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第3話 サイレント、院長先生に頼み込む

これまでのあらすじ

 フランケン・シュタインはヴァンパイア・あげはが言っていた魔物。

 王様はヴァンパイア・あげはに操られているという極秘事項を知る。

「今のお腹の音、院長先生ですか?」

「レディにお腹が鳴ったか聞くのは、不躾なのよ、サイレント」


 バチンとボクの肩を叩く院長先生。

 レディだって?


「いやいや、院長先生は成人していない堕天使だから、男でも女でもないですよね?」

「もう、サイレント、細かいことは気にしない」


「細かくないですよ!!」

「もしも、おなかが鳴ったのがアリアちゃんだったら、同じことを聞けるの? サイレント?」


「それは……聞けません」

「ほら、聞けないじゃないのよ」


 院長先生が胸を張ると、『ぐー』。

 もう一度おなかの音が鳴り響いた。


「おなかがすきすぎているから、力がでないのよ」

「そういえば、アリアもデス」


「サイレントはどうなのよ?」

「ボクはそこまですいてないですね。ボク、アサシンですから」


 そう、ボクの職業はアサシン。

 何日も絶食することもあるから、これくらいは慣れっこだ。


「それなら、アリアちゃんと私だけで朝ごはんにするのよ。それじゃあ、サイレント、また今度なのよ」


 院長先生は手を振ってきたので、ボクも振り返した。


 そうか、そうか。

 アリアと一緒に食事をとるんだね。

 ん?


「アリアと院長先生だけで食事? なんでボクだけ仲間外れなんですか?」

 確かに、おなかはそんなに別に一緒に食べてもいいよね?


「…………」

 ボクの質問に答えないどころか、目も合わさずにアリアをお姫様抱っこして飛び立とうとする院長先生。


 これは院長先生が都合の悪いときに逃げるときの態度だ。


「逃げないでくださいよ、院長先生!!」

 ボクは逃げようとしている院長先生の腕を掴む。


「逃げるわけじゃないのよ、サイレント。あなたと一緒にいたら、私たちまで指名手配されかねないから、物理的にも心理的にも距離をとっているだけなのよ」

 なんだ、物理的にも心理的にも距離をとっているだけか……


「……それってつまり、逃げる気満々ってことですよね?」

「逃げるというよりは、ほとぼりが冷めるまで、あなたと距離をとるということなのよ。言い換えるならば、そう、これは『戦略的撤退』なのよ。『戦略的撤退』って分かる? サイレント?」


「それは、まあ、分かりますよ」


『センリョクテキテッタイ』ってどういう意味なんだろう??

 分からないけど、ここで分からないなんて言ったら、バカにされるのは火を見るよりも明らかだ。

 アリアにバカだとは思われたくないから知ったかぶりしておこう。


「それなら、私の言わんとしていることも分かるはずなのよ」

「もちろんですよ」


「それなら言ってみるのよ」

「えっと……つまり、院長先生が言いたいことは『センリャクテキテッタイ』ってことですね」


「その通りなのよ」

「それなら先に言ってくださいよ。ボクはまた、院長先生がボクのことを見捨てて逃げるものだとばっかり思ってましたよ」


「そんなわけないのよ。大事なことだからもう一回言うのよ。私は逃げるんじゃなくて『戦略的撤退』をするだけなのよ」


 アリアを抱えながら、ボクに背を向けて、大きな岩の上に登る院長先生。

 そうだよね、院長先生がボクを見捨てるわけがない。

 ん? ちょっと待てよ。


「『撤退』って言葉は確か、逃げるって意味じゃなかったでしたっけ??」

 院長先生がボクの方を振り返ると、その小さな体躯は太陽を隠し、院長先生の顔はいつもより影が濃くなった。


「勘のいいサイレントは好きじゃないのよ」

 岩の上で顔を上げて、ボクを見下ろしながら冷たい言葉を発する院長先生。

 院長先生め、逃げるという言葉を戦略的撤退という言葉に変えて、ボクをごまかすつもりだったな。


「いくらボクでも気づきますよ!! 逃げないでくださいよ!!」

「何で逆ギレしているのよ?」


「逆切れじゃなくて、これは正当なブチ切れです」

「だから、それがおかしいのよ」


「え?」

 なんで、ボク、怒鳴られているんだろう?


「だって、そうなのよ。あなたは全国指名手配犯なのよ。普通は『助けてください、お願いします』……じゃないのよ? それを、『逃げないでくださいよ!!』とキレてくるのはお角違いなのよ」

「確かに」

 ボクは完全にうなずいてしまった。


「反省したなら態度を改めるといいのよ」

 キレる院長先生。


 あ、まずい。

 院長先生を完全に怒らせちゃった。

 ここは素直に誠意を見せるしかない。


「すみません、お願いですから見捨てないでください」

 ボクはすぐさま土下座をした。


「ふー、仕方ないのよ。気配察知するのをやめて、もうちょっと土下座をし続けたら、見捨てないであげるのよ」

「分かりました」

 ボクは言われたとおりに気配察知するのをやめて、おでこを地面にこすりつける。


 あれ?

 でも何で気配察知するのをやめなければならないんだろう?


 ま、いっか。

 言われたとおりにすることが誠意を見せることなんだし。

 誠意を見せれば、院長先生もボクを見捨てないでくれるはずだ


「師匠、顔をあげるデス!!」

 アリアが叫ぶので、ボクは顔を上げようとした。


「ダメなのよ、サイレント、もう少しの間、誠意を見せないといけないのよ!!」

 うっ、院長先生に焦って言われると顔を上げにくい。


 ん?

 院長先生が焦っている?


 ボクが誠意を見せているのに、何で焦る必要があるんだ?

 これはアリアの言う通り、一度顔を上げて、もう一度土下座しなおしたほうが良さそうだ。

 ボクがそう思って顔をあげると、先ほどまでいた場所に院長先生もアリアもいなかった。


 あれ?

 どこに行ったんだ?

 きょろきょろとあたりを見回すが、やはり院長先生もアリアも見当たらない。


「師匠、上デス」

 上?

 ボクが見上げると、空には黒い羽を広げ、アリアをお姫様抱っこした院長先生の姿があった。


「……って、誠意を見せても、見捨てる気満々じゃないですか!!」

「もちろんなのよ。サイレントと一緒に行動したら、私たちまで捕まっちゃうのよ。巻き添えはごめんこうむるのよ」

 院長先生は満面の笑みで返答した。


忙しい人のためのまとめ話

 院長先生、おなかがすく。

 院長先生、サイレントから逃げようとする。

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