第45話 アリア、フランシュと対峙する
これまでのあらすじ
アリア、幻覚魔法で王様をだますことを思いつく。
幻覚魔法で一時的に正気に戻った王様、備蓄麦を売ることを命令する。
――時はナ・リキンが城に乗り込んで、王様が正気に戻っていることに驚いている時間に戻る――
「何で、治らないはずの病気が治っているんだぞ??」
とんでもなく驚くナ・リキン。
「その言い方だと、まるで病気が治ってほしくなかった言い方じゃなっ!!」
姫様はナ・リキンの言い方を非難する。
「そういう意味じゃないぞ。王様、誤解しないでほしいんだぞ」
否定するナ・リキン。
「そうじゃ、余が王様じゃ!!」
「いや、それは分かっていますぞ」
「余が命じる。備蓄麦を売るのじゃ!!」
「……ん? なんか、会話がおかしいぞ??」
ナ・リキンは目を細めて王様をじっと見てくる。
「もちろんじゃ」
あ、まずい。
このままだと、王様が完全に治っていないことがバレてしまう。
「違うデス。きちんと答えるデス!!」
アリアが王様に向かって叫んだ。
「分かったぞ。王様はこの女の幻覚魔法にかかって操られているぞ!!」
ナ・リキンはアリアを指さす。
「なんで分かったんデスか!?」
驚くアリア。
アリア、正直に言わないで、ここはとぼけようよ。
誰が見ても、アリアが裏で糸を引いていると分かっちゃうけれども。
「やっぱり、お前の仕業だったんだぞ!!」
「王様を操ろうとするなんて、これは国家転覆罪だぞ!! フランシュ、やってしまうんだぞ!!」
アリアを倒すように指示を出すナ・リキン。
「了解や」
兵士たちの後ろから、大柄の大男があらわれた。
アリアと対峙するフランシュ。
緊張が走る。
次の瞬間、『ぐー』という大きな音が鳴り響いた。
「おなかが減っちゃったのよ」
「院長先生は緊張感を持とうよ!!」
おなかの音で戦闘の開幕なんて、全然締まらないじゃないか。
「おなかがすくのは仕方ないのよ。はやく麦を出すのよ」
ボクに麦を要求してくる院長先生。
「分かりましたよ……マジック・バック……って、麦がない!!」
マジック・バックの中はすっからかんだった。
「サイレン……コさんが持つ麦はー、全部売ってしまったじゃないですかー」
「そうでした」
「あんさんら、いい加減にしろや」
フランシュはその場で、思いっきりパンチした。
アリアは大鎌を持って警戒をしているものの、距離があるためかその場で棒立ちをして見ている。
まずい、風圧でアリアがやられてしまう。
「避けろ、アリア!! フランシュの見えない風圧だ!!」
「風圧デスか……ごほっ、ごほっ」
アリアはおなかを手で押さえながら、前かがみになった。
見えない風圧をおなかにまともに食らってしまったようだ。
「大丈夫? アリア!?」
ボクはアリアに駆け寄る。
しまった、アドバイスが遅れてしまった。
「ちが……」
アリアはそう言い残すと、血を吐いて倒れてしまった。
「院長先生、アリアを頼みます」
瞬動でアリアに一瞬で近づき、倒れこむ体を支えた後、もう一度瞬動を使い、アリアを院長先生に預けた後、すぐにダガーを構えてフランシュの方を向いた。
「分かったのよ。ヒール」
「どうですか?」
背中越しにアリアの状態を尋ねる。
「気絶しているけど応急措置はしたから大丈夫なのよ。ただ、魔族に回復魔法は利きにくいから、回復には時間が必要なのよ」
「ボクが時間を稼ぎます!!」
「あんさんが時間を稼ぐやて? 無理やろ!!」
ボクは巻きこまないように、瞬動を使って、院長先生と距離をとると、フランシュはボクを目だけで追ってきた。
よし、作戦通りだ。
「そうだ、ボクには無理だ!!」
ボクは仁王立ちで堂々とこたえる。
「どういうことや?」
ボクの言葉に困惑するフランシュ。
「こういうことなのよ、ホーリィー」
フランシュがボクに注視している隙に、院長先生は光の槍をフランシュめがけて投げた。
よしっ、院長先生の光の槍がおなかに突き刺さったぞ!!
「ふはは、油断したな、フランシュ!! 院長先生はアリアの回復に集中しているフリをして、最初からお前に魔法を食らわせる算段だったんだよ!!」
念話を使わなくたって、これくらいの段取りならアイコンタクトで取れちゃうんだからね。
「卑怯やな」
「戦いに卑怯なんて言葉はない!!」
ボクの言葉に、フランシュはぱたりと倒れる。
「あっけない幕引きだったね、院長先生」
「まだなのよ」
え?
訊き返そうと振り返ったところで、何かが飛んでくると感じたので、ボクはその場でしゃがみ込んだ。
しゃがみこんだボクの頭上を光の槍がかすった。
「強い奴がおるんに、油断なんかするわけないやろ。魔法の槍はお返しするで」
お返しって、フランシュは自分おなかに刺さっていた光の槍を自ら抜き取って、投げたってこと??
どんだけ頑丈なんだよ、フランシュ。
本当にスライムより弱いSランクなんだよね?
あ、そういえば、フランシュってドーピングしていたんだっけ……
あのひょろひょろのニージュー・チョーボーでさえあんなに筋肉ムキムキになったのだ。
もともとニージュー・チョーボーよりも筋肉があったなら、めちゃくちゃ筋肉がついているに違いない。
ドーピングって、どれくらいの時間、効力があるのだろうか?
いや、今はそんなことを考えても仕方ないな。
ボクはダガーを構える。
「倒れたフリして、院長先生が投げたホーリィを投げ返すなんて卑怯だぞ!!」
「戦いに卑怯という言葉はないんやろ?」
「ぐっ……」
言葉のブーメランが返ってきては、何も言い返せない……
忙しい人のためのまとめ話
アリア、フランシュの攻撃で倒れる。
サイレントと院長先生、フランシュをだましうちするが、効果なし。