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第35話 院長先生の提案は難しいと言われる

これまでのあらすじ

 サイレント、姫様に嫌われる。

 院長先生、姫様に備蓄麦を売るように進言する




 なるほど、大量の備蓄麦を売り出して、一気に小麦の値段を下げるという作戦ね……

「……って、なんで大量の備蓄麦を売ると、小麦の値段が下がるのさ?」


「今、アーノム・ギトーゲに出回っている小麦は貴族に買い占められているので流通が少なく、貴重デス。貴重だから値段が高くなっているデス。今、王城にある小麦を大量に売れば、貴重じゃなくなり、自然と値段は下がっていくデス」


 おお、そういうことか……


「……って、いやいや、国の備蓄麦を売ったとしても、貴族に買い占められちゃうんじゃないの?」


「アーノム・ギトーゲの備蓄麦は大量にあるから、貴族たちが今の高値のままで買い占められるような量じゃないのよ。買い占めが起きなければ、小麦の値段は下がり続け、苦しんでいる人が少なくなるって寸法なのよ」


「へー、なるほど!! 良い案だね」

「確かに良い案じゃっ!! だが、できぬっ!!」


「どうして?」

「備蓄麦を売る権限が妾にないんじゃっ!」


「なんだって!? それなら、権限があるの人に頼んでよ!!」


「それも難しいのじゃっ!!」

「どうしてさ??」


「権限は王様か財務大臣にお願いしなければいけないのだが、財務大臣は最近、この王城にすら来ていないのじゃっ!!」

「それなら、王様にお願いすればいいんだよ」


「だから、それも無理なのじゃっ!!」

「だから、どうしてさ……って、ちょっと待って。この部屋に誰か来る」


 先ほど、気配察知のスキルを使ってから、誰かがこちらに近づいている足音がしたので、ボクは足音がする方を指さした。


 指をさしたそこにあるのは確かに壁だった。

 どうして、壁の方から人が来るんだ?

 部屋にいた全員が身構える。


「あげは様、あげは様、この愚民の代表である愚かなワタクシめにご命令を! あげは様!!」


 壁から出てきたのは、中年男性だった。

 中年男性は、きらびやかな服をまといながら、白目をむき叫んでいる。

 このおっさん、誰?


「王様、どうぞ自室へお戻りくださいっ!!」


 姫様が頭を下げる。

 そっか、これが王様か……って、王様!?

 このやばそうなおっさんが!?


「あげは様、あげは様、いやしく愚かなワタクシめにご命令を! あげは様!!」

 姫様の言葉がまったく耳に入っていないのか、先ほどと同じ言葉を繰り返す王様。


「王様、この城に備蓄してある小麦を売ってもいいという許可をもらえませんかね?」

 王様と姫様の仲が悪くて、王様があえて無視している可能性もあると思ったボクは、揉み手をしながらお伺いを立ててみた。


「あげは様、あげは様、いやしく愚かなワタクシめにご命令を! あげは様!!」

 うん、やっぱり、親子で仲が悪いわけじゃなくて、王様はただの錯乱状態ってわけだね。


 そうだ、院長先生の魔法なら、王様を治せるかもしれないぞ。

「院長先生、王様にヒールをかけてください」


「ヴァンパイア・あげはのスキルだから、ヒールじゃ治らないのよ」

「院長先生の魔法は世界一だから、もしかしたら治るかもしれないじゃないですか」


「サイレンコちゃん……つまり、それは私の存在が世界一だから、結婚したいってことなのよ?」

「言ってないデス。師匠の妹さんを困らせないでくださいデス!!」

 そう言いながら、アリアは院長先生にチョップを繰り出した。


「アリアちゃん、アリアちゃん、いやしく愚かな私にご命令をアリアちゃん!!」

 いや、まじで不敬だよ、院長先生。

 王様の前で王様の真似をするなんて……


「ふざけてないで、さっさとヒールをかけるデス」

「アリアちゃんの頼みなら断れないのよ、ヒール!!」

 院長先生が魔法を使うと、王様は白い光に包まれた。


「あ、あ…………」

 ヒールをかけられた王様の口元が一瞬だけ緩んだ。

 もしかして、成功したのか??


「…………あげは様、あげは様、いやしく愚かなワタクシめにご命令を! あげは様!!」

「やっぱりダメだったのよ」


「それなら、薬を飲ませればいいんだよ」

「無駄じゃっ!! 魔法も薬もまったく効かないんじゃっ!!」


 静かな沈黙が一瞬流れる。


「…………あげは様、あげは様、いやしく愚かなワタクシめにご命令を! あげは様!!」


 一瞬の沈黙を破ったのは、王様だった。


 シリアスなシーンなのに、台無しだよ、王様。


「このくそじじいっ!! 革命軍が暗躍するわ、小麦の値段が上がるわで大変な時に、毎日、毎日あげは様、あげは様叫びやがってっ!! 誰か、このくそじじいを自室へと戻すのじゃっ!!」


 ぶちギレしながら姫様はベルを鳴らして人を呼ぶ。


「あげは様、あげは様、いやしく愚かなワタクシめにご命令を! あげは様!!」

 王様は姫様が呼んだ兵士に連れていかれた。


「見たじゃろっ!! 王様にお願いしても、備蓄麦は売れないのじゃっ!!」


「それなら、お城に来ていない財務大臣に、使者を送って、財務大臣の許可をもらえばよいのよ」

 さすが院長先生だ。

「それは難しいのじゃっ」


「どうしてなのよ??」

「こちらから連絡を取っているのだが、妾が送った法案はすべて見送りにされているからじゃっ!!」


「何でそんなことになっているのさ」

「妾と財務大臣は昔から仲が悪かったから、いやがらせか腹いせのつもりじゃろっ!!」


「それなら、今回も……」

「見送りされる可能性が高いのじゃっ!!」


「それって、いわゆる一つの職務放棄なのよ? 職務放棄なら代理でお姫様がしちゃえばいいのよ」

「代理権の委任状もなしに妾が職務を遂行すれば、国家転覆罪で王様もろとも牢屋にぶち込まれるのじゃっ!!」


「これじゃあ、打つ手なしだよ……」

 ボクは肩を落としてしまった。


忙しい人のためのまとめ話

 院長先生の提案、姫様に難しいと言われる。

 サイレント、打つ手なしで肩を落とす。

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