第40話 姫様、ナ・リキンと対峙する
これまでのあらすじ
サイレント、小麦商人に小分けにして麦を売りつける。
小麦が大量に売られていることを知った貴族がパニックになる。
――サイレントたちが小麦を売った後、とある貴族の会合会場にて――
「「「「「はやく、小麦を売りにいかないと!!」」」」」」
貴族たちは我先にと飛び出そうとした。
「待つんだぞ!!」
私は手を広げて出て行こうとする貴族どもを止める。
「どけ!! 今すぐに保有している麦を売らないといけないんだ……って、ナ・リキン様!!」
「そうだぞ、『財務大臣』のナ・リキン様だぞ!!」
あえて、財務大臣を強調して権力を振りかざす。
「ナ・リキン様、聞いてください!! どうやら、国の備蓄麦が売られたらしいんですよ!!」「そうだ、そうだ!! このまま麦の値が下がれば、大損するじゃないか」「そこをどけ!!」
失礼なやつがいるみたいだが、まあ、大目に見てやるぞ。
「まずは、落ち着くのだぞ!! 慌てるのはこの『財務大臣』であるナ・リキン様の話を聞いてからでも遅くはないぞ!!」
私はもう一度財務大臣を強調した。
「ナ・リキン様がそう言うなら」「話だけでも聞くか……」
「まずは情報の整理だぞ。麦が大量に売られたのは間違いないぞ」
「それなら、すぐにでも市場に行って麦を売りに行かないと」
「落ち着くんだぞ。行くのは市場ではなく、王城なんだぞ」
「王城?? どういうことですか??」
「お主達も知っているように、王様は不治の病で正気ではないんだぞ。つまり、この財務大臣であるナ・リキン様の承諾がないと城にある備蓄麦は売れないんだぞ」
「いや、でも、しかし実際に売られているという報告がありまして……」
「もし、本当に城の誰かが備蓄麦を売ったなら、売った輩は、国家転覆罪で、家族もろとも死刑ですぞ」
「まあ、それはそうですね」
「このナ・リキン様の情報網によると、麦を売ったのはルゥ姫なんだぞ」
「え? あのルゥ姫ですか??」
「そうなんだぞ。さっきも言ったように、ルゥ姫が備蓄麦を売ったのであれば、姫の父上でもある王様さえも牢屋行だぞ」
「王様を牢屋って、革命じゃないか!!」
「その通りだぞ!! もしも、このナ・リキン様と一緒に城について行きさえすれば、金も権力も今より手にすることができますぞ!!」
貴族が欲しいものと言えば、金か権力。
この扇動でこいつらは動くはずだ。
「さすがはナ・リキン様だ!!」「行くのは市場じゃない。お城だ!!」「みんなでルゥ姫を糾弾しようじゃないか!!」「そうだ、糾弾すべきだ!!」
「革命に参加したい貴族はこのナ・リキン様についてくるといいぞ!! そして、同士をもっと集めるんだぞ!!」
「「「「「うぉー!!」」」」」
これで扇動は成功だぞ。
「なんや、騒がしいな」
いつも音もなく背後に現れるから正直怖いぞ。
「これから、貴族どもと共に、お城へ行って姫様を糾弾して革命を起こすんだぞ。フランシュも私兵に混じってついて来るといいぞ!!」
「それは面白そうやな」
大男はにやりと笑った。
――お城のサイレントたち――
「ボクの気配察知が確かならば、ここにたくさんの人が来るよ」
「おそらく革命を企む貴族たちじゃっ!! ここまでは計画通りじゃっ!! あとは妾に任せるてそこで成り行きを見ているのじゃっ!!」
「え? 成り行きを見守らないといけないの?? もう、関わりたくないんだけど……」
できれば安全圏でことの成り行きを見守りたい……
「見守るのじゃっ!!」
にらんでくるお姫様。
「サイレントさんー」
潤んだ瞳で見てくるフラットさん。
「分かりました」
仕方ない、見守りますか……
「失礼しますぞ、姫様!!」
しばらくすると、聞いたことのある声がした。
ん? あの顔……もしかして、ナ・リキン??
「おや、誰かと思えば、ウソ発見調査官から成り上がった財務大臣のナ・リキン様じゃないかっ!! 家でリモートワークをするのではなかったのかっ??」
やっぱり、ナ・リキンじゃないか……って、財務大臣だって!?
ナ・リキンは財務大臣だったのか!!
ボクは院長先生に目を向ける。
院長先生は首を横に振った。
どうやら、院長先生もナ・リキンが財務大臣とは知らなかったようだ。
「リモートワークでは解決できない案件があるんだぞ!!」
「それで、貴族と私兵を大勢引き連れて、王城へやってきたということかっ??」
「その通りですぞ。重要な案件なので、姫様に直接話を聞きにきたんですぞ」
「妾の話じゃとっ!? 今は客人の応接中なのじゃがっ、それよりも重要な案件かっ??」
「重要ですぞ。犯罪者を捕まえるという案件ですから」
「犯罪者とは、リモートワークを主張して、ろくに仕事もせずに私腹を肥やす貴族のことかのっ??」
ナ・リキンにケンカ売るお姫様。
「犯罪者はあなたですぞ」
「妾が犯罪者っ? これはどういうことだっ!?」
「姫様このナ・リキンにウソをつけばすぐにバレるからといって、話をそらそうとするのは良くないですぞ。城に備蓄している小麦を、財務大臣であるこのナ・リキン許可なしに売ってしまったのですぞ?」
「妾が小麦を許可なしに売ったっ!? そんなことしていないけどっ!!」
「とぼける気ですかぞ!!」
「全然とぼけていないんだけどっ!? どこに証拠があるのじゃっ!?」
「往生際が悪いですぞ。小麦商人から話を聞いているので、ネタは上がっているんですぞ。一緒に倉庫の麦を確認しに行きますぞ」
「いいけど、条件があるのじゃっ!!」
「条件とは何ですぞ?」
「今、応接しているその者たちと一緒に確認するのじゃっ!!」
それって、ボクたちのことだよね?
「……いいですぞ」
ボク達の顔や体格を確認してから、うなずくナ・リキン。
どうやらパン屋であったことは覚えていないようだ。
「それならば、きちんと小麦があるかどうか一緒に確認するのじゃっ!!」
正直、勝手に巻き込まないでほしい……
「それではついてきていただきますぞ」
ナ・リキンとお姫様が先頭に立ち、その後ろを多くの兵士とボクたちはついて行った。
忙しい人のためのまとめ話
ナ・リキン、悪徳貴族とともに王城に乗り込む。
姫様、ナ・リキンと対峙する。