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第37話 サイレント、女装がバレそうになる

これまでのあらすじ

 院長先生、ウソの噂を流すように進言する。

 サイレント一行、噂を流して、お城の貴賓室に泊る。




 用意された貴賓室はとても広く、豪華な一室だった。


 ファミリー用の貴賓室なのか、ベッドがボクたちの人数よりもたくさんあり、ふかふかだ。

 まさか、王様に指名手配された初日にお城の貴賓室に泊ることになるなんて、人生まったく分からないものだ。


 ……って、もしも、ボクの正体がバレたら逃げられないじゃないか!!


 こんこん。

 最悪の出来事を想像している最中、ノックの音がしたので、びくっとする。


「はいー」

 フラットさんが返事をしてから、ドアを開けた。


「失礼いたします。何か足りないものなど、ありますでしょうか??」

 メイドさんのような方が、部屋に入ってきて、うやうやしく頭を下げながらたずねてくる。


「何かありますかー?」

 フラットさんはボクたちに尋ねる。


「ないデス」「ないですね」「ごはんが欲しいのよ」

「かしこまりました。すぐに夕食にいたします」


「できれば、大量に持ってきてほしいのよ」

 食料が高騰しているんだから少しは遠慮しなよ、院長先生。


「かしこまりました。他にはありますでしょうか??」

 メイドさんは、うやうやしく頭を下げる。


「何かありますかー??」

「ないデス」「ないですね」「ないのよ」


「かしこまりました。そういたしましたら、このお部屋のことを説明させていただきます」

「よろしくお願いしますー」


「トイレやお風呂などこの中ですべて完結しますし、何か御用などありましたら、そちらの呼び鈴でお知らせください」

 メイドさんが示す先には金色ピカピカの呼び鈴。


「「「「はーい」」」」

 全員そろって返事をする。


 なんてすばらし環境なんだ。

 すべてがそろっているなんて。


「何か御用がありましても、決してこの部屋からは出ないでくださいね。絶対にですよ。それでは失礼いたします」


 そう言い残すと、メイドは深々と頭をさげて、部屋から出て行った。

 あ、この人、ボク達を監視するつもりなんだ。


 なんて最悪な環境なんだ。

 ボクが頭を抱えると、カツラが取れてしまった。

 まずい、髪がカツラだと知られれば、ボクがサイレントだとバレてしまう。


「師匠の妹さん、お風呂に一緒に入るデス!!」

 話しかけてきたアリアにばれないように、ボクはそのまま取れたカツラと共にベッドの中になだれ込む。

「えっと、お風呂はいいかな。ボク、疲れちゃったし」


「そんなこと言わずに一緒に入るデス」

 布団をものすごい力で引っぱってボクを引きずりだそうとするアリア。

 やめて、アリア。


「サイレンコはお疲れだから、私と一緒に入るのよ」

「いいえー、インフィニティさんはー、私と一緒に入りましょうー」


「ダメデス、お姉さまはアリアと入るデス」


 いつの間にか、アリアと院長先生とフラットさんとが誰と一緒にお風呂に入るかでもめ始めた。

 もう勝手にやってくれ……


「すみません、疲れているんで、先に寝ます」

 ボクはカツラを頭に乗っけてから、みんなに伝える。


「あら? それなら、夕ご飯は食べないのよ?」

「おなかすいていないからいいです」


「それなら、サイレンコの分もいただくのよ」

「いいですよ」

 ボクは気配を消して、部屋の隅で寝た。


 …………

 ……


 あー、久しぶりにゆっくりと寝れた。

 眼が覚めると、一つのベッドにアリアにくっつく院長先生と院長先生にくっつくフラットさんと、フラットさんにくっつくアリアがいた。


 昨夜、いったい何があったのだろうか??

 寝ないで、起きていればよかった。


「あれ? 師匠?? 何でここにいるデスか??」


 ボクが後悔していると、目を覚ましたアリアが目をこすりながらボクに声をかけてきた。

 まずい、まずい、まずい。

 カツラをかぶっていなかった。


「寝ぼけているのアリアちゃん?? ボクは師匠の妹のサイレンコだよ」

 ベッドの中にあったカツラを急いでかぶり、その場をとりつくろう。


「あれ? そうデスよね。寝ぼけて見間違えたみたいデス」


 セーフ!!

 バレなかった。


「よく眠れたデスか、妹さん??」

「うん、まあね」


「一夜経ちましたが、噂は広まっているデスかね??」

「きっと、広まっているのよ」「そうですねー」

 いつの間にか起きてきた院長先生とフラットさんがこたえる。


「それなら、すぐに確認しにいきましょう!!」

「その前に、とっても大切なことがあるのよ!!」


 今までに見たことのない真剣な表情の院長先生。

 これは超重要なことに違いない。


「なんですか?? とっても大切なことって??」

「それは…………」

「それは??」

 ボクはごくりと唾を飲み込み、院長先生の次の言葉を待った。


「…………朝ごはんを食べることなのよ!!」

「昨日の豪華な夕ご飯がよっぽど気にいったんデスね」

「欲望に忠実なところがー、インフィニティのいいところなんですよー」


 呆れるアリアと、褒めるフラットさん。


「いや、ちょっと待ってください、院長先生。食べるよりも、噂がきちんと広まったかの方が大切ですよ」


「違うのよ。おなかがすいては戦はできないって言葉があるように、食べることの方が大切なのよ。それにあなた、昨日の夜は食べていないのよ」

「それは、まあ、そうですが……」


「とにかく、朝ごはんを食べるのよ!! メイドさん!!」

 院長先生は呼び鈴を鳴らしてメイドさんを呼び出し、ボクたちは朝ごはんを食べた。


 …………

 ……


「号外、号外!! 国が備蓄麦を売るらしいぞ!!」

 お城で出された豪華でおいしい朝ごはんを食べたあと、市場に向かう途中で、ビラをばらまく人がいた。


「分かってるよ」「そんなの、常識だぜ!!」「子どもだって知ってることさ!!」

 どうやら、町は備蓄麦が売られるということが常識になっているようだ。


「どうやら、噂は広がっているみたいですね。これならきっと、小麦の価格は下がりますよね??」

 ボクはみんなに尋ねる。


「下がりますよー。国の保有する備蓄麦を売るんですからー」

「フラットお姉さまの言う通りデス!!」


「そうなのよ、絶対に下がっているのよ!!」

「よし、それなら、急いで小麦買取店にいきましょう!!」

 ボクたちは期待しながら、小麦買取店へと向かった。


 …………

 ……


「小麦を高値で買い取るよ! 古かろうが、おいしくなかろうが、どんな小麦でも高値で買い取るよ!! なんなら、昨日よりも高い値段で買いとっちゃうよ!!」


 噂を流した翌日、小麦買取のお店の近くまで行くと、活気のある声が聞こえてきた……って、全然、値段が下がってないじゃないか!


 むしろ上がっている!!

 何で??


忙しい人のためのまとめ話

 サイレント、お城で女装がバレそうになる。

 噂を流して一晩経ったが、小麦の値段は下がらない。


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