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第26話 サイレント、フラットさんにパンをおごろうとする

これまでのあらすじ

 サイレント、女装したことを隠したくて、逃げ出そうとする。

 アリア、サイレントを逃がさない。



「いえ、師匠のにおいじゃなくて、木が腐ったようなにおいデス」

「そのにおいはもしかしてー、温泉なのではないですかー?」


「ここには温泉があるデスか?」

「ありますよー」


「入りましょうデス」

 確かに、何日もお風呂に入っていないから、提案としてはありがたいけど……


「アリアは師匠がどんな子ども時代だったかきになるデス。温泉に入りながら教えてほしいデス」

「それって、ボクと温泉に入るってこと?」


「その通りデス」

 いやいやいや、ボクが女風呂に入れるわけがないじゃないか……ってあれ、ちょっと待てよ。


 ボクはこれだけ可愛いのだ。

 お風呂に入っても男だとバレないんじゃないか?


「うん、いいね、温泉」

「分かっているとは思うけど、性別を偽って温泉に入れば、極刑は免れないのよ?」

 ボクの耳元でささやく院長先生。


「温泉やめておくよ」

 ボクはきっぱりと断る。

「どうしてデスか? 一緒に入りましょうデス」


 だって、まだ、長生きしたいもの。

 アリアに妹だと嘘をついている手前、男湯に入るわけにもいかないし。


「えっと、その、アリアと温泉に入りたくないんだ」

「師匠の妹さんにいつの間にか嫌われちゃったデス」

 ショックを受け、肩を落とすアリア。


「まあまあ、アリアちゃん、気を落としちゃダメなのよ。サイレンコなんか放っておいて、一緒に温泉に入るのよ!!」


 院長先生は、にまーっと笑って、アリアを誘う。

 院長先生はアリアを慰めながら、自分の結婚相手にしようとしているな……


「何で堕天使なんかと一緒に入らないといけないんデスか」

「同じパーティー仲間だからなのよ、アリアちゃん。一緒に温泉に入ってさっぱりするのが良いのよ」


「アリアさんとインフィニティさんが一緒に温泉に入るなんてことはー、できないと思いますよー」

「何でなのよ!?」


「アーノム・ギトーゲのお風呂は、性別が決まっていない天使専用のお風呂があるからですー」

 確かに、院長先生は天使の子どもで男でも女でもないから、男湯でも女湯でも入れると思っていたけど、なるほど、男でも女でもない天使専用の温泉があるのか。


「アリアちゃんと一緒にお風呂に入れない」

 今度は院長先生がとんでもなく落ち込む番だった。


「どうやら一緒には入れないみたいデスね」

 勝ち誇ったかのように言うアリア。

 ……ってことは、ボクはお風呂に入れないし、院長先生は天使専用風呂。

 あと残っているはアリアとフラットさんだけだ。


「それなら、フラットお姉さま、一緒に女風呂に入るデス。はぁはぁ」

 息を荒くするアリア。


「私はー、冒険者ギルドに個別のお風呂があるのでー、遠慮しておきますー」

 身の危険を感じたのであろうフラットさんは、アリアの申し出を丁重に断った。


「そんな……」

 またも落ち込むアリア。


「それなら、後で一人でお風呂に入りにいくデス」


 そういった経緯でお風呂はお流れになった。

 風呂だけに。


 ぐー。

 誰かのお腹が鳴った。

 ボクとアリアと院長先生は先ほど食べたばかりだから、きっとフラットさんのお腹の音だろう。


「おなかがすいたのよ」

 院長先生のお腹の音だったんかいっ!!

 さっき食べたばっかでしょ、院長先生。


「そういえばー、私もおなかがすいていたんでしたー」

「それなら、ボク、パンでもおごりますよ」


「ありがとうなのよ」

「院長先生にはおごりませんよ。おごるのはフラットさんだけです」


「私ですかー!?」

「フラットさんのおかげでアーノム・ギトーゲに入れたんですから当然ですよ」


「お姉さまのおかげでアーノム・ギトーゲに入れたって、どういうことデスか?」


 あ、まずい。

 このままだと、ボクがサイレントだとバレちゃう。


「あ、これは、その、フラットさんのおかげでお兄ちゃんがアーノム・ギトーゲに入れたから、お礼をしないといけない……って意味だよ」

「そういうことだったんデスね。アリアはてっきり、サイレンコさんは師匠と同一人物じゃないかと思ったデス。声も似てるデスし」


「ははは、こんなに可愛いボクがサイレント? そんなわけないじゃないか」

「そうデスよね。こんなに可愛いのに、師匠のはずないデスよね。話の腰を折って、すみませんデス。どうぞ、パンをお礼してあげてくださいデス」


「あ、そうそう。フラットさんにパンをおごる話でしたね」

「本当におごってくれるんですかー?」


「もちろんですよ。どうせおごるんですから、フラットさんのいきつけのパン屋のほうがいいですよね?」

「いきつけのパン屋は特にないので、どこでもいいですよー」


「パンをおごるだなんて、後悔するからやめておいた方がいいのよ、サイレント」

 ボクの耳元でそっと助言してくる院長先生。


「いくら院長先生がフラットさんを良く思っていないからって、その言い方はないと思いますよ」

「フラットは確かに憎いけれど、そういう意味で言ったんじゃないのよ。単純に破産するかもしれないという意味なのよ」


「いやいや、大食いの院長先生におごるんじゃないんだから、破産するなんてことないでしょ」

「その言い方だと、まるで私が大飯ぐらいの貧乏神みたいなのよ」

 眉間にしわを寄せてこちらをにらんでくる院長先生。


「違うんですか?」

「あとでほえ面かいて、私に泣きついてきても絶対に助けてあげないのよ」

「大丈夫です。そんなことにはなりませんから」

 だって、パンをおごるだけだもの。


忙しい人のためのまとめ話

 アリア、風呂に入ろうと提案するが流れる。

 サイレント、フラットさんにパンをおごろうとする。

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