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第36話 サイレント、噂を流す

これまでのあらすじ

 院長先生の提案、姫様に難しいと言われる。

 サイレント、打つ手なしで肩を落とす。




 

「いいえ、まだ手はあるのよ」

「本当ですか?」

 このどうにもならない状況でもまだ策があるなんて、さすが院長先生だ。


「ウソの噂だけを流せばいいのよ」

「ウソはいけないことデス!!」

 院長先生を軽蔑の眼で見てくるアリア。


「でも、このウソを流せば、苦しんでいる農民が助かるかもしれないのよ」

「デスが……」


「昔からウソも方便という言葉があるのよ、アリアちゃん」

 院長先生は必死に自己弁護をする。


「ここは多めに見てあげようよ」

 ボクはアリアをたしなめた。


「師匠の妹さんがそういうなら、今回だけは目をつむるデス」

「さすが、アリアちゃん。心が広いのよ」


「ところで、どんなウソの噂を流すんですか?」

「国の保有している備蓄麦を売るという噂なのよ」


「え? その噂で助かるんですか?」

「もちろんなのよ」


「どうしてですか?」


「小麦粉を買い占めて値段を釣り上げているのは、貴族たちなのよ。もしも、国が備蓄麦を大量に売り出すという噂を耳にすれば、貴族たちの所持金では買い支えができなくなり、破産しかねないのよ。自分の保身をしたい貴族たちは持っている小麦を一斉に売り出すはずなのよ」


「なるほどー、うまくいけば、小麦の値段は一気に低くなりますねー」

「なるほど」

 まったく分かんないけど、とりあえずうなずいて分かったフリをしておこう。


「貴族たちも買い支えできずに破産する根拠はあるのかっ? 妾達の眼をかいくぐって、私腹を肥やしているような輩たちばかりじゃ!!」


「貴族がわざわざ、自分からパン屋に出向いてまで、小麦の相場はいくらかを確認してきていたから、可能性は高いのよ」


「なるほどなのじゃっ!!」

 納得する姫様。


「いやいや、どうして、貴族がわざわざパン屋まで出向くと、買い支えができなくなるんですか?」


「もしも、大量に資金があるのであれば、わざわざ自らパン屋に出向かずに、小僧にでも使い走りにさせて、情報を得ればいいのよ」


「小僧が貴族にウソをついたり、間違った情報を言うかもしれないから、自分から出向いているかもしれませんよ?」


「たとえウソをつかれても、お金が大量にあるのならば、貴族本人がわざわざ自ら出向かなくても、ただ座って指示を出せばいいだけなのよ」


「確かに、それはそうかもしれませんが……」


「パン屋の話だと、小麦の値上がりが始まったのは1か月前からなのに対し、貴族がパン屋の相場を聞きに来たのは1週間前。つまり、ここ最近、小麦粉を買いすぎて、お金に余裕がなくなってきたから、自ら相場を確かめに来ていた可能性が高いのよ」


「あー、そういえば、ここ1週間で貴族が商人を通したかを頻繁に訊きに来るから大変だと門番も言っていましたねー」


「なるほど、買い占め貴族どももお金の余裕がなくなっているから、情報を頻繁に得ようとしているわけじゃなっ!!」


「そういうことなのよ」


「それなら、ただちに噂を流すのじゃっ!!」

「噂を流すって、誰が?」


「おぬしらに決まっておろうがっ!! 妾が町に出て噂なんか流すわけなかろうっ!!」

 ですよね、ボク達ですよね。


「分かりましたよ」

「分かったなら、さっさと噂を流しに行くのじゃっ!!」

 ボクたちは王城を追い出されて、先ほどパンを買った露店の近くに来た。


「ねえ訊いた? ここだけの話だけど、ついに国が備蓄麦を売りに出すらしいのよ」

「そうなんですかー、それなら麦の値段もすぐに下がるでしょうねー」

「そうだね。あと少しだけ我慢すれば、きっと明るい未来が待っているね」


 ボクたちはみんなに聞こえるか聞こえないかのギリギリの声で噂をばらまいた。


「マジか?」「マジで?」「マジらしい」「マジに違いない」「マジだ」


「おい、国がついに備蓄麦を売りに出すらしいぞ」「あともう少し頑張れば、小麦が手軽に買えるってことか?」「ああ、そうだ!! もう少しの辛抱だ!!」

 希望を胸に噂を広める人々。


「この調子なら明日にでも噂は町中に広まるのよ」

「貴族連中は、今頃青い顔をするのが楽しみデス」


「よし、ボクたちのお仕事は終わりだね。それじゃあ、泊る宿でも探そうか」

「探さなくてもいいですよー」


「え? どうして?」

「お姫様がお城の貴賓室に泊ってほしそうですー」


「へー、あんなにボクに嫌悪感を示していたのに、けっこういい人なんだな、お姫様」

「違うのよ、姫様はただやり手なだけなのよ」


「やり手ですか??」

「流した噂がウソだと私たちが話してしまえば、噂の意味がなくなってしまうから、自分から貴賓室を用意したのよ」


「それじゃあ、貴賓室に泊れって、もしかして……」

「もしかしなくても、私たちを監視するためなのよ」

 ぎろっとフラットさんをにらむ院長先生。


「ちょっとー、私をにらまないでくださいよー。決めたのは姫様なんですからー」

「そうデス、フラットお姉さまは悪くないデス」


「そうなのよ、サイレント! フラットをにらむのは筋違いなのよ!!」

「いや、にらんだのは院長先生ですよね?」

 さらっとボクが悪いみたいにしないでください。


「とにもかくにも、用意された部屋に行くのよ!!」

 院長先生はボクの話を流して、貴賓室へと促した。


忙しい人のためのまとめ話

 院長先生、ウソの噂を流すように進言する。

 サイレント一行、噂を流して、城の貴賓室に泊る。

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