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第28話 サイレント、アリアを引き離せない

前回のあらすじ

サイレント、アリアに町中を走るように命じる。

アリア、素直に町中を走ろうとする。



 

 ……って、鎌を持ったアリアを走らせたらいけないじゃないか。

 このままだと本当に通報されて、責任取らされて、ボクの青春を含めた、残りの人生を棒に振ることになるぞ。


「アリア、今日のランニングは大鎌を置いていこうか」

 ボクはアリアの前に両手を広げて立ちふさがった。


「どうしてデスか? 通報されるからデスか? やっぱり、通報のことを忘れていたんデスか?」

「もちろん、通報はされないんだけど、今日は祭りだしね」

 こういうピンチの時こそ、平常心を忘れずにいつも通りを心掛けてアリアに伝える。


「そうデスか……」

 ふう、冷静に対処できたし、アリアも不審がってはいないようだし、大丈夫だろう。


「ところで師匠、どうして、そんなに声が震えているんデスか?」

 いや、不審がっていた!


「そ、そ、そ、そんなことないさ。ボクのきつい訓練に耐えられるかちょっと不安だっただけさ」

 平然とウソをつくボク。


「アリアがきつい訓練に耐えられるか心配してくれていたんデスね?」

「うん、まあ、そうだね」

 ボクは明後日の方を見ながら返事をする。


「師匠、それならアリアと一緒に走ってくれないデスか?」

「え? 一緒に?」


「アリア、師匠がどのコースをどれくらいのスピードで走っているか、知りたいデスし、もしアリアが力尽きて倒れてしまっても、師匠がいれば助けていただけるじゃないデスか」

「いやいや、ボクだってどのコースをどれくらいのスピードで走っているかなんて分からないよ」

 実際に走ったことないし。


「え? どうしてデスか? 毎日、町中を走っているんデスよね?」

 しまったー。

 墓穴を掘ったー。


「あの、えっと、それは……」

 どう答えればいいんだ?


「分かりました!」

 アリアが突然叫ぶのでボクのノミの心臓が発作を起こす。

 もしかして、訓練していないのがバレたのか……


「毎日体調や気分によって走る速度やコースを変えているんデスよね?」

 名推理をするかのようにびしっと指をさすアリア。


「じ、実はそうなんだ。あはは、バレちゃったか」

 危ない、危ない、ボクが毎日走っていないことがばれるところだった。


「そうデスよね。まさか、毎日走っていないのに、走っているフリをしているなんてことありませんもんね?」

「あ、あ、あ、あたりまえじゃないか」


 あれ?

 もしかして、この子、気づいてる?

 いやいや、そんなことはないはずだ。

 今までのボクの対応は完璧なんだから。


「それじゃあ、師匠の気まぐれコースで一緒に走りましょうデス」

 何、そのシェフの気まぐれコースみたいな言い方。


「そうだね」

 ボクは頷いてから気づいた。


 アリアの職業ってアサシンじゃないよね?

 アサシンは基本的に軽い武器を持って素早い動きをする。


 アリアの職業は大鎌を持っているから、アサシンではないだろう。


 つまりは、ここでアサシンのボクが高速で走って、アリアに滅茶苦茶差をつけた後、ボクがアリアに、君には冒険者の才能がないと伝えれば、アリアは自信をなくして、冒険者になるのをあきらめるんじゃないか?


 いや、絶対にそうだ。

 なんていい作戦だろう。


「師匠、なんだかわかりませんが、とても悪いことを考えている顔をしていますよ」

「いやいやいや、別に悪いことなんて考えてないんだからね。これはボクのいつもの顔さ」


「そうデスか。普段はもっとマヌケ顔に見えますが」

 なんだって、ボクがマヌケ顔?

 バカとはよく言われるけど、マヌケとは言われたことないんだぞ。

 これは、師匠としてよいところを見せなければならないな。

 ボクは真面目な顔をする。


「師匠、顔が……」

 真面目でハンサムだって褒められちゃうかな?

 もう、惚れるなよ、アリア。

「顔が怖いデス」

 うう……うまくいかないな……


「ボクの顔なんてどうでもいいんだ。そんなことより、そろそろ訓練を開始するぞ!」

 こういう時は切り替えが大切だ。

 ボクは顔が怖いって言われたことは全然気にせずに、アリアに呼びかける。


「分かりました、師匠! ところで、何でそんなに落ち込んだ顔をしてるんデスか」

「そこは気にしないで」

 本当に顔が怖いって言われたことは、全然気にしてないんだからね。

 うう、気にしているけどさ。


「分かったデス。それでは訓練をお願いします」

「さて、ボクの地獄の特訓についてこれるかな?」

「一生ついて行きます。師匠!」

 アリアはボクと肩を並べて走り始める。


 ふふふ、ボクについてこられるのは最初だけだよ、アリア。

 本業がアサシンであるボクのスピードはこんなもんじゃないからね。

 そろそろ本気を出して、アリアとの距離を……


 アリアとの距離を……


 アリアとの距離をとれない。


 アリアはぴったりと肩を並べて走り続けている。


 なんで?


 あっちはまだ冒険者にも登録していない、ペーペーだよ?

 なんでこんなに差が縮まらないの?

 アサシンのボクと同じくらいの体力が、アリアにはあるってこと?

 いやいや、そんなはずはないよね。


 アリアの適性職業は何か知らないけど、弱いとはいえ、長年アサシンをやっているボクがアリアとの差をつけられないなんてことはないはずだ。

 こうなったら後先考えずに、全力で走ってやる。

 ボクは脚に力を入れた。


 あれ? おかしいな……

 走ってから少ししか経ってないのに……

 はぁはぁ……

 き、きつい。


 何でだ?

 いつもなら、この程度の距離で疲れるなんてことないのに……


忙しい人のまとめ話

サイレントとアリア、町中を走る。

サイレント、アリアを引き離せない。

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