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第47話 サイレント、様になっていないポーズをとる

これまでのあらすじ

 サイレント、フランシュの風圧拳は一直線上にしか繰り出せないという弱点に気づく。

 サイレント、フランシュに誘導されて、ピンチに陥る。




「わいの風圧拳を避けてもええんやで?? 後ろの奴らを犠牲にしてもええなら……やけどな」


 ボクは倒れているアリアをちらりと見た。

 確かにボクがここで風圧拳を避けて、アリアたちを犠牲にすれば、ボクは助かるだろう。


 ボクのすぐ脇を風圧が横切ったのを感じた。

 もしかして、この男、遊んでいるのか??


 ボクが仲間を見捨てて逃げることを見越して、あえて、ボクを狙わなかったってことなのかもしれない。


「ほう、避けなかったんやな。殊勝な心掛けや。それなら、今度は直接当てるで!!」


 そう言いながら、フランシュはその場で何度もパンチを繰り出す。


「さすがに、避けるのは気が引けるか?? 避けなくても倒れればええんや。そうすれば、あんさんは痛い思いをもう一度しなくてええんやで」


 そっか。

 避けなくても、倒れさえすれば、あんな痛い思いをしなくていいんだ。


 倒れさえすれば。

 なんという悪魔のささやきだろう……


 この両脚の力を抜きさえすれば、ボクは助かる。


 ……でも、ダメだ。

 ボクにはそんなことできない!


 今、アリアは気絶しているんだ。

 もし、ボクが避けて、アリアに当たったら、致命傷になりかねない。


 絶対にアリアたちを守るんだ!!


 ボクは覚悟を決めて、もう一度その場で腕を広げた。

 もう、風圧拳だろうがなんだろうが、何でも来い!!

 ボクが無力化してやる!!


「覚悟を決めたようやな。ほんなら、わいの風圧拳をすべて食らうんやな!!」


「うわぁ!!」 

 ボクは声をあげてしまった。


「…………って、痛くない!!」

 もしかして、さっきはとても速い風圧だったけど、今度は、低速の風圧だったとか??

 それなら、時間差でもう少し後に攻撃が来るのか??


 ボクは手を広げたまま、もう少しだけ待ってみる。

 だがしかし、体に痛みが走らない。


「何で痛くないの??」

 ボクは首を傾げた。


「何で風圧拳が当たらないんや? 軌道がずれたんか??」


 フランシュの言う通り、軌道がずれたのかもしれない。

 でも、仮に軌道がずれたとして、何が原因で軌道がずれたんだ??


「まあ、ええわ。何度も打てば、そのうち当たるやろ!!」

 独り言ちながらも、フランシュはまた何度も風圧拳を繰り出す。


「うわぁ、やめろ………………って、やっぱり痛くない」

 フランシュが風圧拳を繰り出しているにも関わらず、なぜかボクには当たっていないという事実。


 どうしてこうなった??


 ……あ、そうだよ。

 そもそも、フランシュはもともとSランクで弱い魔物なんだ。

 でも、今は薬の効果で強くなっている。


 きっと、薬の効果が切れてきたから、風圧拳の威力も下がっているんだ。


 なんだ、簡単なことじゃないか!!


「連続で風圧拳を出したから威力が落ちたんか?? ほなら、薬で筋肉を強化しよか」

「え? 今まで強くなる薬を飲んでいたんじゃないの??」


「あんさんらみたいな弱い相手に薬なんて使うわけないやろ」

「ドーピングなんて卑怯だぞ!! 正々堂々と勝負しろ!!」


「健全なスポーツやないんや。強くなるためなら、何でもするやろ!!」

「確かに……」

 納得してしまうボク。


 その間にもフランシュは薬を飲み込んでしまった。


 バリバリバリ!!


 即効性があるのだろう。

 何もしていないのに、フランシュの筋肉は膨れ上がり、ぼろぼろだった服ははじけ飛んだ。


「見ろや、この筋肉!! 食らえや、わいの風圧拳!!」

 先ほどよりも速い速度でフランシュはその場でパンチを繰り出す。


 逃げるか……いや、アリアが後ろにいるんだ。

 逃げるわけにはいかない!!

 ボクは先ほどよりも強い風圧が来ると思い、身構えた。


「うわぁ!! …………って、やっぱり痛くない!!」


「何でや? 何で当たらへんねん!!」

「何でだろうね??」


 こっちが訊きたいよ。

 誰か、教えてください、今すぐ!!


「攻撃が効かないなら、そのダガーでフランシュを倒すのよ!! 何突っ立っているのよ、サイレント!!」

「確かに!」


 院長先生の言う通りだ。

 先ほどからずっとボクの攻撃ターンじゃないか。


 何で、突っ立ったまま、フランシュと押し問答をしていたのだろう??


 ボクはおなかの痛みをこらえながら、大きく息を吸い込み、脚に力を入れ、フランシュとの距離を詰めた。


「来るな!! 来るんやない!!」

 取り乱しながら何度も風圧拳を繰り出すフランシュ。


「効かないんだな、これが」

 何でか知らないけど。

 ボクはじりじりとフランシュとの距離を詰めていった。


「やっと、来よったか……」

 ボクが距離を詰めた瞬間、フランシュはにっと嗤った。

 この表情、最初からボクとの距離を詰めるのが目的だったということか!!


「まんまと君の作戦にハマったみたいだね」


「せやな。こんだけ近距離なら、直接パンチ当てることができるやんけ」


 フランシュはボク自身にパンチを繰り出してきた。

 なるほど、風圧拳が効かないから、作戦を変更して、あえてボクに近づかせてダイレクト攻撃をしようということか……


「でもね……そうくると思ったよ」

 ボクはフランシュのパンチを避けながらも、ダガーで勢いよく斬りかかり、フランシュの背後をとる。


 パンチを避けるときに、かすってしまったのか、ほっぺから温かい液体が流れるのを感じた。


「ふはは、全くダメージを与えられなかったようやな。それはそうや。あんなに魔力をこめたホーリィさえ、わいに通じなかったのに、そんな初心者用のダガーが通じるわけないやろからな」


 振り返ってこちらをにらみつけてくるフランシュ。


「そんなバカな……ボクの全力の攻撃だったのに」

「残念やったな。傷一つついてへんわ」

 ボクは片ひざをついてしまった。


「さて、今度はずっとわいの攻撃ターンや。あんさんの体に直接攻撃させてもらうで……」


「逃げなきゃ」

 ボクは脚に力を入れる。


「逃がさへんわ……って、何や??」

 両ひざをついた後、ばたりと倒れるフランシュ。


 フランシュが倒れた瞬間、『どーん』という大きな音。

 驚いたボクはとっさに立ち上がり、ダガーを構えてから、音の方を見ると、窓を覆っていた土がなくなっていた。


「あれ? なんでフランシュが倒れているの??」

 ボクの攻撃は効かなかったはずなのに……


「あなたの攻撃は効いていたのよ」

「え? いや、でも、全然効いていない風だったじゃないですか」


「あなたの攻撃は神様の作ったバリアさえ壊せるのよ。フランシュに効かないわけがないのよ」


「それって、つまり、フランシュがやせ我慢をしていたってこと??」

「そういうことなのよ」

 うなずく院長先生。


「……えっと、これは……つまり…………ボクの勝ちだ!!」

 ボクは右手のダガーだけを天にかかげてポーズをとる。


「今更格好をつけても全然様になっていないのよ!!」


忙しい人のためのまとめ話

 サイレント、フランシュの攻撃を何故か無力化する。

 フランシュを倒したサイレント、様にならないポーズをとる。


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