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第19話 サイレント、諦める

これまでのあらすじ

 サイレント、フラットさんの料理の巻き添えを食らって負傷する。

 負傷したサイレント、院長先生の魔法で回復する。



「ウソはいけないのよ、あなた、マジック・バックの中に入って密入国をしようとしたのよ」

「う……」

 確かに、院長先生の言う通りだ。


「入国したいのなら、サイレントさんの入国をお手伝いしますよー」

「え? いや、悪いですよ」


 さすがに、密入国は重罪だ。

 フラットさんに重罪の片棒を担がせるわけにはいかない。


「ウサギ肉を台無しにしたばかりかー、サイレントさんにケガを負わせてしまったのでー、お詫びですー」

「気にしないでください」


「サイレントの言う通りなのよ。ウサギ肉はアリアちゃんが獲ったものだし、ケガは私が治したものだから、気にする必要なんかないのよ。さあ、どこかへ行くと良いのよ」

 院長先生は、『しっしっ』と手でフラットさんを追い払う。


「そんなに邪険にしないでくださいよー。私に良い考えがあるんですからー」

「良い考え? いや、でも……」


「それってもしかして、あなた、まさか、あの方法で入るつもりなのよ?」

 院長先生は心当たりがあるのか、眉をひそめた。


「おそらくー、インフィニティさんの想像どおりですー」

「確かに、フラットならば、サイレントを入国させるのも可能なのよ」


「ですがー、私はサイレントさん一人を入国させるので精一杯ですからー」

 ちらっとアリアの方を見るフラットさん。


「アリアちゃん、私たちは先に入国するのよ」

「アリアは師匠と一緒に入国するデス」

 ボクにしがみつくアリア。


「この城門には、ウソ発見調査官がいるから、アリアちゃんと一緒に入国するのも一苦労なのよ。ここは黙って私に従うのよ」


 嫌がるアリアの手を引く院長先生。

 その表情はいつものようにおちゃらけてはおらず、真剣そのものだった。


「アリア、ここは院長先生の言う通りにするんだ」

「分かったデス」

 しぶしぶうなずいたアリアは入国審査の門の方へと引っ張られていった。


「それではー、サイレントさんー、ちょっとこっちに来てくださいー」

「はい」

 ボク達も城門の方へ向かうのかと思ったら、ついた場所は城門とは反対側の人気の少ない草陰だった。


「あの、フラットさん、アーノム・ギトーゲに密入国するんじゃないんですか?」

 まさか、人気のない草陰から穴を掘って、密入国するわけじゃないよね?


「しー、サイレントさんー、今、密入国を計画していることが誰かにバレたら、私たちは投獄されてしまいますよ」


 確かにその通りだ。

 ボクはすぐさま、両手で自分の口を塞いでから、気配を察知する。


「近くに誰もいませんよ」

「良かったですー。誰もいないならー、準備をしましょうー」


「準備っていったい何をするんですか? こんな草陰で?」

「それはー……」

「それは?」

 ごくりと唾を飲み込むボク。


「それはー、化粧ですー」

「なんだ、化粧ですか。ボクはまた……って、化粧ですって!? 何でボクが化粧をしなければならないんですか?」


「いいですかー、サイレントさんー。あなたは冒険者ギルド受付見習として入国するために女装をしてもらうんですー」

「え?」


 ボクが冒険者ギルド受付見習になるために女装をする?

 どういうこと?


「ですからー、サイレントさんはー、私の部下の冒険者ギルド受付見習として、アーノム・ギトーゲに入国するんですー」

「ああ、なるほど、だから化粧をするんですね……って、何で女装をしないといけないんですか? 冒険者ギルド受付見習男性じゃダメなんですか?」


「ダメですー」

「何でですか?」


「今、私、女性用のメイク道具や香水しかもっていないですからー、女装でしか顔をごまかせないですー」

 言いながらフラットさんは、ボクに化粧品を見せつけてきた。


「なるほど、確かにそうですね」

 ボクはとりあえずうなずいておく。


「……というわけでー、サイレントさんはー、今から化粧をしなければならないんですー」

「結局、女装しろってことですか?」


「そういうことですー」


 ボクは回れ右をして、脚に力をこめた。

 大丈夫だサイレント、ボクの脚なら、フラットさんを余裕で撒ける。


「させないですよー」

 ボクが走り出した瞬間、フラットさんは回り込んでボクの進路をふさいできた。


「何でボクのスピードについてこられるの?」

「サイレントさんとは長いつきあいですからー、サイレントさんが考えていることは手に取るようにわかるんですよー。いわゆる一つの予知ってやつですねー」


「ああ、なるほど、予知ですか……って、エスパーですか? フラットさんはエスパーなんですか?」

「ふふふー、どう思いますー?」

 質問を質問で返された。


「フラットさんが予知なんかできるはずはないと思います。今のは、きっとたまたまに違いないです」

「そうかもしれないですねー」

 質問を質問で返された上にごまかされた。


「それじゃあ、この場から逃げさせていただきます」


 ボクは瞬動を使ってフラットさんから離れようとした。

 だがしかし、フラットさんに肩をがしりと掴まれてしまう。


「逃げないでくださいよー、サイレントさんー」


 またもや、フラットさんに行動が読まれてしまった。

 まさか、本当にボクの行動が読まれているのか?


 いや、これもたまたまに違いない。

 それなら次は……


「それなら次は上空に逃げる気ですかー?」

「なんでわかったんですか? フラットさん、本当に予知能力者なんですか!?」


「いい加減に、諦めてくださいー」

「諦めたら、そこで終わりなんですよ」

 ボクは脚に力をこめる。

 絶対に女装なんかしたくない。


「人間、諦めも肝心ですよー」

 ボクの行動を見越してか、フラットさんはがっちりとボクの腕をつかむ。

 ダメだ、絶対に逃げられない。


「分かりました」


 とほほ、まさか、こんなところまで来て、女装するなんて思わなかった。

 ボクが諦めたと悟ったフラットさんは、化粧道具を両手に持ち、ニコニコ顔でボクに迫ってくる。


 もう、口紅だろうが、食紅だろうが、何でも来い。


忙しい人のためのまとめ話

 サイレント、女装をさせられようとする

 女装したくないサイレント、逃げようとするが、フラットさんに止められる


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