第24話 サイレント、魔法をかけられる
これまでのあらすじ
サイレント、指名手配されていることがフラットさんにばれる。
サイレント、女兵士に怪しまれる。
「何も持っていなさそうですが、この胸は作り物みたいな……」
女兵士はボクの胸……いや、ボールをぱしぱしとはたきながら疑い始めた。
まずい、このままだとボクが男だとバレてしまう。
「その子は、カサブランカを枯らした悲しみのあまり、豊胸手術をしたんですよー」
カサブランカを枯らしたあまりに豊胸手術するって、話に無理がありすぎる!!
いや、そもそも、カサブランカ、引っ張りすぎだよ。
「なんという悲しいストーリーなんでしょう」
女兵士は涙を流しながら、同情してくれた……って、同情するようなエピソードだったかな?
まあ、いいや。
毒を食らわば皿までだ。
「そうです、ボクはカサブランカを枯らした悲しさで豊胸手術をしたんです。ですので通してください」
ボクはフラットさんのでたらめ話に合わせた。
「ん? どうして、豊胸手術をしたからここを通さないといけないんですか? まさか、豊胸手術したところに金や麦やらを入れて密輸しようとしているのではないですか?」
あれ?
何でボクだけ疑ってくるの?
「それはないですー」
「そうですよね、フラットさん」
「そうですよ、ボク、何も持っていませんから」
「いえ、その言葉は信じられないです。探知魔法を使わせてください」
うん、完全にボクのことを疑っているね、この女兵士。
「いいですよ」
女兵士は何やら呪文らしき言葉を唱え始めると、ボクは白い光に包まれた。
カバッカ町の魔法陣と同じで、ボクが何を持っているかを確認しているに違いない。
「ふう、これで、密輸をしようとすると鼻毛が1メートルのびる呪いがかけられました」
「ふざけるな!! ボクは密輸なんかしようとしていないんだから」
なんで、そんな魔法をかけているんだよ。
「本当ですか?」
「いや、何で疑われているの? 鼻毛のびてないでしょ!!」
ボクは鼻の穴を指さした。
「鼻毛がのびるというのは冗談に決まっているじゃないですか」
「それなら、何の魔法だったんだよ!?」
「密輸をしていないかどうかの魔法です」
「それなら、ボク、何も持ってなかったよね?」
「そうですが、怪しいんですよ、あなた」
「そんなことないですよー。疑われないように、私はこの子に何も持たせてないんですからー」
「フラットさんが言うなら、間違いないですね。さあ、お通りください」
「ありがとうございます」
ボクはお礼をしてから、入国しようとした。
「あ、お待ちください」
兵士に呼び止められて、びくっとする。
「何でしょうか?」
まだ何かあるのか?
「良い仕事を」
「ありがとうございます」
ボクとフラットさんはまっすぐにゆっくりと歩いていくと、様々な露店がずらりと並んでいた。
『小麦粉高値で買い取るよ! 古かろうが、おいしくなかろうが、どんな小麦粉でも高値で買い取るよ!!』『お姉さんたち、短期で高収入なバイトに興味ないかい?』『革命軍フランシュに興味ありませんか?』
耳に入ってくる活気の良い呼び込みに一瞥もせずに、ボクとフラットさんは無言のまま早足で、町の喧騒から逃げるように人気の少ない路地裏に入った。
「サイレントさんー、周りに誰もいませんかー?」
「いないですね」
ボクの返事で、フラットさんがコクリとうなずくと、ボクがこくりとうなずき返す。
「「入国できてよかった」」
ボクとフラットさんは声を合わせて、泣きながらハグをした。
「まさか、あの女兵士は嘘発見調査官だったとは思いませんでしたよ」
「彼女はー、噓発見調査官のようにウソを見抜く能力はないですよー。ただ、自分は噓発見調査官だというハッタリを言うことで、相手の反応を見ていたんですー」
「あ、そうだったんですね」
「そうですよー。もしも、彼女がウソを見抜く能力を持っているのだとしたら、サイレントさんが女装していないとウソついた時点でばれていますよー」
「あ、確かに」
フラットさんの言う通りだ。
「それよりも、どうして兵士の前で『女装した意味がない』なんて言うんですかー。ひやひやしましたよー」
「それは…………ごめんなさい」
謝るしか道はなかった。
「本当に悪いと思っているならー、『申し訳ございませんでした、お姉さま』と、うつむきがちに可愛く言っていただけますかー?」
「申し訳ございませんでした、お姉さま」
ボクがフラットさんの申し出通りに謝ると、フラットさんは鼻血を出してぶっ倒れた。
「大丈夫ですか? フラットさん」
「大丈夫じゃないですー。サイレントさん、可愛すぎですー」
ダメだ、この人。
迅速になんとかしないと。
いや、この場合、迅速になんとかしないといけないのはフラットさんじゃなくて、ボクじゃないのか?
そうだよ、ボクが女装するのをやめればいいんだよ!!
「あの、そろそろ女装を解いてくれませんか?」
「えー!? どうしてですかー?」
ぶっ倒れながらも残念そうな声をあげるフラットさん。
「それは、無事にアーノム・ギトーゲに入国できたわけですし」
「入国できたからこそー、女装を続けないとダメなんですよー」
「どういうことですか?」
「だってー、サイレントさん、指名手配されているんですよねー?」
「そうですね」
「女装を解いたら一発でサイレントさんだってバレますよー」
「確かに、その通りですね……って、それじゃあ、ボクはこのまま女装をしていないといけないってことですか?」
「町に入れたら女装を解けると本気で思っていたんですかー?」
最悪だ。
いやいや、ここは、前向きに考えよう。
アリアと院長先生に女装姿を見られなかっただけでも、よしとしなければ。
そうだ、このまま気配を消して、アリアにも院長先生にも見つからないようにすればいいんだ。
そうと決まれば善は急げだ。
ボクが気配を消そうとした瞬間である。
「本当にこっちにサイレントがいるのよ?」
背後から聞きなれた声がした。
「くんくん、香水の香りに紛れているデスが、確かにこちらから師匠の香りがするデス……あ、フラットお姉さまデス」
フラットさんに抱き着いてくる人影。
それはまさしくアリアだった。
なんてタイミングで現れるんだ、アリアは。
忙しい人のためのまとめ話
サイレント、女兵士に疑われまくる。
サイレント、女装をし続ける。