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第21話 サイレント、ささやかな抵抗を試みる

これまでのあらすじ

 逃げようとしているサイレントは、子どもでも止められることを知る。

 女装したんサイレント、自分の顔をかわいいと思う。





「そうですよねー。可愛いですよねー。今日から毎日女装をしましょー」

「イヤです。それよりもはやく入国しちゃいましょう」


「サイレントさんー、その服でですかー?」

「服?」


 ボクは自分の服を見る。

 どこからどう見てもアサシンの格好だ。


「まさか……」

「はいー。そのまさかです。その服だと、疑われてしまいますのでー、服もお着換えしましょうねー」


 フラットさんの手には女性用の冒険者ギルド受付のブラウスとスカートがあった。

 さすがにこの服を着たら、何か一線を越えてしまいそうな気がする。


「えっと……ボクが着替えたらフラットさんの服がなくなってしまうのではないですか?」

 ボクは近づいてくるフラットさんから後ずさりしながら抵抗を試みる。


「大丈夫ですー。今からサイレントさんが着るのは、私の予備の制服ですからー」

「えっと……似合わないんじゃないですか?」

 ボクはささやかな抵抗を試みた。


「今の化粧をしたサイレントさんなら、似合うはずですよー。絶対にー」

「いやいや、この世に絶対なんてことはないって誰かが言ってました」


「サイレントさんー、無駄な抵抗はやめて、おとなしく着かえましょうねー」

「はい」

 ボクはフラットさんにされるがまま、着かえさせられた。


「すごく似合ってますよー」

 うん、褒められたというのに、全然うれしくない。

 人生初めての体験だよ。


「いやいや、似合ってませんよ。なぜなら、胸のところがぶかぶかだから。ジャストフィットしてないと、門番に怪しまれそうなので、脱いだ方がいいですね。いや、残念だ」


 そうだよ、この服はフラットさんの服なんだ。

 残念ながら、男のボクとは、胸の部分が違いすぎる。

 ボクは冒険者ギルドの受付服を脱ごうとした。


「そんなこといって、逃げちゃダメですよー」

「逃げるんじゃなくてですね、さっきも言いましたが、ジャストフィットしないと、門番に怪しまれるので、服は着ないほうがよさそうです。まことに残念ですが」


「全然残念そうな顔じゃないんですけどー」

「気のせいですよ」

 本当は気のせいじゃなくて心から嬉しいんだけどね。


「サイレントさんの言い分だと、ジャストフィットすればいいんですよねー?」

「ええ、まあ、そうですけど……」


 でも、いきなりボクの胸が大きくなるわけがないし、かといって、ボクのサイズに合わせて縫合しなおすのも時間がかかってしまうだろう。


「それならー、サイレントさんの胸のところにボールを詰めちゃいましょうー」


 フラットさんは用意していたボールをボクの胸のところに押し込むと、ぶかぶかだった胸周りが、ジャストフィットした。

 ボールまで用意しているなんて、フラットさん、用意がいいな、おい。


「不自然じゃないですか?」

「そんなことないですよー」

 不自然じゃないというなら、信じるけれども。


「ちょっとー、回ってみてくれませんかー?」

「なぜそんなことを?」


「もしもー、動いてボールが下に落ちたら、大変じゃないですかー」

 確かに、フラットさんの言う通りかもしれない。

 ボクは言われるがまま、くるりと回った。


「大丈夫そうですね」

 ボールは落ちてこない。


「『ご奉仕いたします、お姉さま』って言ってみてくださいー」

「ご奉仕……って、イヤですよ。そんなこと言いませんからね。絶対に」

 アリアが以前やっていたのを真似して、ぷいっと顔をそむけるボク。


「本物の女の子みたいでかわいいですー。私、興奮して鼻血がでちゃいそうですー」


 対応間違った。

 フラットさんを興奮させてしまった。


「ははは、鼻血がでてしまうほど可愛くなったなら、門番を騙せますね」

「いえいえ、服装を変えただけじゃ、まだ完璧じゃないですよー」


「え? まだですか? どこからどう見ても女性なんですよね、ボク」

「サイレントさんー、気づいてないかもしれないですがー、汗臭いですー」


「汗臭い女性もいますよね?」

「私たちはー、冒険者ギルド門番ですよー。香水の一つくらいつけていないとおかしいですー」

 ああ、そういえば、フラットさんと会う時は、たいてい花の香りがしていたっけ……


「右手首に香水をつけますねー」

 香水の瓶を逆さにして、フラットさんはボクの手首に香水を数滴たらした。


 この香りは、フラットさんの香水と一緒だ。

 花の香みたいだけど、なんの香りだろう?


「この香りはー、カサブランカの花の香水ですー。サイレントさん、右手首をそのままにしたまま、左手首をこすりつけてください」

「分かりました」


 ボクは言われたとおりに左手首を右手首にこすりつける。


「クンクン、ああ、いい香り。これで変装は完璧ですねー」

「完璧だというのなら、はやく並びましょうよ」

 ボクは院長先生とアリアが向かった方へと行こうとする。


「あ、そっちじゃないですよー」

「え? でも、院長先生たちはこっちに行きましたよね?」


「そちらは、一般的な旅人や商人や冒険者向けの門ですー」

「ボクらもそちらの門から入るんじゃないんですか?」


「私たちはー、冒険者ギルド受付ですのでー、時間がかからない特別な門から入るんですー」

「へー、そんな門があるんですね」

「あるんですー」

 門の中に入る前、フラットさんは突然立ち止まった。


忙しい人のためのまとめ話

 サイレント、服を着かえる。

 サイレント、香水をつける。

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