第3話 サイレント、土下座する
7月9日、誤字・脱字を修正しました。
(内容は修正していません)
前回までのあらすじ
サイレント、魔物を仕掛けておいた罠にはめようとする。
失敗して、逆に追い込まれる。
おっと、ファイヤー・ウルフの賢さに感心している場合じゃない。
このピンチを脱する起死回生の方法を考えるんだ。
何か、何かないのか、助かる方法は……
「グルル」
口から炎を漏らすファイヤー・ウルフ。
まだ、炎が口から飛び出るまで、まだ時間がかかるはずだ。
諦めるな、自分。
考えろ、自分。
岩を盾代わりにする?
いやいや、ファイヤー・ウルフの炎は、岩をも溶かす高熱だったはずだ。
盾にはなりえない。
バクバク。
あー、もう、こんなに真剣に考えているのに、うるさいぞ……って、自分の心臓音か。
そうだ、心臓の音を止めれば、ファイヤー・ウルフはボクが死んでると思って、どこかにいく……なんてことはないな。
すぐに噛みつかれてジ・エンドだ。
それなら、何か使えそうなものはないか?
ボクはファイヤー・ウルフと目を合わせたまま、背負っていたリュックの中に手を入れる。
とりあえず何か取り出そう。
これは、干し肉!!
この干し肉は、美味しいんだよな。
とりあえず、この干し肉を食べよう、いただきます……って、そんな悠長なことをしている場合じゃない。
何とかしなくては。
取り出した干し肉を片付けようとした時、ふと、ファイヤー・ウルフの視線に気づく。
ボクは片付けようとした干し肉をファイヤー・ウルフの前にちらつかせる。
ファイヤー・ウルフは干し肉にくぎ付けだ。
ははーん、このファイヤー・ウルフ、寝起きでお腹が空いているんだな。
だから、ボクを追いかけてきた。
この干し肉をうまく使えば、逃げるチャンスが生まれるはずだ。
なんというナイスアイデアだろう。
さすがボク。
ボクは思いっきり干し肉を投げた。
「ほら、肉だ! 取ってこい!!」
ダメ押しでかけ声もかける。
一瞬で良い。
一瞬でもファイヤー・ウルフが視線をそらしたら、その隙をついて逃げることができる。
ファイヤー・ウルフは干し肉が地面に落ちた場所を音だけで確認し、視線は決してボクから離さなかった。
……そうですよね。
干し肉は動かないから何もしないけど、動く人間は何をしでかすか分からないですもんね。
襲ってこられたら応戦しないといけないもんね。
視線は動かしませんよね。
まさかこんなにも賢いんなんて思わなかったよ、ファイヤー・ウルフ。
これは、もはや戦うしかない。
ボクがダガーを構えて、ファイヤー・ウルフと対峙した。
ごくりとボクが唾を飲みこむと、口に溜め込んでいた炎を漏らすファイヤー・ウルフ。
……って、ちょっと待って。
何時の間に、そんなに炎を溜め込んでいたのさ。
もはや一刻の猶予もない。
土下座か?
狼に土下座が通用するか分からないけど、誠心誠意心を込めて謝れば見逃してくれるんじゃないだろうか。
「そんな大量の炎なんか吐かれたら、防御力が紙装甲なボクなんか一瞬でドロドロに溶けちゃうので、お慈悲をいただけないでしょうか?」
ボクは精一杯声を出して、全力で土下座をしたあと、ファイヤー・ウルフの顔色をうかがう。
もちろん、ボクの誠意など届くわけもなく、ファイヤー・ウルフは目を見開いて、口を大きく開けた。
まずい、炎を吐きだされる。
とっさに腕で顔をかばった。
顔をかばったところで、ボクの魔法防御力じゃ、消し炭も残らないだろうけど。
儚い人生だったな……
平穏な暮らしをすることが夢だったのに……
目の前の炎を見続けることができずに、ボクは目を閉じた……
…………
……
あれ?
熱くない。
……熱いというより、寒い。
熱すぎると寒く感じてしまうのだろうか……
ピンチの時は背筋が凍るって言うし……
……いや、そんなことあり得ない。
不思議に思ったボクは目を開ける。
ファイヤー・ウルフの足下を見ると、地面はいつの間にか氷に包まれていた。
これは、もしかして氷魔法?
「危なかったわね、サイレント」
「アイズ!!」
そこには、黒いとんがり帽子とミニスカローブに身を包んだセクシーな魔法使い、アイズがいた。
「あんた、まさか、魔物に土下座をしているの?」
「これは、ちょっと転んだだけだよ」
「転んだらすぐに立ち上がれよ、サイレント。ここはダンジョンだぞ」
「その声はラカン!!」
声の方向には、頭には、金色のヘルム。大剣を右手で持ち、左手には金色の盾。体は金色のアーマー姿があった。
パーティーのリーダーのラカンだ。
職業が勇者と言うこともあり、お金を使って、豪華で強い装具を身に付けている。
「最大攻撃・大車輪斬り」
鼓膜が破れるのではないかと思うほどの大きな声とともに、大男が大剣を空中で縦回転をする。
脚が氷漬けになり、動くことのできなかったファイヤー・ウルフは、首を斬られ、一刀両断され、ファイヤー・ウルフは動かなくなった。
「た……助かった」
安心感に包まれたボクは尻もちをついてしまった。
忙しい人のためのまとめ話
サイレント、干し肉でファイヤー・ウルフの注意をそらそうとする。
失敗するが、仲間の助けが入る。