第57話 サイレント、逃げる
2024/12/21 後書きを編集いたしました。(本文に変更はありません)
これまでのあらすじ
サイレント、マジック・バックのおかげでフランケン・シュタインよりも速く動いた。
サイレント、マジック・バックの中で自分の脚にであう。
「妹さん、無事デスか?」
「妹さん?? ……ああ、ボクのことか!! うん、なんとかね」
そういえば、女装していたのをすっかり忘れていた。
「ところで、ここは??」
「ここはアーノム・ギトーゲ城の中庭デス」
「戻ってこれた! 良かった!!」
そう言いながら立ち上がるのだが、足に力がうまく入らない。
「足元がふらついていますがー、大丈夫ですかー?」
アリアの隣に立っていたフラットさんが尋ねる。
「魔力切れデスかね?? 先ほど、マジック・バックにたくさんの空気を入れていたデスから」
「そうかもしれないね。でも大丈夫だよ。気配察知を使わなければ、すぐに魔力も戻るさ」
言いながらボクは気配察知をやめた。
「ボクよりもアリア、ケガは大丈夫??」
「私がヒールで治したのよ。それよりもあなた、さっき……」
アリアの後ろからひょっこりと姿を現す院長先生。
「院長先生!! ありがとうございます!!」
院長先生の顔が目に入った瞬間、ボクは院長先生の言葉を遮って、深々と頭を下げた。
院長先生のおなかの音のおかげで、フランケン・シュタインに一撃を与えることができました。
「え? 何? どうしたのよ、いきなり?? アリアちゃんの傷を治すくらい当然なのよ」
しまった、勘違いされてしまった。
「いや、違うんですよ、院長先生! いや、アリアを治療してくれてありがとうっていう意味もあるんですけど、それ以上に、院長先生のおなかに対して、感謝の気持ちでいっぱいなんです!!」
「私のおなか? どういうことなのよ?? もしかして、マジック・バックの中にいたから、低酸素脳症でも起こしたのよ??」
院長先生はボクの額に手を当ててくる。
「大丈夫です。とにかく、ありがとうございます、院長先生のおなか」
説明をするのが面倒くさくなったボクはとりあえず、院長先生のおなかに感謝の意を伝える。
「意味が分からないのよ!!」
「分からなくていいんです。あとで説明しますから!! ところでフランケン・シュタインは??」
「あそこデス」
アリアはフランケン・シュタインのいる場所を手の平で示した。
「どうして僕が攻撃を食らったんだ……どうして……どうして……」
「それはボクがマジック・バックで、空気と自分を超高速でマジック・バックの中に収納したからだよ」
「それは分かっている。僕が訊きたいのは、あれだけの量の空気を高速でマジック・バックの中に自分ごと収納させるなんて、どれだけ魔力量が必要か分かっているのかってことだよ!?」
「いや、全然分らないよ」
「最低でも僕の10倍の魔力量がないとあんな芸当はできないはずだ!! でも、そんな膨大な魔力、仙人のような生活でもしていない限り、人間の君にあるはずがない」
「ここにいるのは師匠の妹さんデスが、師匠は海水だけで食事を終えていたデス!! それに、師匠は家の家財をすべてマジック・バックの中に入れて生活をしていたデス。きっと、妹さんも仙人のような修行生活をしているはずデス」
「へー、サイレントは海水だけで食事を終えていたのよ??」
何か言いたげにボクのことをじーっと見てくる院長先生。
「サイレントはですよ、院長先生」
ボクはサイレンコなので分かりません。
「なるほど、納得だよ」
「納得したなら、約束通り魔界に帰るデス!!」
「そうはいかないよ、僕に傷はないからね」
何を言っているんだ、フランケン・シュタインは。
「いやいや、さっきボクがダガーで君の腕を切り裂いたじゃないか……って本当に傷がない!!」
「妹さんがマジック・バックの中から出てくる前に、ヒールで治すところをアリアはこの眼でしっかり見ていたデス」
あ、そっか。
フランケン・シュタインは聖属性の光魔法も使えるんだっけ。
危ない、危ない、騙されるところだった。
「回復魔法を使ったんなら、傷はあったってことでしょ!! 約束は守ってよね」
「ちょっとした冗談だよ。魔力が戻ったら、すぐにでも魔界に帰るさ」
「これで一件落着デス。あとは、師匠を探すだけデスね」
「ああ、兄を探すのは後でもいいんだよ」
ボクはアリアにこたえた。
「良くないデス。妹さんが出てくるちょっと前、師匠がマジック・バックから出てきたので、まだ近くにいるはずデス。はやく見つけないと、どこかへ行ってしまうデス」
「え? 師匠を見ただって!? 何かの見間違いじゃないの??」
女装していることがバレたくないから口に出しては言えないけど、ボクはアリアの目の前にいるんだよ??
ボクが女装していることを知っている、院長先生とフラットさんの方を見た。
「確かにサイレントだったのよ。すぐにどこかに行ってしまったけど」
「そうですねー、サイレントさんがー、マジック・バックからでてきましたねー」
院長先生もフラットさんもボクが女装していること知っているよね??
なんでアリアと一緒に同意できるの??
みんな揃って白昼夢でも見ていたのか??
「いや、見間違いだよ!! そうじゃなきゃ、人狼が化けて出たか、幻覚かのどちらかに違いない!!」
ボクはむきになってこたえた。
「見間違いじゃないデス!!」「見間違いじゃないのよ!!」「見間違いじゃないですねー」
「そんなわけないよ。だって、ボクがサイレントだもの!!」
ボクはカツラをとる。
「あいつらだぞ!! あいつらが王様を操って、国家転覆を企んでいるんだぞ!!」
ボクがカツラをとった瞬間、ナ・リキンが多くの貴族と兵士と町民を引き連れてボクの方を指さして怒鳴った。
「え?」
ボクはカツラをとったままフリーズする。
「「「「「え?」」」」」
そして、ボクがサイレントだと認識したナ・リキンと貴族たちも停止した。
「……えっと、ボク、サイレンコ。サイレントと似ているけど、指名手配されている悪いサイレントじゃないよ」
そう言いながら、ボクはカツラをかぶりなおす。
ふう、これでサイレントだと暴露したことをなかったことになったはずだ。
「「「「「…………指名手配犯だ! 指名手配犯が女装をしていたぞ!!」」」」」
そうですよね、なかったことにはならないですよね。
「しかも、フランケン・シュタインもいるじゃないか!! あいつらを捕まえれば、王様から懸賞金がたんまりもらえるぜ!!」「そうだ、麦での損害以上の利益を出せる!!」「一生遊んでくらせるぞ!!」
指名手配犯を捕まえてやるという空気になっていく。
「ああ、そういえば、僕は一度魔界に帰る約束だった。あとは任せるね」
フランケン・シュタインはトリプル詠唱でどこかへと飛んで行ってしまった。
「何、ぼーっとしているのよ、サイレント!! 私たちも逃げるのよ!!」
羽を広げる院長先生。
「そうですね」
「待ってくださいー、インテリジェンスー!!」
フラットさんは院長先生の足にしがみつく。
ボクは隣で放心状態のアリアを抱きかかえると空動で空へと移動した。
「「「「「待てー、懸賞金……じゃなかった指名手配犯!!」」」」」
追いかけてくる貴族と兵士と町民。
「絶対にいやだよ」
ボク達は全速力でアーノム・ギトーゲから逃げ出した。
もう、なんでこうなるの……
第5章 フランケン・シュタイン編 完
お話を読んでくださった方、ありがとうございました。