!」
「なんだ、右足首の捻挫程度ですか……って、いやいや、ここから落ちたらその程度のケガじゃすみませんって。絶対に落とさないでくださいよ」
フラットさんは冒険者じゃない。
冒険者ギルドの受付だ。
上空から落ちるなんて経験をしたことがないから、フラットさんは右足首の捻挫なんてことを言い出したのだろう。
「絶対に落とすなっていうことは、漫才で言うところの、落とせというフリなのよ??」
確認をとりながら手を離そうとする院長先生。
「いや、今は漫才なんてしてないですからね」
「それなら、フラットはあなたにあげるからアリアちゃんをこちらに渡すのよ、サイレント!!」
分かったぞ。
院長先生の企みが。
ボクがアリアを渡せば、合法的にアリアに抱き着くことができるから、それを狙っているに違いない。
「いやいや、それじゃあ、アリアとフラットさんを交換するだけじゃないですか」
「そうなのよ!!」
「そうなのよ……って、交換するだけじゃあ、意味がないじゃないですか」
「意味はあるのよ! アリアちゃんとフラット、どちらが重いと思っているのよ??」
「それは……」
ボクは自然とフラットさんの大きな胸の方を見てしまった。
うん、アリアとフラットさんなら、フラットさんの方が重いよね、これは。
「もしもー、私の胸で判断するのだとしたらー、セクハラで訴えますよー」
セクハラだって!?
もしもセクハラで訴えられでもしたら、一生働いても返せないくらいのお金を払わなければならない……と噂で聞いたことがある。
「胸で判断するわけないじゃないですか!!」
「それなら、何で判断するつもりなんですかー??」
「えっと、それは……」
胸で判断しようとしていたボクは返答に詰まる。
「装備品なのよ」
ボクの代わりにこたえる院長先生。
「装備品??」
「そうなのよ。アリアちゃんはいつも大鎌を持っているのよ。つまり、フラットよりもアリアちゃんの方が重いのよ」
「確かに」
アリアは大鎌を持っている分、重いんだ。
以前、持たせてもらった時、ボクには持ち上げられなかったもんな。
だから、院長先生はアリアとフラットさんを交換しようともちかけたのか。
「納得したなら、アリアちゃんをこっちに渡すのよ」
「分かりました」
「ちょっと待つデス!!」
ボクが院長先生にアリアを渡そうとしたときに、アリアが会話に割って入る。
「どうしたの、アリア??」
「アリアは大鎌をマジック・バックの中に入れているデス。デスので、大鎌の重さは考慮しなくていいデス!!」
「つまりは、装備品では判断できないということだね??」
「そうデス。体の大きさで重さを比べればいいデス」
「体の大きさか」
ボクはもう一度アリアとフラットさんの体を見比べる。
「ちょっとー、サイレントさんー、体の大きさで重さを比べるのはー、セクハラにあたりますよー」
「ボクが体の大きさを見比べるなんてことをするはずないじゃないですか」
「本当ですかー」
疑いの目を向けてくるフラットさん。
「本当ですよ。だって、ボク、アリアもフラットさんもどちらも軽いと思っていますもん。ほら、アリ1匹と飴玉1個、どちらかは必ず重いけど、そんなの誤差でしかないですよね。どちらも片手で持てますから。それと一緒です!!」
「そうですよねー。アリアさんも私も、どちらも軽いですよねー」
「そうです、そうです、その通りです」
ボクが何度も首肯するとフラットさんはニッコリと笑った。
ふぅ、これでセクハラで訴えられることはないだろう。
「暴論なのよ」
「暴論じゃないデス。もしもフラットお姉さまの方が重いのだとしたら、体力がなくなっている師匠にフラットさんを持たせる意味が分からないデス」
確かに、アリアの言う通りだ。
「何を言っているのよ、アリアちゃん。サイレントの理論で言うなら、女性の重さは誤差でしかないのだから、アリアちゃんとフラットを交換しても問題ないのよ」
「院長先生こそ暴論だ!!」
「そんなことないのよ」
半ば強引にアリアとフラットさんを交換しようとする院長先生。
「私の体重とアリアさんの体重が誤差の範囲ならー、交代せずに、このままでも問題ないですよねー?」
「それは……そうなのよ」
歯切れ悪くうなずいた後、院長先生はフラットさんをにらみつける。
フラットさんは院長先生の腕に抱かれていて、目が合わないので、院長先生ににらまれていることに気づきもせずにどこ吹く風だ。
いや、どこ吹く風というよりかは、院長先生の腕に抱かれて幸せそうにしているんですけど。
院長先生はまだ子どもで、男でも女でもないんだから、成人した時に男を選んで、このまま院長先生と結婚しちゃえば良いのに。
どうせ、院長先生はモテないんだから。
忙しい人のためのまとめ話
院長先生がアリアとフラットさんの交換を要求する。
サイレント、セクハラで訴えられそうになるが、ピンチを切り抜ける。