第68話 アリア、どうでもいいことが気になる
これまでのあらすじ
サイレント、神バリアを壊そうとするが天使たちに笑われる。
サイレント、神バリアをダガーで壊し、天使たちの度肝を抜く。
「アリア……ボク、落ちちゃう」
アリアをキャッチしたはいいものの、空動はボク一人支えるので精いっぱいだ。
抱き着かれたら落ちていくしかないじゃないか。
「アリアちゃん、はやく私に抱き着くのよ。落ちている最中だから、ちょっときつく抱き着いてしまうかもしれないけど……げへへ」
院長先生は両手を広げ、アリアを捕まえようとする。
ゲスな笑顔を作って。
「抱き着くには及ばないデス。今は、セーフティ・ネットの上デスから」
アリアの言う通りだ。
アリアに抱き着かれて、落下していたから焦っていたけど、セーフティ・ネットの上だから落下なんかしないんだ。
こういう時でもアリアは冷静だな。
「そういうことじゃないのよ。はやく私地上に逃げないと、天使たちが追ってくるのよ」
「院長先生の言う通りだ。アリア、院長先生に抱き着くんだ」
そうだよ。
忘れていたけど、ボク達、天使に追われているんだった。
はやく逃げないと。
「いやデス。アリアは師匠がいいデス」
がしっとボクに抱き着くアリア。
「わがまま言っている場合じゃないんだ、天使が追いかけてくるから時間がないんだってば!!」
「師匠が言う天使たちは、アリアたちをどころじゃないみたいデスけど?」
アリアは追いかけていた天使たちを指さす。
「神バリアが壊れただと?」「もし、このことが魔族に知られたら、魔族は天界へ入り放題」「天使長官がひん死状態だというのに、我々はどうすれば……」
あっけに取られる天使や、パニックに陥る天使で大混乱だ。
自分たちが逃げるためとはいえ、何かすみません。
「今は落ち込んでいるけど、立ち直ったらすぐにでも追ってくるに決まっているんだから、さっさと天界とは、おさらばしよう」
「分かったデス」
「さあ、抱き着くのよ、アリアちゃん」
院長先生は面と向かってアリアを抱きしめようとした。
「よろしくお願いしますデス」
アリアは優雅にお辞儀をした後、院長先生の両腕から逃れ、ひょいと背後に回り込むと、院長先生の首に手をまわす。
「アリアちゃん、別におんぶじゃなくてもいいのよ? ほら、おんぶだと、私の翼がアリアちゃんの体に当たって、うまく飛べないかもしれないのよ」
正面から抱擁をするつもり満々だっただろう院長先生は、背後にいるアリアに提案する。
「うまく飛べないなら、師匠の空動の技をコピーして、一人で降りるデス。今は全身が痛くて空動はできなさそうデスが、もう少し休めば、痛みもとれて、コピーできそうデスし」
「おんぶして飛ぶくらい簡単なのよ!! さあ、はやく、おぶさるのよ」
手の平を返して、すぐさまアリアを乗せる院長先生。
そこまでして、アリアと地上に帰りたいのか……
「分かったデス。本当はイヤデスが」
正直なアリア。
うん、こういう時でも正直だね。
「院長先生にアリア、準備は良い?」
アリアが院長先生におぶさってから確認をとる。
「もちろんなのよ」「大丈夫デス」
「それなら、地上に帰りましょう!!」
ボクはダガーでセーフティ・ネットを切り裂いて、穴から地上へとダイブした。
「ところで、師匠、気になることがあるデス」
ボクが空動を使い、減速しながら落下している途中で、院長先生の背中におぶさったアリアが尋ねてきた。
「何、アリア?」
「最初、ヴァンパイア・あげはは、門番天使に見つかって牢屋に捕まっていたデスよね?」
「うん、そうだね」
「牢屋に捕まっていたのに、どうやって逃げだしたデスか?」
それ、今、気になるところ?
「それは、牢屋で門番を噛んだ……からかな?」
ボクの予想だけど、それ以外考えられないよね。
「それはないのよ。牢屋に入れられる前に、拘束具で攻撃も魔法もできないように封じられるのよ」
はい、ボクの予想は間違っていました。
「それならどうやって、ヴァンパイアあげはは、牢屋から出たんデスか?」
「それは簡単なのよ。ヴァンパイアあげはは、門番の仕事をする前、後輩門番天使の首元に噛みついて、支配下においていたのよ」
「ああ、なるほど。以前から支配下においておけば、牢屋に入れられても、後輩門番に逃がすように命令すれば、簡単に逃げることができたということですね?」
ボクは納得しながら院長先生に確認する。
「そういうことなのよ」
うなずく院長先生。
「それでも、分からないことがあるデス」
「何がわからないのよ?」
「いつ門番天使はヴァンパイア・あげはに噛まれたか……デス」
「きっと、地上で行方不明のユニコーンを探しているときに、噛まれたのよ」
「果たしてそうデスかね」
「何か納得いかないことがあるの?」
「門番天使は重装備だったデス。行方不明のユニコーンを探していて、門番天使はどうやって、ヴァンパイアあげはに噛まれたんデスか?」
全然気にならなかったけど、言われてみれば、確かにおかしい。
門番天使は重装備で、全身アーマーに覆われていた。
突然、ヴァンパイア・あげはが襲ってきたとして、どうやって噛まれたのだろう?
「ヴァンパイア・あげはと死闘を繰り広げ、負けてしまい、重装備を脱がされて、噛みつかれたと考えるのが自然なのよ」
「死闘があったとは考えにくいデス」
「どうして、アリア?」
「門番天使の装備はピカピカで、傷がなかったからデス」
「言われてみれば、重装備はピカピカだった気がする」
「きっと、今日じゃなくて、かなり前からヴァンパイア・あげはに噛まれていたのよ」
「なるほど」
うん、それなら納得だ。
「仮に今日より前に死闘があったとして、ヴァンパイア・あげはが、重装備を脱がして、わざわざ首元に噛みついたデスか? それなら、脱着しやすい脚に噛みついた方が効率的じゃないデスか?」
アリアの言い分も一理ある。
「それなら、きっと、門番天使は装備を外してユニコーンを探していたのよ」
「ユニコーンを探すって、地上でデスよね? バリアが貼ってある天界ならいざ知らず、魔族が徘徊している地上で装備を脱ぐなんてことあるデスか?」
「きっと、地上には強い魔物はいないと舐めていたんだよ」
実際、ヴァンパイア・あげはもスライムより弱いSランクだし。
「そうデスかね……」
納得いかななさそうに曖昧にうなずくアリア。
「本人から直接聞き出していなかったんだから、真相は闇の中なのよ。アリアちゃんは何が気になるのよ?」
「いえ、ただ、門番天使がどこで噛まれたかが気になっただけデス」
「それなら、アリア、別に気にしなくてもいいんじゃない? 一件落着したわけだし」
別に門番天使が、いつどこでヴァンパイア・あげはに噛まれたなんて、どうでもいいこと、気にする必要ないじゃないか。
「そうデスよね」
今度はにっこりと笑顔でこたえてくれた。
忙しい人のためのまとめ
サイレント、天界を脱出する。
アリア、いつ門番天使がヴァンパイア・あげはに噛まれたかが気になる。