第16話 サイレント、マジック・バックに入ろうとする
これまでのあらすじ
サイレント、マジック・バックの中に入って密入国しようとする。
サイレント、マジック・バックでの密入国は院長先生に無理だと言われる。
「でも、それはあくまで予想ですよね? どちらの説も間違っている可能性もありますよね?」
「もちろんどちらも間違っていて、マジック・バックの中は時間という概念すらない四次元空間になっていて、何が起こるか分からないという説もあるのよ」
「何が起こるか分からないなら、検証をしましょう。ボクの上半身だけマジック・バックの中に入れて、覗いてみるっていうのはどうですか?」
「ちょっとだけマジック・バックの中に師匠を入れるってことデスね?」
「そういうこと」
ボクはそう言いながら、アリアのマジック・バックの中に入ろうとした。
「おすすめしないのよ。マジック・バックの中に身体を入れたら、上半身と下半身がすっぱりと半分に切断されてしまうかもしれないのよ」
「そういうことは先に言ってください、院長先生!!」
マジック・バックに入れてしまった頭を出した。
頭、切れてないよね? そして、ハゲてないよね?
ボクは手で頭を押さえて、自分の髪の毛、ひいては自分の頭があるか確認する。
よかった、どちらもあった。
「そうだったんデスね。それなら、マジック・バックは、魔族を倒す攻撃用として使えばよいのではないデスか?」
なるほど、なるほど。
未知のマジック・バックも使いようによっては武器になるということだね……って、おそろしいことを考え付くな、アリアは。
あれ?
そういえば、ボクもホバッカ村で檻の中に捕まった時、マジック・バックの魔法を使って普通に鉄格子を切っていたじゃないか!!
つまり、ボクが顔を突っ込んでいたら、ボクの顔も鉄格子のようになっていたということか……
…………うん。さっき、顔を全部突っ込まなくて、本当に良かった。
「マジック・バックで魔族を倒すのは難しいのよ」
「どうしてですか?」
普通に考えれば、マジック・バックに魔物を押し込めば、息ができなくなるから倒せるってことだよね?
全然難しいことではないと思うけど……
「マジック・バックは契約呪文の一種で、生き物をマジック・バックに入れるには、その生き物の同意が必要なのよ」
「同意なんか必要ないですよ。だって、ボクは同意を得ていなくても、ぽいぽいと狩った魔物や動物を入れていますよ」
「狩った魔物や動物は死んでいて無生物だから同意は必要ないのよ。必要なのは生きている物の同意なのよ、魔族でも人間族でも天使族でも動物でも」
「なるほどデス。つまり、入れたいものが生物の場合、その生物が首を縦に振らない限り、マジック・バックに入れることはできないということデスか」
「そういうことなのよ」
使い勝手が悪いな、マジック・バック。
「何とかして活用できないデスかね、マジック・バック」
「そうだね……」
アリアとボクは考え込んでしまった。
「そんなことよりも、話をもとに戻すのよ」
「何を言っているんですか、院長先生。ボクたちは、どうすればマジック・バックをうまく活用できるかについて考えていたんですよ」
「違うのよ。あなたがどうやってアーノム・ギトーゲに入るかを考えていたのよ」
ボクの鼻先に指をさしながら言ってくる院長先生。
「あ、そうだった」
いつの間にか『どうすればマジック・バックをうまく活用できるか』についてに話がすり替わっていた。
「そもそも、師匠は悪いことをしていないんだから、こそこそと入らずに、堂々と入ればいいんデス」
「いや、それは無理じゃないかな……」
悪いことをしていなくても、王様の勅命で全国指名手配されているんだもの。
「くんくん、なんだかー、ウサギを焼いたようなよい香りがしますねー」
甘ったるい声が響き渡る。
「この声は幻聴に違いないのよ」
甘ったるい声の主が近くにいると認めたくない院長先生は耳をふさいだ。
「あれー? みなさんー、こんなところで何しているんですかー?」
「フラットお姉さまデス!!」
ボクが院長先生とアイコンタクトをとっている間に、アリアが大声を上げ、フラットさんに抱き着いた。
「あのー、私ー、あなたを妹にした覚えはないので離して欲しいんですけどー」
抱き着かれて困った顔をするフラットさん。
どうやら、アリアが院長先生が好きだという気持ちは一方通行らしい。
「お姉さまの大きくてふわふわなお胸が妹になれとささやいていた気がしたんデス」
やはりフラットさんの胸は見た目通り大きくてふわふわなのか……
ナイス情報だよ、アリア!!
フラットさんに軽蔑されたくはないのでボクは心の中でサムズアップする。
「ちょっとー、何を言い出すんですかー。私の胸がそんなことをささやくわけがないじゃないですかー」
甘ったるい声を出しながらも、恥ずかしそうにするフラットさん。
恥じらう姿も素敵だ、フラットさん。
セクハラで訴えられそうだから口には出さずに、こちらも心の中だけでサムズアップする。
「フラットの言う通り、フラットの胸がアリアちゃんと妹になりたいとささやいているわけないのよ。ささやいていたのは、私の大きな胸なのよ!!」
院長先生はできうる限り胸を張る。
だがしかし、どこからどう見ても、まな板ですよ、院長先生。
いたたまれなくなったボクはアリアの方に視線を移すと、アリアは残念そうな視線で院長先生を見続けていた。
忙しい人のためのまとめ話
サイレント、マジック・バックに入ろうとしてやめる
サイレント、フラットさんにあう。