第4話 サイレント、信じられるのはアリアだけだと悟る
これまでのあらすじ
院長先生、おなかがすく。
院長先生、サイレントから逃げようとする。
「見捨てないでください、お願いですから」
ボクは土下座の姿勢から、全力でジャンプして、院長先生の手首を全力で握りしめた。
「痛いのよ!!」
「あ、すみません。つい、院長先生を逃すまいと思って」
「むー、何でアリアじゃなくて、院長先生を選ぶんデスか……」
「何か言った、アリア?」
「何でもないデス」
ぷいと顔をそむけるアリア。
「何でもなくはなさそうだけど……」
小声でよく聞き取れなかったけど、アリアが頬を膨らましているのだけは理解できた。
でもボク、アリアを怒らせるようなことを言ったかな?
「ふっふっふっ」
急に勝ち誇ったかのように笑い出す院長先生。
「何で急に笑い出したんですか、院長先生?」
「はたから見れば、見捨てられたくなくて、私をサイレントが引き留めているように見えるのよ。これを笑わずにはいられないのよ。そこまで私のことを望むなら、人生の伴侶になることも考えてあげるのよ、サイレント」
「あ、そういう意味で引き留めているわけじゃないですよ」
全力で否定するボク。
勢いあまって、院長先生を握っていた手を離してしまった。
「そうデスよね、師匠は院長先生を選んだわけじゃないんデスよね」
さっきとはうってかわって、ぱぁっと笑顔になるアリア。
なんて、情緒不安定なんだ、アリアは。
そういえば、ブリジットもアイズもアリアと同じくらいの時は、箸が転んでも笑っていたっけ。
きっと、アリアもそういったお年頃なんだろう。
情緒不安定でも仕方ないのかもしれない。
「私と伴侶になる気がないなら、さようならなのよ、サイレント。私はアリアちゃんと婚約するのよ」
院長先生は、ボクを見捨てて、アリアをさらおうとした。
「逃がしませんよ」
ボクは空中を移動するスキル『空動』をつかって、空を飛んでいる院長先生のち足にもう一度しがみついた。
「ちょっと、離すのよ。サイレントとアリアちゃんの二人分は支えきれないのよ。このままだと、アリアちゃんも私も大ケガなのよ」
「絶対に離しませんから」
見捨てられるくらいなら、死なばもろともだ。
「むー、どうして、アリアじゃなくて、院長先生の足なんデスか……」
「何か言った? アリア?」
また声が小さくて聞こえなかったんだけど。
「アリアは師匠を見捨てないって言ったんデス」
院長先生の手から逃げ出したアリアは、叫びながら、ボクの方へと飛んできた。
「飛んだ? もしかして、アリア、魔眼でボクのスキル、空動をコピーしたのかい?」
ボクは、院長先生から手を離し、アリアを捕まえようとした。
「してないデス。アリアには師匠みたいに、空気を蹴る筋力がないデスから」
「確認なんだけど、アリアって空を飛べるの?」
アリアは魔族だから、服の下に羽があって空を飛べる可能性もかもあるので確認をする。
「飛べないデス」
「それなら、なんでこんな危ないことをしたのさ?」
空が飛べないなら、自殺行為じゃないか。
飛べないアリアはただのアリアなんだから。
「アリアは師匠についていくという意志を見せたかったんデス」
がしっとボクの体を掴んでくるアリア。
「アリア……これが師弟愛ってやつだね」
ボクはアリアをお姫様抱っこで受け止め、空動を使い落下速度を減速させる。
「師弟愛じゃなくて本当の愛デス」
「何か言った? アリア?」
アリアがボソッとつぶやくから、風が強いせいでよくききとれなかったんだけど。
「何でもないデス」
「アリアちゃん、ダメなのよ。ここは私と愛の逃避行をする場面なのよ」
追ってくる院長先生がアリアを必死に引き留める。
「あなたなんかと愛の逃避行なんかしないデス。アリアは師匠と一緒なんデスから」
アリアは、ぷいと院長先生から顔をそむけ、ボクの手を握ってくる。
完全に嫌われたね、院長先生。
自業自得だよ。
「信じられるのは君だけだよ、アリア」
ボクも握られた手をがっしりと握り返した。
本当にいい人……じゃなかった、いい魔族だね、アリアは。
どこかの堕天使さんとは大違いだ。
「そうデス、師匠はアリアだけを信じていればいいんデス」
天真爛漫な笑顔をするアリア。
「アリア」
ボクとアリアは見つめあう。
「ちょっと、サイレント!!」
横から院長先生の顔が目の前に飛び込んできた。
「うわっ、まだいたんですか、院長先生?」
ボクをあっさりと見捨ててどこかへ行っているかと思いましたよ。
「そりゃあ、アリアちゃんがパーティーを抜け出さないというのなら、私も残るしかないのよ」
「無理して残らなくてもいいですよ」
ボクを見捨てようとしたんだし。
「そういうわけにもいかないのよ。あなたはすでに、アリアちゃんと婚約しているのよ? もしも、アリアちゃんがパーティーに残れば、このままゴールインする可能性が高いのよ」
「う!!」
神様の作った杖で婚約解消するつもりが、できなかったわけだし。
「そんなことになれば、文字通り全世界を敵にするということなのよ。さすがに見過ごすわけにはいかないのよ」
ボクだけに聞こえるように耳元でささやく院長先生。
そして、しかめ面でこちらをにらんでくるアリア。
「あ、そうだった」
アリアは魔族で、しかもボクとアリアは婚約しているんだった。
「せっかく、サイレントを見捨てる演技をして、アリアちゃんをサイレントから強制的に引き離し、結婚を諦めさせようとしたのに、台無しなのよ」
「院長先生、本当はボクのことを見捨てていなかったんですね」
ボクは院長先生の手をがしりと取る。
「当たり前なのよ。純真無垢な私が、サイレントを本気で見捨てるわけがないのよ」
ボクの手をがしりと握り返してくる院長先生。
「院長先生!!」
そうか、さっきまではボクを思っての演技だったのか。
演技だとは気づかないほど迫真の演技だったな。
「本当は演技じゃなくて、アリアちゃんと逃げて、駆け落ちをするつもりだったけど、アリアちゃんがパーティに残るというなら作戦変更なのよ。このままパーティに残って、アリアちゃんがサイレントにフラれた後、私が優しく慰めてあげれば、アリアちゃんととんとん拍子でめでたく結婚できるのよ。げへへ」
「何か言いましたか、院長先生?」
小さい声で聞こえなかったけど。
「何でもないのよ、こっちの話なのよ」
忙しい人のためのまとめ話
サイレント、信じられるのはアリアだけだと再確認する。
アリアがサイレントについていくので、院長先生もついていくことを決める