第6話 サイレント、おなかがすいたので、食材探しをすることにする
これまでのあらすじ
院長先生、生麦をぽりぽり食べる。
サイレント、誰かにつけられている気がする。
「またデスか?」
「またって、前にもあったのよ?」
「カバッカ町を追放されてから、ずっと言っているデス」
「本当なのよ? サイレント?」
「本当ですよ、ボクに向かって一直線に走ってきているんですから。滅茶苦茶速いスピードで」
「カバッカ町から滅茶苦茶速いスピードってことは、カバッカであなたのことを知っているアサシンか、風魔魔法使いの賞金稼ぎに違いないのよ」
「その可能性は低いと思うデス」
院長先生の予想をきっぱりと否定するアリア。
「どうしてそう思うの、アリア?」
「地上であれば、賞金稼ぎの可能性もあるデスが、今回師匠は天界から地上に空から降り立ったデス。誰かにつけられるなんてことありえないデス」
「ボクが地上に降りていくのを見て、追ってきたかもしれないよ?」
「天界からアーノムギトーゲまで、紆余曲折しながら来たデスし、距離がありすぎて目視なんかできないデス」
「あ、そっか」
確かにアリアの言う通りだ。
「分からないのよ。サイレント並の気配察知の使い手かもしれないのよ」
「師匠の気配察知は追ってくる人が特定できるわけではないデスよね?」
「うん。気配察知の有効範囲にいる形がなんとなく分かるだけ」
「一流のアサシンの師匠でさえも、形がなんとなく分かるだけなのに、追手はどうやって師匠だと認識できるんデスか?」
「それもそうだ」
「空を飛べて、目視で確認できる範囲で師匠を追ってこない限り、師匠を追うことは不可能デス」
「確かに、アリアちゃんの言う通りなのよ。空を飛べるうえに目まで良いダークドラゴンみたいな魔物や、風魔法が得意で執念深いヴァンパイア・あげはみたいな魔法使いに恨まれでもしない限り、サイレントを追ってくるのは不可能なのよ……って、どうしてサイレントは地面に這いつくばっているのよ?」
院長先生が心当たりのある生物に恨まれまくっているという事実をつきつけてくるからだよ。
ボクが追われている可能性のほうが高いじゃないか……
泣きそうなんですけど。
「気を確かに持つのよ、サイレント」
ぽんと肩を叩いてくれる院長先生。
「そうですよね」
さすが、院長先生、ボクのことを気遣ってくれるなんて、優しすぎますよ。
「あなたがここでうずくまっていたら、私たちのご飯を食べるのが遅くなるのよ」
「え?」
そっち?
「はやく気配察知をつかって、何か食材をゲットしてくるのよ。肉でも魚でも野菜でもなんでもいいのよ。あ、でも、アーノム・ギトーゲ周辺は、ウサギがおいしいからできればウサギがいいのよ」
じゅるりとよだれを垂らす院長先生。
落ち込んでいるボクを馬車馬のように働かせようだなんて、血も涙もないな、院長先生は。
「あのですね……今こうしている間にもボクは命を狙われているかもしれないんですよ?」
「師匠、さっきも言いましたが、師匠を追っている可能性は低いデス。いわゆる気のし過ぎというやつデス」
「そうなのかな……」
ボクがこたえると、ボクのおなかも『ぐー』となった。
「おなかが減っているから、ネガティブに考えちゃうのよ、サイレント。まずは腹ごしらえをするが一番なのよ!!」
院長先生の言うように、背に腹は代えられない。
まずは、追ってきている誰かよりも、食事が優先だ。
「分かりました!! 食材を探しましょう!!」
「その意気なのよ、サイレント。みんなでウサギを100羽、捕まえるのよ」
「100羽は多すぎで食べられないんじゃないデスか?」
数は分からないけど、アリアの驚きようから、とんでもない量だということは分かった。
「そんなことないのよ。朝ごはんはしっかりと食べないといけないのよ。100羽くらいでやっとおなかが満たされるのよ、ね、サイレント?」
「院長先生ならぺろりと平らげますね」
「そんなに狩るのは難しそうデス」
「みんなで一緒に行動したら難しいかもしれないけど、個別に分かれれば難しい数じゃないのよ」
「そうやってバラバラになった後にボクを見捨てて逃げる気じゃないでしょうね?」
「ここまで来てさすがに逃げないのよ」
言い方からしてどうやらウソではなさそうだ。
「わかりました。それなら食材探しのために、一度ばらばらになって、食材を見つけ次第ここに集まりましょう。各自ケガなどをしないように、気を付けてくださいね」
「それはこっちのセリフなのよ」
「サバイバルの達人のボクがケガなんかするわけないですよ」
「ケガよりも気をつけなきゃいけないことがあるのよ」
「そんなことあります?」
ケガよりも気をつけなきゃいけないことなんかないでしょ、絶対に。
「あなたは全国指名手配されているんだから、名前を呼ばれても絶対に反応しちゃダメなのよ」
あ、そっちか。
「もちろんです!! 今から誰に名前を呼ばれても絶対に反応しませんから」
ボクは笑顔でサムズアップする。
「本当に大丈夫なのよ? 私やアリアちゃんに呼ばれても反応しちゃいけないのよ」
「分かっていますって」
「それなら良かったのよ。ところで、サイレント!!」
「なんですか、院長先生」
ボクが振り返ると、院長先生は『はぁー』と深いため息をついた。
「反応しているじゃないのよ」
あ、しまった。
つい反応してしまった。
「大丈夫です。次からは反応しませんから」
「本当に頼むのよ、サイレント」
「分かっていますって」
「また反応しているのよ」
ため息をつきながら、呆れた目でこちらを見てくる院長先生。
やめて、そんな目で見ないで。
「大丈夫です。泥船に乗った気でいてください」
「泥船は泥で作られた船なのだから、そんな船に乗ったら、すぐに沈んじゃうのよ」
あ、間違った。
忙しい人のためのまとめ話
サイレント、おなかがすいたので、食材探しをすることにする。
サイレント、院長先生に呼ばれて返事をする。