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第30話 サイレント、院長先生に説明を求められる

これまでのあらすじ

 サイレントと院長先生、借金男がどうして借金をしたか予想する。

 サイレント、院長先生とフラットさんとアリアの話についていこうとする。



「納得しているなら、どういうことか説明してほしいのよ、サイレンコちゃん」

 不機嫌そうな顔をしながら、ボクに訊いてくる院長先生。


「それは……そう、小麦は不作だったから、貴族たちが結束して小麦の買い占めに走ったんですよ」

 ボクはもっともげにこたえる。


「それはパン屋の店員からそのまま聞いたのよ。その先なのよ」

「えっと、つまり……」

 全然分かってないから何も言えない。


「市場に出回っている小麦が少ないのに、貴族たちが買い占めをしたから、小麦の値段が高騰して、結果的にパンも1斤が金貨1枚になったって、サイレンコさんは言いたかったんデス」


「そう、アリアの言う通り。金貨1枚になんてなったら、おいそれと買えない値段にまで高騰したんだよ」


 ボクはアリアの言葉をまるで自分の言葉かのように話した。


「あら? 小麦が高くなったんなら、小麦を売る農民も潤うんじゃないのよ?」

「……確かに!!」


「そうはならないデス!!」

「アリアの言う通り、そうはならないんですよ、院長先生」


「どうしてなのよ?」

「どうしてって、それは……」

 困ったボクはアリアの方を見る。


「農民たちは収穫した小麦を売った後に小麦の値段が高くなったからデス。デスので、農民たちがお金を持っているわけがないデス」

「そうそう、その通りだよ!!」


「あれ? それなら、最初から農民たちは最初から収穫した小麦を売らなければ良かったんじゃないの?」

「それは結果論デス。最初から小麦がこんなにも高くなるなんて誰も予想はしていないデスから」


「それにそもそも、農民たちは小麦を売らないという選択肢はないのさ」

 口をはさんできたのはパン屋の女店員だった。


「どうしてさ?」

「アーノム・ギトーゲでは、農民たちが収穫した小麦はすべて組合に売らなければならないという法律があるからさ」


「全部小麦を売らなければならないだって!? なんて悪い法律なんだ!!」

「そこまで悪い法律でもないのさ」


「悪い法律じゃないだって!?」

「そのとおりさね。もしも、この法律がなかったら、農民の言い値の価格になっちまうからさ」


「え? 何で?」

「そりゃあ、農民同士が結託して、小麦を高価な値段でしか売りません……なんてことになれば、食べ物に困った市民は高価な値段でしか小麦を買えなくなっちまうからさ」


「確かに」

「だから必ずしも悪い法律ではないのさ」


「デスが、農民に独占させない法律の抜け穴を使って、貴族が小麦を独占して値段を高くしたなら、本末転倒デス!!」

 アリアはほおをふくらませた。


「その通りさ」

「いやいや、はやく小麦の値段を下げないと!!」


「ここ1か月で、小麦の値段は普段の100倍にまであがっちまったんだ。すぐに下げるのは無理だろうさ」


 100倍がどれくらいかは分からないが、とにかく値段が高くなったのは分かった。


「それなら、次の麦の収穫まで他の物を食べてしのぐしかないってこと?」

「それも難しいのさ」


「え? なんで?」

「小麦を買うには金がかかりすぎるから、他の物を食べようとみんな考えた結果、イモやトウモロコシを買おうとする町民が続出。結局、イモやトウモロコシさえ値段が高くなってしまって食べ物にさえ困る町民も出てきているのさ」


「なんてこった」

 小麦の値段が急騰したばかりに人々の生活が回らなくなるなんて……


「今、生活が回っているのは、あくどいことをして私腹を肥やした貴族連中と、収穫した小麦の量をちょろまかした農民くらいだろうさ」


「酒も女遊びもギャンブルもしない真面目で、麦の収穫量をちょろまかそうとさえしない正直な農民がバカをみてるってこと?」


「そういうことさ」

「なんて国だよ……」

 真面目で正直者がバカをみるなんて……


「他の町から小麦を安く仕入れて、アーノム・ギトーゲに持ってくれば、解決するんじゃないデスか? この町の小麦は高いから、儲けも大きいはずデス。小麦を多く流通させれば、いずれ貴族たちも買い占めができなくなって、結果的に小麦の値段も下がるはずデス」

「アリア、君、天才だね」


 そうだよ。

 この国の小麦は高いんだから、他の国から仕入れてくればいいんだよ。


「他の国から小麦商人を呼び込みましょう!!」

「そんなことしたって、貴族たちが結束しているなら、よそから来た小麦さえも買い占めるだけなのよ」


「確かに、そうデスね」「そうですねー」

 コクリとうなずく、アリアとフラットさん。



「それに輸入をしようなんてことを考える商人はほぼいないさ。この国に小麦を持ち込もうとすると、小麦の時価に合わせて関税がかかるからさ」


 関税……

 ああ、そういえば、この国に入るときの女兵士がそんな話をしていたっけ……


「なんで関税なんかかけるんだよ!! 悪いやつだな、関税は!!」

「アーノム・ギトーゲの小麦組合を保護するためさ。輸入商人が小麦を持ち込めば持ち込むほど儲けることができるなら、みんな輸入商人になって、小麦組合はつぶれてしまうからさ」


「潰れていいじゃないか!!」

「もしも小麦組合が潰れるなんてことになったら、この国は麦を完全輸入に頼らざるを得なくなり、もしも輸入商人が取引を他の国にする……なんてことになったら、国そのものの危機になってしまうのよ」


「確かに!! ああ、関税も悪い法律というわけではないのか」

「そうデスね」


忙しい人のためのまとめ話

 サイレント、どうして小麦の値段が高くなったのか院長先生に説明を求められる。

 サイレント、どうして小麦が高くなったのか理由を知る。


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