第17話 サイレント、フラットさんにウサギ肉を渡す
これまでのあらすじ
サイレント、マジック・バックに入ろうとしてやめる
サイレント、フラットさんにあう。
「そちらの弱い堕天使さんからは何も聞こえてこなかったデス」
アリアはフラットさんの胸の方へと視線を動かす。
「そんなことないのよ。きっと、距離が遠いせいなのよ。もっと近くに来て私の胸のささやきを聞くといいのよ」
院長先生はフラットさんに抱き着いているアリアに抱き着こうとする。
「あなたの近くでも、ささやきは絶対にきこえないデス」
『くっつかないでください』と院長先生を手で押して、近づかせないようにするアリア。
どうやら、院長先生のアリアが好きだという気持ちも、一方通行らしい。
「そうですねー。きっとー、インフィニティさんのつつましやかな胸は私と姉妹になれと言っているんですよー」
フラットさんに抱き着くアリアに抱きついてきた院長先生に抱き着こうとするフラットさん。
ボク知ってる、これ、六角関係ってやつだ……いや、八角関係だっけか?
正しい数字は分からないけれど、何角関係ってやつだ。
「あなたとなんか、姉妹にならないのよ!!」
「それなら、夫婦になりましょうー」
大胆だな、フラットさん。
院長先生は堕天使で、まだ両性だから、大人になるまでに男にも女にもなれる院長先生にプロポーズしたってことだよね!?
ボクは事の成り行きをドキドキしながら見守った。
「ちょっと、フラットと結婚するなんて死んでもイヤなのよ!!」
うっわー、あっさりと振ったよ、この人……いや、堕天使か。
フラットさんと結婚しちゃえばいいのに。
フラットさん以外には、全然まったくこれっぽっちもモテないんだから。
口に出したら、熱いお灸を据えられそうだから言わないけど。
「何か、言いたそうな顔をしているのよ。言いたいことがあるなら言うといいのよ」
ボクの表情から何かを感じ取った院長先生が挑発しながら尋ねてきた。
「何か言いたいことがあるんですかー、サイレントさんー」
ボクの名前を呼ぶフラットさん。
あのですね、ボクの名前を呼ばれても反応できないんですよ……とは言えないので、フラットさんの声は聞こえなかったことにして空を見上げる。
「あれー? サイレントさんー、聞こえないんですかー?」
名前を呼ばれても反応しないままでいいのか、確認をするためにボクは院長先生の方をちらっと見た。
ボクの視線に気づいた院長先生は、今回ばかりは仕方ないと、両手の手のひらを空に向ける。
どうやら、反応しても良いようだ。
「院長先生がフラットさんと結婚……ぐへっ」
話の途中で院長先生がボクの背中を叩いてきた。
「次、私とフラットのカップルのことを言ったら、ホーリィなのよ」
ボクだけに聞こえるように、ボクの背後でささやく院長先生。
これ以上ボクの言いたいことを言えば、命がなくなる。
「インフィニティさんがー、私と結婚ですかー?」
「違いますよ、院長先生がボクの背中を叩いたので、言おうとしたことと違うことを言ったんですよ」
死にたくないボクは、無理やりに話を逸らした。
「それならー、何を言おうとしたんですかー?」
「院長先生が、フラットさんとけっこう会うけど、どうしてここにいるのかな……って訊きたかったらしいです。ほら、天界でも会いましたよね?」
「冒険者ギルド本店があるー、アーノム・ギトーゲにー、冒険者ギルド天界支店は適切かどうかを報告に来たんですー」
ああ、そういえば、フラットさんと天界で会った時に、そんなことを言っていたな。
「どうですか? 天界で冒険者ギルドはできそうですか?」
「いろいろと解決しなければならない壁があるのでー、難しそうですねー」
「そうですか……」
ボクは肩を落としてしまった。
冒険者ギルド天界支店ができれば、天界支店の職員を通じて、ボクに対する天使たちの誤解をといてもらえるかもしれないと思ったんだけどな……
いや、誤解は他の人に解いてもらうものでもないか。
人に頼らず、自分で何とかしないとね。
「ところでー、ウサギ肉を焼いたようなー、とても良い香りが漂っているんですけどー」
フラットさんは鼻をひくひくさせながら聞いてくる。
ああ、なるほど、最初からウサギ肉目当てだったのか。
「すみません、フラットさん、もうすべて食べてしまったんです」
「そうなのよ、あなたに食べさせるウサギはないのよ!!」
フラットさんに寄り眼で指をさす院長先生。
変顔までして指摘するなんて、よっぽどフラットさんと仲良くしたくないんだろう。
「残念ですー」
「分かったら、さっさとどっかに行くといいのよ」
そう言いながら、院長先生はどこかへと向かう。
「どこに行くんですかー?」
「水が無くなったから、水を汲んでくるのよ」
あれ?
水ならまだあるはずだけど……
「あ、それなら私も行きますー」
「あんたはついてこなくていいのよ!!」
院長先生、フラットさんと顔を合わすのも本当はイヤってことなんだろうか?
スタスタと川の方へ行ってしまった。
「あらあらー、怒らせてしまいましたねー」
フラットさんは頬に手をやり、困った顔をする。
「堕天使なんか放っておけばいいデス。それより、フラットお姉さまはおなかがすいているデスか?」
「そうですねー」
「調理していないウサギの生肉ならまだあるデス」
そう言いながらアリアはマジック・バックからウサギ肉を取り出した。
「なんで生肉をマジック・バックなんかにいれたの?」
「マジック・バックの中は本当に真空でウサギ肉が腐るかどうかを確認したかったデス」
「ああ、なるほど」
「どういうことですかー?」
「えっと……相対性なんとか……いえ、こっちの話なので気にしないでください。それよりもどうぞ、ウサギ肉です」
説明するのが面倒になったボクはアリアが出したウサギ肉をフラットさんに渡す。
「師匠、生肉を渡しても困ると思うデス」
「あ、それもそうだよね」
ボクとしたことが、なんたる失態だ。
「大丈夫ですー。食材があるならー、自分で調理しますからー」
フラットさんはそう言いながら、バッグから包丁を取り出した。
包丁は新品のようにピカピカだ。
「さすがお姉さま、料理もなさるんデスね」
「当然ですー」
フラットさんなら、なんでもこなせそうだから、料理くらい楽勝だろう。
実際に料理しているところは見たことないけど。
フラットさんは、包丁を持つと大きく振りかぶった。
「ただいま……って、そいつに料理なんかさせたらダメなのよ!!」
院長先生は顔を真っ青にして大声を出した。
忙しい人のためのまとめ話
サイレント、アリアと院長先生とフラットさんが三角関係だと知る
サイレント、フラットさんにウサギ肉を渡す