第2話 サイレントたち、王様の極秘事項を耳にする
これまでのあらすじ
サイレント、全国指名手配の仲間がいることに浮かれる。
全国指名手配の仲間はどこかで聞いたことある名前だけど、思い出せない。
「フランケン・シュタインは天界でヴァンパイア・あげはが言っていた名前デス」
ボクはポンと手を打った。
あ、そうだ。
ヴァンパイア・あげはが言っていたんだ。
フランケン・シュタインとボクのことだけは許さないって。
「誰なんだよ、まったく」
「フランケン・シュタインとは、魔王軍の四天王の一人で、Sランクの魔物デス」
「さすがはアリア。魔物のことに詳しいね」
それはそうだ。
口には出せないけど、アリアは魔族なんだもの。
「そんなことないデス」
「……って、ちょっと待って。フランケン・シュタインってSランクなの!? Sランクの魔物が入国できるわけないじゃないか!!」
「そうとは言い切れないデスよ」
「いやいや、ありえないって」
Sランクと言えば、スライムよりも弱いんだから、入国しようとした時点で、警備兵にやられて終わりだよ。
そんな弱い魔物を全国指名手配するなんて、何を考えているんだ、王様は。
頭がボクより悪いのか?
いやいや、仮にも一国の王様がボクより頭が悪いとは考えにくい。
それなら、王様はなぜ、ボクとSランクのフランケン・シュタインを同時に指名手配したのか……
「もしかして、王様ってヴァンパイア・あげはに噛まれて、操られているんじゃないか?」
ボクは思うよりも先に口に出してしまっていた。
「藪から棒に、何でそうなるのよ?」
「だって、ヴァンパイア・あげはが恨んでいるフランケン・シュタインとボクが同時に全国指名手配されるなんて、偶然にしてはできすぎているじゃないですか」
「いくら何でもそれはないデス」「そうなのよ。考えすぎなのよ」
「そうですよね」
「「「あははははは……」」」
ボクと院長先生とアリアは同時に声高らかに笑いあった。
「今、お前たち『あげは』って言ったか? その言葉、時々王様がつぶやいている言葉だぞ」「おい、バカ。それは言ってはいけない極秘事項だぞ」「おい、極秘事項を極秘事項だと漏らすなんて、お前の方がバカじゃないか!!」
ここの兵士たちはボクよりバカなのか!?
極秘事項を極秘事項だと大声で叫ぶなんて……
「「「おい、お前たち、今の極秘事項を聞いていたか?」」」
そこにいたすべての兵士たちは、ぎろりとこちらをにらみつけてくる。
はい、聞きました……なんて言ったら最後、身柄を地下牢に一生拘束されそうだ。
さて、なんて答えるのが正解か……
「極秘事項って、何の話なのよ?」
ボクが返答に困っていると、院長先生が真顔でとぼけた。
さすが院長先生だ。
こんな時でも、冷静にとぼけられるなんて。
よし、このままの流れに乗っかろう。
「ボク達、何も聞いてませんよ。ね、アリア?」
「いえ、アリアは……むぐっ」
アリアが本当のことを言おうとしたので、院長先生は背負っていたアリアを片手で抱きかかえると、空いているもう片方の手でアリアの口をふさいだ。
ナイス、院長先生。
「もちろん、この子も何も聞いているはずがないのよ。さて、私たちは門番のいる地上から入国しないといけないのよ」
「ここから入国できないなら、門の方へ行きましょう、入国するために!! 院長先生、アリア!!」
「そうなのよ、それがいいのよ」
ボクと院長先生は大げさに手振り身振りをしながら、そそくさとその場から離れた。
後ろから、挙動がまるで三文芝居みたいだな……と兵士がつぶやいたのは聞かなかったことにしよう。
「王様はきっとあげはに噛まれて操られているのよ!!」
アーノム・ギトーゲの近くにある湖畔へと降り立つやいなや、周囲に誰もいないことを確認すると、院長先生は大きな声で叫んだ。
「それはないと思うデス」
「どうしてそう思うの?」
「もし、ヴァンパイア・あげはが王様を操っていたとしたなら、王様に降伏宣言をさせて、すぐさま人間界を乗っ取るはずデスから」
「確かに」
アリアの言う通り、魔王は人間を降伏させてから、天界に攻め込む算段だったはずだ。
王様がヴァンパイア・あげはの支配下におかれているならば、いつでも降伏宣言をさせることができたはずなのに、それをしなかったというのは明らかにおかしい。
「魔王への愛ゆえに、日焼けした肌を白い肌に戻そうと先走って、そこまで考えが回らなかったのよ!!」
「あ、確かに、ありえますね」
ボクと同じくらい頭が悪かったからなぁ、ヴァンパイア・あげは。
「ちょっと待って欲しいデス。師匠は神様の作った杖で、あげはの支配にあった天使たちを解放したんデスよね? それなら、王様も解放されているんではないデスか?」
「あ、確かにそうだ」
そうだよ。
ボクが神の杖で願ったから、天使たちは解放されたんだよ。
「それはちょっと違うのよ」
「違う? 何が違うんですか?」
「私の記憶が確かなら、サイレントは『ヴァンパイアの奴隷となった天使に囲まれたから、どうにかして?』って、願ったはずなのよ」
「確かに、そう願いましたね」
「サイレントの願いの中に人間は入っていないのよ!!」
「確かにその通りだ。今の今まで、あげはに噛まれたのは天使だけだと思っていましたもん」
「なるほど、それなら納得デス」
「あの時、あげはに噛まれたすべての人も天使も魔族も助けてくれと願ってさえいれば、今頃、王様も正気だっただろうに……」
「仕方ないのよ。まさか、あげはの毒牙が人間まで届いているなんて誰も思ってなかったのよ」
「そうデスよ」
院長先生とアリアはボクを励ましてくれた。
「そうですよね。誰も知りえなかったことですもんね。はぁ、これからあげはに噛まれたの人間は全員ボクの敵ということか……」
ボクは肩を落とした。
「何、悠長なことを言っているのサイレント?」
「え?」
「あなたは王様が懸賞金付きで全国指名手配しているのよ。全国民があなたの敵と言っても過言ではないのよ」
そうだよ、全国民がボクの敵になったばかりじゃないか。
「指名手配書は今から全国にばらまかれ、これからボクは全国指名手配として生き、全国指名手配として死んでいくしかないってことですか?」
「まあ、そういうことになるのよ」
平穏な暮らしはできないってことか……
しかもボクだけ。
「そんな……これからボクはどうすればいいんだ……」
ボクは四つん這いになって落ち込む。
「ごめんなさいなのよ。教え子が指名手配された時、どうすればよいか分からないのよ」
「かくまってくれればいいと思いますよ」
ボクが苦笑いで返答すると、『ぐー』と誰かの腹時計が鳴り響きわたり、院長先生はにっこりと笑った。
忙しい人のためのまとめ話
フランケン・シュタインはヴァンパイア・あげはが言っていた魔物。
王様はヴァンパイア・あげはに操られているという極秘事項を知る。