第12話 サイレント、ほっぺをつねられる
これまでのあらすじ
ニージュー・チョーボー、フランシュにやられる。
サイレント、神殺しのおかげで命拾いする。
「なんの準備もなしに神殺しと戦うのは命をどぶに捨てるのと一緒や。一度出直したる。命拾いしたな。分かっているとは思うが、ここであったことは他言無用やぞ、ええな?」
「分かっていますとも」
ボクはもみ手をしながらこたえる。
良かった。
何か知らないけど、助かった。
ありがとう、『神殺し』。
ボクが感謝をしていると、草陰からがさがさと音がしてきた。
この気配は、アリアだよね。
いや、頼むからアリアであってくれ。
「師匠、どうしたデスか? そんなに警戒して」
ひょこっと顔をだしたのは間違いなくアリアだった。
『まさかとは思うけど、アリア、君って神殺しなの?』と聞こうとして、ボクは口をつぐんだ。
そもそも、神殺しが行われたのはボクが子どもの頃だったはずだ。
その時は、アリアは赤ちゃん……いや、下手したら生まれていないかもしれない。
つまりはボクの弟子であるアリアが神殺しのわけがない。
それに、『ここであったことは他言無用だ』と、ボクに口止めをしてきたフランシュが思い返される。
先ほどのことをアリアに話せば、アリアもフランシュの標的になってしまうかもしれない。
アリアを危険に巻き込むわけにはいかないぞ。
「師匠?」
ボクが黙りこくったせいか、アリアはボクの顔を覗き込んできた。
「あ、いや、なんでもないんだ」
「デスが、師匠、顔が青いデス」
顔が青いと言われ、青い肌に鋭い眼光をしたフランシュの顔がフラッシュバックする。
そういえば、あの眼光、どこかで見たような……
どこだったけな?
思い出せそうで思い出せない。
「師匠、体調でも悪いデスか?」
またもやボクが黙りこんでいたので、アリアがもう一度顔を覗き込む。
「体調は絶好調だよ、アリア。顔が青いのは、ボクを狙いにきた賞金稼ぎかもしれないと思ったからだよ。あー、アリアで良かった」
ボクは笑顔を作って見せた。
「驚かせてごめんなさいデス」
「謝らないで、アリア。悪いのは、気配察知をきちんと使っていなかったボクだよ」
「あ、そうだ、師匠、アリア、ウサギをたくさん捕まえたデス。マジック・バック!!」
アリアがマジック・バックから、とらえたウサギを取り出す。
「すごいじゃないか、アリア」
アリアを褒めた瞬間、アリアの背後に山菜を山のように持った、上半身山菜お化けが目に入ってくる。
「アリアちゃん!!」
「山菜お化けデス」
振り返ったアリアはとっさに大鎌をかまえる。
もしかして、さっきフランシュが言っていた神殺しは、この山菜お化けの可能性もあるぞ。
ボクも警戒しなくては。
ボクもダガーを構えた。
「違うのよ、私なのよ」
持っていた山菜を足元にどさりと落とした山菜お化けの正体は、やっぱり院長先生だった。
うん、知ってたよ。
山菜お化けの正体が院長先生だということも、院長先生が神殺しでないことも。
そして、アリアを後ろからストーカーしていたこともね。
「山菜お化けのままでいれば、あなたに斬りかかれたデス」
「何か言ったのよ、アリアちゃん?」
「なんでもないデス」
「そう。それよりも、こんな広い山の中で出会えるなんて、奇跡……いや、これは運命なのよ。これは結婚するしかないのよ」
運命だって?
アリアをずっとストーキングしていたくせに白々しいな、院長先生。
「ずっとアリアをつけていたくせに、白々しいデス」
「あ、アリアも院長先生に気づいていたんだ」
「どういうことなのよ? 二人とも私に気づいていたのに私のことを山菜お化け呼ばわりしたのよ!?」
あ、まずい。
ここで変なことを言えば、院長先生がキレちゃうぞ。
ここは聞かなかったことにしよう。
ボクは口笛を吹きながら空の方を見てごまかした。
「執拗にストーカーをするからデス」
確かに、アリアの言うことにも一理ある。
ストーカーをするべきではなかったんだよ、院長先生。
「ストーカーしたからって、お化け呼ばわりは酷いのよ。私はこんなにも可愛いらしくて愛くるしい天使なのに」
「可愛いらしくて愛くるしい天使? どこにいるデスか?」
「どこだろうね」
アリアに同意したボクは、アリアともに、きょろきょろとあたりを見回した。
「そっちがその気なら、こっちにも考えがあるのよ」
腕を組んで、頬を膨らます院長先生。
「考えだって!?」
ボクはごくりと唾をのむ。
院長先生が考えることだ。
きっと酷い報復を考えているに違いない。
ボクは身構えた。
「あら? そこにいるのは、アリアちゃんの師匠なのよ。この広い山の中で出会えるなんて、奇跡……いや、これは運命なのよ。結婚するしかないのよ」
それ、ついさっき似たような言葉を聞いたばかりだよ、院長先生。
「師匠、院長先生と結婚しちゃうデスか?」
アリアは今にも泣きそうな声で訊いてきた。
「院長先生と結婚なんかしないから」
「そうデスよね」
「なんてことなの。アリアちゃんの師匠のために、考えに考え抜いたプロポーズの言葉をないがしろにするなんてありえないのよ」
「考えに考え抜いたって、完全に先ほどアリアに言った言葉の焼き増しじゃないですか」
ボクは指摘する。
「バレちゃったのよ。さすがアリアちゃんの師匠なのよ」
「ボク、そこまでバカじゃないですよ。それよりもどうして、ボクのことをアリアちゃんの師匠って呼ぶんですか? その呼び方、よそよそしいですよ。普通に名前で呼んでください」
いつも通り、サイレントと呼べばいいのに。
「本名で呼んでも反応しない約束だからなのよ」
「……え? あ、うん、そうでしたね」
あ、そうだった。
すっかり忘れていた。
ボク、指名手配されているんだった……
「……って、痛いです、院長先生。どうしてほっぺをつねるんですか? やめてください」
「完全に忘れていた人の反応だったからなのよ。下手したら、死んでしまうかもしれないのよ。それなら、体に教えるしかないのよ。これは愛のつねりなのよ」
「痛いですって。もう覚えたからやめてください」
「本当なの、サイレント?」
「もちろんですよ、院長先生……って、痛い、痛い!!」
「ここはサイレントって誰のことですか? ……が正しい反応なのよ」
うん、これは反応したボクが悪いね。
自業自得だね。
忙しい人のためのまとめ話
サイレント、アリアと再会する。
サイレント、指名手配されていることを忘れていたので、院長先生にほっぺをつねられる。