第9話 サイレント、ニージュー・チョーボーから逃げようとする
これまでのあらすじ
知らない人はニージュー・チョーボーだと知る。
ニージュー・チョーボーに仲間にならないかと勧誘される。
「あ、カバッカ町の警備兵だ!!」
ボクは捕まえられかけた手をニージュー・チョーボーの肩まで上げて、ニージュー・チョーボーの背後を指さす。
「なんだと!?」
振り返るニージュー・チョーボー。
ウソだよ。
こんなところにカバッカ町の警備兵がいるわけないだろ。
ニージュー・チョーボーの手をとって仲間になるなんて、まっぴらごめんだからね。
さて、この一瞬のスキをついて、ボクは草陰に隠れて気配を消しますか。
ボクは気配を消して、草むらに隠れなおした。
「誰もいないじゃないか、サイレント。驚かせるなよ……って、サイレントの野郎はどこへ消えた?」
辺りをきょろきょろと探し始めるニージュー・チョーボー。
ふふふ、気づかれることなく、隠れることができたぞ。
さすが、ボク。
一流のアサシンだけはある。
よし、このままやり過ごして……
「サイレントめ、どこに行きやがった……とでも言うと思ったか、サイレント!!」
ニージュー・チョーボーはボクの隠れていた草陰に一直線に向かってきた。
「どうして、分かったんだ?」
「何を不思議そうな顔をしているんだよ、サイレント。草陰に隠れる前に気配を消せば分からなかったかもしれないが、草陰に隠れた後に気配を消したらすぐにバレるだろうが」
「あ、しまった」
ボクとしたことが、初歩的なミスを犯してしまった。
「本当にバカだなお前は。こんなバカなことを繰り返していたら、すぐに捕まるぞ」
「余計なお世話だ」
「余計なお世話? そんなことはないぞ。サイレント、俺はな、マヌケなことばかりしているお前を心配して言ってやっているんだからな」
温かい目でこちらを見つめてくるニージュー・チョーボー。
「それで、君の仲間になれって? 結局、脱獄しても協力者が誰もいないから、ボクを勧誘したいだけでしょ?」
「おいおい、さっき話しただろ、俺のバックには革命軍『フランシュ』がいるんだよ」
「革命軍『腐卵臭』? 何? ニージュー・チョーボーの後ろから、卵が腐ったにおいがするの?」
温泉みたいなにおいが。
「シリアスな場面でぼけるんじゃない、サイレント!! 革命軍『フランシュ』だ!! 知らないのか?」
「知らないよ、そんな集団」
見たことも聞いたこともない。
「それなら教えてやろう。革命軍『フランシュ』は、フランシュ様が創設された、今の政権を良しとしない反乱軍なんだ」
「反乱軍だって!?」
「ああ、そうだ。革命軍『フランシュ』は、コツコツと同士を集め、いずれ政権をひっくり返す反乱をおこすつもりだ。つまり俺たちが王様になることも夢じゃない」
「へー、それなら、ボク抜きでもできるよね?」
「革命軍『フランシュ』は同士がまだ少ないんだ。お前、全国指名手配されているお尋ね者なんだろ? 仲間になれよ、サイレント」
なるほど、それでお尋ね者のボクを仲間にいれたいってことなんだな。
「その反乱軍に君がボクを入れてくれるっていうこと? 本当にできるの? 君にそんなことが」
「できる。なぜなら俺は今、革命軍『フランシュ』の幹部だからな。革命を起こして、世界を力でねじ伏せてやろうぜ、サイレント」
ニージュー・チョーボーは、今度は『にたぁ』と笑いながらボクを誘ってくる。
力でねじ伏せるだって?
「ぷぷぷ」
ボクは笑ってしまった。
「何がおかしいんだ、サイレント」
「だって、力でねじ伏せるって、ニージュー・チョーボーさんは典型的な魔法遣いタイプのひょろひょろな体形で、お世辞にもパワーファイターには見えないからさ」
ボクよりも細い四肢でどうやって力でねじふせようっていうんだ。
まったく、ちゃんちゃらおかしいよ。
「今はそうみえないかもしれないな」
「今は……ってことは、いつかは筋トレをして筋肉ムキムキになるってこと?」
ニージュー・チョーボーの貧相な体じゃ、筋肉ムキムキになるまで、とても時間がかかるだろう。
「いいや、そうじゃない。俺が筋肉ムキムキになるのは、今だ」
「今?」
「ああ、たった今だ」
ニージュー・チョーボーは、丸薬をがりっと噛み、それをごくりと飲み込むと、みるみるうちに体が膨れ上がり、上半身の服は破れ、そこから、ムキムキの筋肉が出てくる。
「何で急に筋肉ムキムキに?」
「『フランシュ』のリーダーがくれた薬を飲んだからだ。お前もいるか?」
ニージュー・チョーボーは、丸薬をボクに見せつけてくる。
「くれるというならいただきましょう」
ただでくれるというならもらっておいてもいいだろう。
「バーカ、すぐには、やんねーよ」
「ウソつき」
「この丸薬は人を選ぶんだ」
「人を選ぶ? 丸薬が? 頭、大丈夫?」
丸薬が、君に決めた……的なことを言うわけがないじゃないか。
「たとえだよ、たとえ。この丸薬は適合者じゃないやつが飲めば、力を手に入れるどころか、副作用で弱体化してしまうからな。服薬するのはお前が適合者かどうか、リーダーに判断してもらってからだ」
「もしも、ボクが適合者じゃなかったら……」
「その時は、この俺の究極のすごい筋肉を拝んでいればいいさ」
自慢するかのように鼻高々に自分の筋肉を見せつけ、侮蔑の目で見てくるニージュー・チョーボー。
あ、この目、ボク知ってる。
最初から、ボクが適合者じゃないと知っていて、自分は適合者であることを自慢したいだけの目だ。
「すごい筋肉……というより、キモイ筋肉だよ」
ニージュー・チョーボーは自分が丸薬の適合者であると自慢したかっただけだと悟ったボクは、冷めた言い方で言い放った。
「おいおい、サイレント、俺の筋肉に世界が屈服するというのに、筋肉をキモイと侮蔑するとは……残念だよ、サイレント」
「誰もお前の筋肉なんかに屈服しないから!! 世の中、力がすべてじゃないから!!」
「ほう、それなら、どんなものが世界に通じるというんだ、サイレント」
「えっと、それは……愛のパワーとか、努力のパワーとか、友情のパワーとか?」
「パワーって、力って意味だろ? やっぱり力じゃないか」
「パワーって力って意味だったのか……初めて知ったよ」
「本当にバカだな、お前は」
「いいや、バカはお前だ!! 愛のパワーも努力のパワーも友情のパワーも、お前の筋肉じゃないじゃないか!! 脳に行く栄養が筋肉に行って、ボクより頭が悪くなったんじゃないの?」
「言うようになったじゃないか、サイレント。それなら、俺の筋肉パワーに絶望しろ!」
忙しい人のためのまとめ話
サイレント、ニージュー・チョーボーから逃げようとする。
サイレント、ニージュー・チョーボーを挑発する。